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遺跡の守護者


 しばらく階段を下っていくと広い空間に出た。


「ここか……」


 真羅たちの目の前には、巨大な像が何かを守っているかのように立っていた。


 像は甲冑を纏い、剣と盾を構えた騎士のような外見をしており、その勇ましい立ち姿はまさに守護者という言葉が相応しいだろう。


「何だ? 土塊と金属で出来た像?」


 突然現れた騎士の像に、サラがランタンを向ける。


「多分、というか確実に魔法で造られているな。これは……」


 どうやら像は土属性魔法で加工して造られたようで、本体は土塊、甲冑と剣、盾は未知の黒い金属で出来ている。


「何でこんな所に像が?」


 こんな遺跡の奥底に不自然な形で直立している像に、疑問を覚えたレイルシアが、不用意にも近づいてしまう。


「あっ、あんまり近寄らない方が……」


 真羅が像に接近するレイルシアを止めようとしたその時、像の瞳が妖しく輝いた。


「レイルシア!」


 逸早く異変を察した真羅が、魔術でレイルシアの体を引っ張る。


 その次の瞬間、先ほどまでレイルシアが立っていた場所に剣が突き刺さった。


「動いた!?」


 サラは像が剣を突き刺してきたことに驚きの声を上げるが、それとは対照的に真羅は冷静だった。


 レイルシアを魔術で引き寄せた真羅は、彼女と入れ替わるように前に出て像の腹部に蹴りを入れる。


「硬いな……」


 強化された蹴りを受けた騎士は大きく後退こそしたが、その鎧は無傷だった。


「これは真銀(ミスリル)以上の強度だな」


 真羅は初めて見る金属を冷静に分析する。


 彼が放った蹴りは、ただの蹴りではなく、魔術を付与したモノであり、言わば魔拳の脚バージョンだ。

 その威力は神秘金属である真の銀、ミスリルを砕くほどの破壊力だ。

 それを受けて無傷ということは、あの甲冑は相当な強度を誇っている。


「気を付けろ! 騎士型のゴーレムだ!」


 後方に跳びながら真羅が二人に警告する。


「気を付けろつったって! この暗闇じゃあ、よく見えねえよ!」


 真羅の警告に対して、サラが抗議の声を上げる。


 彼女の言うようにこの遺跡には灯りはなく、光源は手に持っているランタンの灯りのみだ。これでは夜目の利く彼女でも、像の動きを見ることが困難である。


「分かった! 灯りを用意する! ――ライトフラッシュ!」


 サラの声を聞いた真羅は、光属性の下級魔法を上空に向けて放つ。


 放たれた光の玉は天井付近で停止すると、電灯のようにこの空間を照らし始めた。


「これならどうだ?」


「サンキュー! 見えたぜ! でも急に明るくなったせいで目が痛いけど……」


 明るくなったおかけで、サラの視界は一瞬眩むがすぐに良好になる。


「あれは……二人とも! 気を付けろ! あの鎧は“ブラックメタル”で出来ている!」

 

 明るくなり騎士の鎧の材質に気付いたサラが二人に忠告する。

 

「ブラックメタル? 何だそれ?」


「魔力を全く通さない金属だ! しかもアダマンタイト並に硬い!」


「あー、魔力絶縁体なのね。それにそんなに硬いのか……面倒だな」


 通常の絶縁体は電気をほとんど通さない物質のことだが、魔力絶縁体は高い魔力抵抗を持つため魔力の流れを遮断してしまう物質のことであり、このブラックメタルはその魔力絶縁体のようだ。

 しかも、オリハルコンの次に硬いと言われる神秘金属であるアダマンタイトに匹敵する強度まで持っている。

 魔法使いにとっては天敵とも言える存在だ。


 そんな天敵を前にした真羅は、その言葉とは裏腹に笑みを浮かべていた。

 未知の神秘金属を前にして好奇心が抑えられないようだ。


「つーか、魔力絶縁体って加工がかなり難しいはずだが、古代によくそんな技術があったな」


「現代じゃその加工技術は失われている。俗に言うロストテクノロジーだ」


「なるほど……神代に近い方が神秘は濃いもんな」


 真羅がふと思った疑問に、騎士ゴーレムを意識を向けながらもサラが答えてくれる。


 神秘というモノは神代の頃の方が濃密だ。

 神秘に関しては、発展を遂げた現代よりも優れた技術が存在しているのは珍しいことではない。


「物は試しだ。 ――ライトニングスピア」


 真羅は顕言のみの詠唱で、雷属性の中級魔法をゴーレムの腕の関節部に撃ち込む。


 しかし、魔力で編まれ雷は、通電することなく弾かれてしまう。


「電気もダメなのか……」


 真羅が冷静に分析していると、隣にいたサラが一歩前に出て剣を構える。


「アイツに魔法は効かないが、ゴーレムってのは頭が弱点である場合が多い。ブラックメタル製の兜を弾き飛ばして頭を斬り落とせば倒せるはずだ」 


「一理あるが、魔法が効かないってことは、魔導品(アーティファクト)も効かないってことだ。どうやって兜を弾き飛ばすんだ?」


「それは……剣で直接叩くしかないだろ?」


「まあ、そうだが……結構ムズイぞ」


 サラの作戦に対して、真羅は否定はしなかったが同時に賛同もしなかった。

 

 ゴーレムの核が頭にあることが多いのは事実だが、この騎士の甲冑は兜を含めて本体と一体化してしまっているため、剥がすのは困難だ。

 

「なあ。レイルシアは何か案はないか? ん? レイルシア?」


 レイルシアに意見を求めるが返事がないため、真羅が振り返って確認すると、彼女は後頭部を押さえて悶絶していた。


 どうやら、魔術で引き寄せられた際に、その勢いのまま壁に激突してしまったようだ。


「あー、暗かったからな……加減をミスった……ごめん……」


 自らの非を理解した真羅は素直に謝罪する。


「ううっ、ひどいよー」


 涙目になったレイルシアは、真羅に咎めるような視線を向けるが、謝罪を終えた彼はすでにゴーレムに向き直っていた。


「今は遊んでる場合じゃないぞ。敵は目の前なんだから」


「うー、キミのせいだろー。不用意に近づいたボクも悪いけどさー」


「だから謝っただろ? それよりも、レイルシアの力であれ何とかできない?」


 真羅は精霊の力に期待してレイルシアに尋ねたが、彼女は少し考え込むとあまり優れない表情を浮かべる。


「全力でやれば消し飛ばせないこともないけど……そんな威力で撃ったらこの遺跡が崩れちゃうよ」


「だよねー。そもそも、そのブラックメタルとやらの魔力抵抗を上回る火力なんて気軽には出せないよねー」


「そういうシンラこそ何かないの?」


「んー? 手なら幾らでもあるぞー」


 逆に尋ね返された真羅は、気の抜けるような声で答える。


「あるの!? じゃあ早く何とかしてよー!」


「おーけー」


 そう言うと突如として真羅の手に、晴天の空ように澄み切った青色の手袋が現れる。


「――ショウ」


 どうやらこの手袋は魔具の魔霊のようで、親しみの籠められた声音でその名を呼ぶ。


「それとお前の力の必要だな――ネビラ」

 

 再び親しみの籠った声で誰かの名前を呼ぶ。


 すると次の瞬間、真羅の首に天女が纏うような羽衣が如き半透明のマフラーが巻き付く。


「よし、準備完了」


 魔具の手袋とマフラーを装備した真羅は、後ろに跳んで騎士ゴーレムから距離を取る。


「サラ! レイルシア! 一分、いや三十秒でいい! 時間を稼いでくれ! あと、頭は狙うな!」


 そう二人に言うと、真羅の姿が忽然と消えてしまう。


「消えた! って、おっ!」


 突然消えてしまった真羅に対し、サラが驚きの声を上げるが、その直後に騎士ゴーレムが斬り掛かったて来たため、その場から飛び退いて回避する。


「サラ! シンラに言われた通りにしよう!」


「分かった! 三十秒ぐらいなら余裕だ!」


 二人は真羅を信じて時間稼ぎに徹することに決める。


 レイルシアは魔力を滾らせ、サラは魔剣を構え直す。


「いくよ! ――銀星弾!」


 レイルシアから銀色の魔弾が放たれるが、これは騎士ゴーレムの盾に防がれてしまう。

 

 しかし、防御のため動きを止めた隙に、サラが炎を纏った魔剣で斬りかかる。


「くらえッ! ――火焔斬り!」

 

 放たれた炎の斬撃は、騎士ゴーレムの剣を持った右手に叩き込まれるが、籠手もブラックメタル製のため決定打にはならなかった。


「くそッ! 硬い! ならッ ――ファイアーボール!」


 サラは悪態をつきながらも油断することなく、至近距離から騎士ゴーレムに魔法を放つ。

 

 しかし、これも鎧によって容易く防がれてしまう。


「チッ、この距離でもダメか」


 舌打ちをしながらサラは後方へと跳び、騎士ゴーレムから距離を取る。


 幸いにも、このゴーレムは動きは重装備のためかそれほど機敏ではなく、攻撃を回避するのは容易だったが、ブラックメタルの鉄壁の守りは並大抵のものでは突破できない。


「これならどうだ! ――銀星の霊槍!」


 後退したサラと入れ替わるようにレイルシアは前に出ると、その手から銀色に光輝く槍を生み出して騎士ゴーレムに放つ。

 

 放たれた槍に対して騎士ゴーレムは盾を構えるが、光の槍は容易くブラックメタル製の盾を貫通し、その腹部に深々と突き刺さる。


「貫くことに特化した槍だよ。いくら魔力が通りが悪くても、これなら撃ち抜ける!」


 騎士ゴーレムの守りを突破できたことで、レイルシアはガッツポーズをしながら笑みを浮かべる。


 並の魔法を受け付けないブラックメタルだが、さすがに渾身の力を籠めた精霊の一撃までは防げないようだ。


「おお! ブラックメタルを貫いた! やるな!」


「えへへっ」


 サラからの称賛に、レイルシアは照れながら自慢げに胸を張る。


 精霊の魔力は、人間などの通常の生物のものより濃密であり、レイルシアの放った槍に籠められた魔力の濃度は人の魔法よりも遥かに濃い。

 そのため、魔力絶縁体であるブラックメタルの魔力抵抗を上回り、ゴーレムの盾と鎧を貫通することができたのだ。


「本体ごと貫いたし、そう簡単には動けない――って、あれっ?」


 勝利を確信するレイルシアだったが、無機物であるゴーレムに痛覚など備わっているはずもなく、槍が腹部を貫通した状態のまま剣を構えて襲い掛かってくる。


「おい! 相手はゴーレムだ! コアを壊さないと止まらないぞ!」


「そうなの!? じゃあ、そのコアってどこなの?」


「制御は頭部でしていることが多いが、コアは物によって違うからな……」


 サラはコアを見つけようと、レイルシアに斬り掛かっていた騎士ゴーレムを注意深く観察するが、彼女の持つ知識だけでは特定することができなかった。


「いや、そもそも全身ブラックメタルで武装してるせいで、弱点なんかねーよ!」


 サラが観察している間にも、レイルシアはゴーレムの剣撃を躱し続けているが、攻略の糸口をつかむことができない。


「こいつ、片腕が使えないのに動きが全く鈍らないよー!」


 レイルシアが泣き言を言うが、彼女の言う通りゴーレムは光の槍で盾ごと腹部を貫かれているのせいで左腕は動かすことができていない状態にもかかわらず、その動きは全く鈍っていない。


「つーか、もう三十秒経っただろ! シンラはまだか!」


 真羅が消えてからすでに三十秒は経っている。サラは文句を言いつつも、ゴーレムの足を止めるため斬り掛かろうとしたその時――


「――待たせたな。終わったぞ」


 どこからともなく真羅の声が響いたかと思うと、ゴーレムの頭の上にこれまた、どこからともなく人影が現れる。


「悪いな。初めてみるセキュリティだったもんで、少し手こずっちゃったよ」


 現れたのは、不敵な笑みを浮かべた真羅だった。


「「シンラ!」」


 二人は真羅を見て、彼がゴーレムを無力化したことを理解した。


「ハッキング成功だ。内部の回路を乗っ取ったから、もうただの操り人形だな」


 ゴーレムを完全に支配下においた真羅は、その頭部から飛び降りて二人の前に着地する。


「一体何をしたんだ?」


 戦闘が終了したため、少し気を緩めたサラは真羅に何をやったのかを尋ねる。


「これは【干渉の手袋】と言って、どんなモノだろうと干渉できる魔具の手袋でな。この手袋でゴーレムの制御を乗っ取ったんだ」


 魔術精霊【干渉の手袋(ショウ)】。


 その名の通り、触れた術式に干渉することができる魔具であり、この力でゴーレムの中枢に干渉して制御系を支配してしまったのである。


「便利な魔具だな……姿が消えたのは?」


「それは、このマフラー。【隠れ羽衣】を使ったのさ」


「“隠れ羽衣“? 姿を消せるのか?」


「そう。正確には存在を隠すことができる」


 魔術精霊【隠れ羽衣(ネビラ)】。


 姿だけでなく、声や気配を含めた存在自体を隠すことができる魔具であり、この力で存在を隠してゴーレムの頭部に憑りついたのである。


《ねー、その魔具ってもしかして精霊?》


 サラの質問に答えていると、頭の中にレイルシアの声が響く。 


 真羅が魔霊のことはできるだけ秘匿したいと考えていることは、事前に聞かされているため、サラには聞こえないようにレイルシアは念話で尋ねたのだ。


《ああ、この子たちは魔具の魔術精霊だよ。皆は魔具精霊って呼んでる》


 魔具精霊とは、【天地の靴(ダイ)】や【霊刀水月・真打(ミズキ)】たちのような魔具の魔術精霊であり、精霊と道具の二つの姿を持っている。

 ショウとネビラも例にもれず、魔具の姿ではなく精霊としての人型の姿を持っているが、魔具精霊は真羅以外に人型を見せること嫌っているため、レイルシアがいる以上その姿を晒すことはないだろう。


《まあ、基本は魔具だがらな。そんな話すこともないだろ。というか、この子らだんまり決め込んでるし……ほら、何か言いたいことはあるか?》


「「……」」


《――ないって》


《もしかして、ボクのこと嫌ってる?》


 全くコミュニケーションを取ろうとしない魔具精霊たちに対し、レイルシアは薄々感じていたことを尋ねてみる。

 

 真羅と出会って一ケ月以上経つが、未だに直接会話したことがあるのは、ドルフィーの町に着いた際に少し話したライドぐらいであり、あれ以来彼らからの反応は全くない。


《あー、この子らは俺と兄弟以外とは話した経験がないからな。仲間への対応の仕方が分かってないんだと思う》


《そうなんだ。じゃあ、嫌われてるわけじゃないんだ。よかったー》


 真羅からの答えにレイルシアは内心安堵するが、当の彼は気まずそうな表情で何かを誤魔化すように頬を掻いていた。


《そもそも、この子らは外の世界に興味自体がないんだよな。レイルシアのことも単に興味関心がないだけだと思う……》 


《えっ、それって嫌われてるよりひどくない?》


(おや)の教育が悪いんだ。ごめんね》


《謝らないでよー、なんか悲しくなるじゃん!》


《あー、でも外自体嫌いだから、レイルシアの事も好きか嫌いかで言ったら、皆嫌いよりだと思うよ》


《ひどッ!?》


 真羅からの心無い言葉に、レイルシアはショックを受けて項垂れる。


「急にどうした? さっきの戦いで怪我でもしたのか?」


 念話で会話をしていたことを知らないサラからすれば、レイルシアが突然項垂れたようにしか見えないため、先ほどの戦闘でダメージを受けたのではないか考えてその身を案じる。


「大丈夫、なんでもないよー」


「そうか。凄い魔法を使ってたからな。魔力は大丈夫か?」


「うん、大丈夫だから心配しないで! ちょっと心が傷ついただけだから……」


「?」 


 魔霊たちに嫌われていたという事実に対して、心にダメージを受けたレイルシアの空元気にサラは首を傾げる。


「何やってんだ、二人とも? そんなことより、あそこに扉があるぞ」


 いつの間にかゴーレムの背後に回っていた真羅が、広間の奥に扉を発見する。


 扉はこの広い空間に対して、人一人通れるぐらいの大きさであり、材質も周りの壁と同じ素材で造られているため、ゴーレムとの戦闘中では気付かなかったようだ。


「ん? おい! 見てみろ!」


 何かに気付いた真羅は扉の中央を指差す。


「あれは……鍵穴か?」


 サラも目を凝らして扉を見ると、その中心に鍵穴のような物を発見する。


「鍵穴か……ということは……いや、見れば分かるか。行ってみよう」


 真羅がまたしても二人の返答を待たずして歩き出したため、レイルシアとサラもその後を追っては扉の前に移動する。


「やはり、ここが最深部のようだ」


 鍵穴を間近で見ただけで真羅は、この先が遺跡の最深部であると確信する。


「ん? なんでそんなことが分かるんだ?」


「鍵穴の形をよく見てみろ」


「形? あっ! こいつは!」


 真羅に言われるまま鍵穴を見たサラも、何かに気付き声を上げる。


「ねー、何が分かったの? ちゃんとボクにも教えてよ」


 唯一状況が理解できてないレイルシアは、拗ねるように頬を膨らませながら尋ねる。


「鍵穴の形が雫のような形をしてるだろ? この形に覚えはないか?」


「雫? ああっ! 深海の雫!」


「そう、深海の雫。ここが最深部への入口だ」


「じゃあ、この先に例の化け物がいるの?」


「強力な結界で封じられているようだしな。つまりはそういう事だろう。それじゃあ、早速。ほい」


 レイルシアの疑問に答えながら、真羅はポケットから“深海の雫”を取り出して、雫の形をした鍵穴にはめる。


 すると、扉が光り出し、音を立てながら開いて行った。


「結界に穴が開いた。さあ、行ってみよう」


 真羅は好奇心の赴くまま最深部の入口へと入っていった。


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