表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/64

化け物の正体


 ――ゴガガガガガガガガガアァァァァァァァ!!


 地面から再び咆哮が轟いてくる。

 それも一つではなく複数だ。


「咆哮は七つかな」


 真羅は落ち着いた様子で至極冷静に呟くと、【逢魔の杖(ケイン)】を呼び出して左手で構える。


 そして次の瞬間、大地を砕き、ナニカが飛び出してくる。


「「「「「「「――ガガガアアアアアアアアアッ!!」」」」」」」


 現れたのは、七体の白い龍。


 それぞれ額の宝玉の色こそ異なるが、先ほど倒した龍と同種の魔物だ。


「化け物ってのは一匹じゃないのかッ!?」


 白い龍が複数体存在していたことに、サラが困惑の声を上げる中、真羅は相変わらず落ち着いた様子で地面を見ていた。


「おい! シンラ! なに下を見てんだ! 敵は目の前だぞ!」


 サラは見当違いな方を見ている真羅の肩を揺するが、彼は変わらず地面を見ながら徐に口を開く。


「いや……一匹だよ」


 突然、要領を得ないことを言う。


「はあ?」


 言葉の意味が分からず、サラは思わず間の抜けた声を出してしまう。


「いやいや! 見てよ、シンラ! さっきの魔物が追加で七体もいるよ!」


 強敵が増えたことにレイルシアは焦りの表情を見せながら、下ばかり見ている真羅の顔を掴み強引に前に向ける。


「おい。別に目の前が見えてない訳じゃないぞ」


 心外だと不満げな表情を浮かべながら、真羅はレイルシアの手を払い除ける。


「あー、ごめん。言葉が足りなかった……こいつらは地面の下で繋がってるんだ。恐らく、胴体は一つなんだろう」


「え? こいつらは八つの頭を持つ一体の龍ってこと?」


「多分な」


 魔力を辿れる真羅の魔眼は、この八体の龍の首が地中で一ヶ所に繋がっていることを見抜いていた。

 この龍は八体いる訳ではなく、一体の八頭龍の魔物であったのだ。


八岐大蛇(ヤマタノオロチ)みたいだな」


「やまたのおろち? なんだそれ?」


「俺の故郷の御伽噺に出てくる化け物さ」


 ――八岐大蛇。


 日本神話に登場する伝説上の生物であり、須佐之男命(スサノオノミコト)によって退治された巨大な怪物。

 頭が八つ、尾も八つあり、その体は谷を八つ渡るほど巨大な蛇のような姿をしており、一説には山の神や水の神とも伝えれている。


 目の前にいるこの龍のような魔物は、全長や尾こそ確認できないが、神話に伝わる八岐大蛇の最も有名な特徴である八つの頭を持っており、真羅がそう例えたのも強ち間違ってはないだろう。


「――って、のんびりお話してる場合じゃないな。来るぞ!」


 新たに現れた七つの龍頭は、大きく息を吸い込むと一斉に竜の吐息(ドラゴンブレス)を吐いてくる。

 それも先ほどの頭とは異なり、七頭全てが異なった属性の吐息(ブレス)、火、水、風、雷、土、木、光の七属性のものが真羅たちに襲い掛かってくる。


「二人とも! 俺の後ろに!――フィル!」


 咄嗟に二人を庇うように前に飛び出ると、真羅は盾の精霊であるフィルの力で障壁を展開した。


 三人を囲むように半球状に展開された障壁は、七属性の竜の吐息(ドラゴンブレス)にさらされるも、全く揺らぐことなく見事に防ぎ切る。


「頭によって属性が違うみたいだな。属性は額の玉が力の源みたいだな」


 龍頭の額にはそれぞれ異なる色の宝玉があり、それが属性エネルギーの根幹になっているようだ。

 

 真羅が七頭の特性を冷静に分析していると、真羅の背後にいた二人が焦りながら足早に近づいてくる。


「どうすんだ!? 一頭でも厄介なのに頭数は向こうが上だぜ!」


「そうだよ! 全頭があの再生能力を持ってるとしたら、かなり大変だよ! 何か弱点はないのかな?」


「弱点か……あっ、酒」


 レイルシアが言った弱点という言葉に、真羅はふと八岐大蛇の伝説を思い出す。


 神話では、須佐之男命が八岐大蛇を戦う際に、八塩折之酒という強い酒を飲ませて酔って眠らせてから退治したと伝わっている。


「酒? 酒がなんだって?」


 何気なく口にした言葉に、サラが疑問符を浮かべながら尋ねてくる。


「八岐大蛇は酒を飲ませて酔っぱらったところを退治されたんだ。もしかしたら奴にも効くかもしれない」

 

「効くかもしれないって……酒なんて持ってねーし、そもそもあんなデカブツを酔わせるほど大量の酒なんて用意できねーよ!」


 真羅の提案に対して、サラはもっともなことを言う。


 あれだけの巨体を誇る上に、七頭全てを酔わせるほどお酒を用意するなど現実的ではない。


「いや、適任な子がいる。任せてくれ」


 言い出しっぺの真羅には何か考えがあるようで、不敵な笑みを絶やさず徐に一歩前へと出る。


「極上の美酒をプレゼントしてやれ――ギムレ!」


 口にしたのは呪文ではなく、誰かの名前。

 しかし、それだけで神秘は顕現する。


 真羅が手に構えた【逢魔の杖(ケイン)】を振るうと、七頭の龍を白い霧が包む。


 七頭の龍は自身を包む霧を首を振って払おうとするが、魔力により編まれた霧はそのぐらいでは消えず、徐々に苛立ってきたのか、怒声を上げながら吐息(ブレス)を吐こうと大きく息を吸い始めた。


 その際に霧も一緒に吸い込んでしまい、次第にその白い顔に赤みを帯びていき、徐々に動きがおぼつかなくなっていく。


「昼間っから酔っ払っちまいな」

 

 真羅はそう吐き捨てると、ケインを霧に向けて鞭を入れるように振るう。


 すると、漂っていた霧が意志を持ったように動き出し、龍の口の中から体内へと侵入していった。


「どうだ? 俺の【酔わせ魅せる霊酒(ギムレ)】の味は?」


 そう、真羅の魔霊を呼び出したのだ。

 それも、相手を酔わせて魅せる魔性の霊酒を生み出す酒の魔霊をだ。


「本当に酔っ払らせやがった!」


 べろべろに酔っ払ってしまった龍たちを見て、サラが驚きの声を上げる。


 彼女からすれば、相手を酔わせる魔法など聞いたこともないし、もしも魔法の存在を知っていたとしても、人一人酔わせるならばともかく、この巨大な魔物に効果を出すのにどれだけの魔力を必要とするかを考えると、とても実行することはできない。


 真羅は簡単にやってのけたが、実際のところ並の魔術師では大分難易度が高く、仮に行えたとしても自身の魔力(オド)の大半を消費してしまう結果になるだろう。


 しかし、この男はこの規模の神秘を起こしたのに、全く消耗した様子がない。


 実を言うと、これには絡繰りがあり、真羅はこの魔霊を行使するのに自身の魔力(オド)は使用しない。


 魔霊は完全ではないが、ある程度は真羅から独立した存在であるため、自分で魔力を生成することできる。

 そのため、魔霊が力を行使する際は、魔霊自身の魔力を使用するので、主である真羅は自分の魔力を消費せずに魔術を行使することが可能になっているのだ。


 因みに、【逢魔の杖(ケイン)】を使用したことで、通常よりも魔術の格が上がっているため、酔いが回る時間も本来より早くなっている。


「お疲れさん。ギムレ、ケイン」


 労いの言葉を口にすると、真羅はケインを自身の中へ戻して七頭の龍に向き直る。


「もう眠っちゃいそうだな」


 泥酔状態の龍たちは、睡魔に襲われてまともに動くことができなくなっていた。


「これで奴は碌に動けない。一気に畳み掛けるぞ!」

 

 そう言うと、相変わらず返答を待たずして飛び出した真羅は、水月を抜刀して隙だらけになった龍に斬りかかる。

 

「――六爪(ろくそう)!」


 一振りで六つの斬撃が同時に放たれ、赤い宝玉の龍の首を斬り刻む。


「こいつは火属性かな?」


 どうでもよさげに落とした頭を一瞥すると、真羅は次の龍頭に狙いを定めて指先から魔弾を放つ。


 放たれた魔弾はかなりの魔力が籠められていたいたようで、直撃した青色の宝玉を持つ龍の頭を、大きく後方に弾き飛ばすも、大したダメージは与えられなかった。


「やはりな……こいつ結構神秘の格が高いな。まったく、指魔弾は使い勝手は良いが、このレベルの相手には効かないのは難点だな……」


 対人戦では牽制として優秀だった指紋の魔弾も、この世界の高位の魔物には通りが悪い。


 魔神によって生み出され、存在自体が神秘を内包している魔物が相手では、位階(ランク)の低いの魔術は低位魔術崩壊ローミスティックブレイクを起こしてしまうため効果が薄いのだ。


(その内、もっと強力な術に変えようかな……)


 今後、高位の魔物や使い手と相対した時のことを考えると、掌の魔術刻印は魔弾よりも別のモノに変更した方が良いかもしれない。


 真羅がそんなことを考えていると、少し遅れてレイルシアとサラも行動を開始する。


「いくよ! ――煌きの流星群!」


 レイルシアの魔力が高まったかと思うと、彼女の両手から銀の光が放たれる。


 放たれた光は無数に分裂すると、白い龍たちに流星のように降り注ぐ。


「「――グガァッ!?」」


 銀の流星は一つ一つは小型だが籠められた魔力はかなりのものであり、手前の方にいた茶色と緑色の宝玉を持つ二頭に集中的に当たり、その体を蜂の巣のように穴だらけにする。

 二頭はその脅威の再生能力を持って回復を図るも、真羅の付与(エンチャント)した再生阻害の魔術により、受けた傷を治すことができずそのまま倒れ伏す。


「二つの頭を倒したよ!」


「さすが精霊……ああも簡単にあの格の神秘を起こすのか」


 龍を二頭仕留めたレイルシアが自慢げに誇る中、真羅は彼女の放った技の威力に感心する。


 あの規模の神秘を魔術で起こすには、それなりの準備と工程が必要だが、レイルシアは魔力を放つという一工程だけで起こしている。

 色々と未熟なところがある彼女だが、その秘めたる力は紛れもなく高位の精霊に相応しいものだろう。


「俺も負けてられないなー」


 そう言いながらも真羅の体は動いてあり、水月を流水モードにして投擲し、青色の宝玉を持つ龍の首を落とす。


「茶色は土、緑は風、青は水の属性かな」


 倒した頭の属性を確認し、真羅はサラの方に視線を向けると、ちょうど彼女が黄緑色の宝玉の龍に斬りかかっていた。


「燃え盛れ、猫又! ――火焔斬り!」


 振り下ろされた魔剣・猫又は、刀身以上の長さの炎を纏っており、かなりの硬度を持つ龍の首を容易く焼き切った。


「よし! アタイも一匹仕留めたぞ!」


 サラは刀身の炎を振り払いながら、付近にいた黄色の宝玉の龍に向き直ると、猫又に再び魔力を籠める。

 すると、二又に分かれた柄の宝玉の内、今度は蒼い宝玉が輝く。


「凍てつけ、猫又!」


 その声に応えるように猫又の刀身が冷気に覆われると、サラはまるで猫のような身軽さで地面を蹴って跳び上がる。


「――氷結斬り!」


 凍てつく冷気を纏った刃が、黄色の宝玉の龍の頭部を斬り裂く。


「凍っちまいな!」


 一拍遅れて切り裂かれた部位から凍り付いていき、最終的には頭部全体を凍結させてしまう。

 

 頭部を凍らされた龍は、そのまま力なく地に倒れ伏した。


「へー、二種の能力があったのか。そんで、木属性の奴は焼き切って、雷属性の奴は脳みそごと凍らせたのか。あれじゃ、阻害は要らなかったかもな」


 サラの一連の動きを見た真羅は、再び感心したように呟く。


 彼女は魔剣の能力を切り替え、それぞれを通りに良い属性で攻撃することで撃破している。

 この龍たちは宝玉に秘められた属性エネルギーによって弱点が異なっているため、木属性には有利な火属性で焼き、炎の通りが悪い雷属性は凍り付かせて対処するのは、真羅から見ても有効な手段である。


「残るは一頭……こいつは光属性だな」


 それだけ確認すると、真羅はもう興味を失ったのか、つまらなそうに最後に残った白い宝玉の龍に向けて右手の掌を突き出す。


「――メツ。消し去っちまえ」


 掌から消滅の光が放たれる。


 酔い潰れている龍に回避する術などあるはずもなく、呆気なく光の奔流に呑まれて消滅する。


 ――【消滅の灯(メツ)


 あらゆる全てを消滅させるという単純(シンプル)だが強力無比な魔術。

 威力だけならば間違いなく真羅の魔術の中でも上位に入る魔霊であり、そんな気軽に撃っていいものではないのだが、彼は面倒になると、この魔霊を呼び出す傾向が強い。


 全ての龍頭を倒した真羅は、何気なく地面に埋まっている胴体が気になり、魔眼で見通して調べてみる。


「死んだにしては、魔力反応が大き過ぎる」


 魔力は神秘的な生命エネルギーだ。不死者(アンデット)亡霊(ゴースト)など特殊な例を除けば、息絶えた生物の魔力は霧散してしまう。

 にも拘らず、地中の胴体は依然として膨大な魔力を保有している。


「頭を潰されて生きている生物なんて滅多にいないんだけどなー」


 違和感を覚えた真羅は、顎を撫でながら考え込んでいると、レイルシアとサラが近寄ってくる。


「やったね! シンラ!」


「アタイたち、あの化け物を倒しちまったぜ!」


 勝利を確信して二人が歓喜の声を上げる中、真羅だけは浮かない表情で下を見続ける。


「どうしたんだ? 地面ばっか見て? まさか、まだ龍が隠れてるのか?」


 警戒を緩めない真羅の様子に、サラも臨戦態勢を取って魔剣を構える。


「え? まだ終わってないの?」


 状況が理解できていないレイルシアは、困惑しながら真羅に尋ねる。


「ああ、まだ終わってないみたいだな」


 そう真羅が答えると、再び大地が震え始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ