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遺跡の真実


 開かれた扉の先、真羅たちの前に現れたのは真っ白な心臓だった。


 ドクッドクッと脈打つ心臓は、広間の中央に浮かんでおり、透明な回路が血管のように周囲全体に広がっている。


「なんだありゃ? 臓器? 気持ち悪いな……」


 剥き出しの臓器が空中で動いているという状況に、サラが不快そうな表情を浮かべる。


「恐らく、生体的な魔力炉だ。あれが遺跡全体に魔力を供給してる……しかし、凄いな……かなりの年月稼働しているだろうに全く老朽化してない……いや、これは一種の魔物に近いのか……となると……この遺跡は――だが、こんな技術が在り得るのか? 古代に? でも――」


「シンラ? 何か分かったの?」


「ん? ああ、推測だが、ここは昔に魔物を人工的に造り出す研究がされてたんだと思う。上にいた白い魔物たちはその産物だな。それに魔力炉の後ろの天井を見てみ」


「天井?」


 真羅に言われてレイルシアが心臓の奥の天井を見上げると、そこには複数の大きな繭が吊り下がっていた。


「繭? 昆虫型の魔物?」


「いや……あれは――あの下を見てみ」


 何かに気付いた真羅は繭の下の床を指差す。


 そこには先ほどの地下に降りるために使用したものと同じような魔法陣が刻まれていた。


「あの繭は魔物を培養しているんだ。これも推測だが、上の階の森の魔物が一定数に保つようになっていて、魔物が死ねばここで新しい魔物が産み落とされ、転移の魔法陣で上に送られるようになっているんだろう」


「へー、見ただけでよくそんなことが分かるな? それじゃ、さっき倒した白いゴブリン分、新しくここから魔物が誕生するってことか?」


「そう。現に三つ、さっき倒したゴブリン分の繭が動いている。まあ、ここで造れるのはゴブリンみたいな小さい魔物だけで、シーサーペントみたいなのは無理っぽいがな」


 サラの質問に答えた真羅は、もう天井の繭に興味を失ったのか、魔力炉である心臓にゆっくりと近づいて手を添える。


「やはり、これも魔物か……正直、古代の人類にこんなモノを生み出せた事が驚きだな……いや、これは何らかの人外の力が加わっているのかな? だとすると、この遺跡に隠されたお宝って――実際に見れば分かることか」


 真羅が自分の世界に入ってしまい思考に耽ていると、周囲を見渡していたレイルシアが口を開く。


「ねー、二人とも。この広間って先が続いてないけど、どうやって先に進むのかな?」 


 レイルシアの言う通り、この心臓がある広間は入口以外に扉はない。

 これでは遺跡の先に進むことができない。


「その床の魔法陣が転移の魔法なら、それで地下へ降りられるんじゃないのか? それしかないし、試しに起動してみるか?」


「いや、その魔法陣は魔物が触れると起動するような術式になっている。魔力を流しても起動しないし、起動させたところで、十中八九、森に戻されるだけだ」


「じゃあどうする? どっかに隠し扉でもあるってのか?」


「多分な」


 サラが適当に言った隠し扉だが、真羅はその可能性を肯定する。


「しかし、隠し扉って言っても、ここ結構広いぜ? 見る限り、魔力炉と繭と魔法陣しかないし…どうやってそんなものを見つけるんだ?」


「方法は簡単だよ。この心臓が遺跡全体に魔力を供給しているのなら、その先へと続く魔力を辿れば良いんだ」


 そう言うと真羅は魔眼を発動させ、魔力炉から先へと続く回路を探る。


 魔力の流れは常人に見ることはできないが、真羅の魔眼はそれをはっきりと捉えることができる。


 程なくして地下へと続く魔力の流れを捉えた真羅は、魔力炉から少し離れた所に歩いて行き、床に手を置く。


「ここだな」


 床を軽く押すと、その部分が横にスライドして地下へと続く階段が現れた。


「おお! 隠し扉、本当にあった!」


 ダンジョンらしい仕掛けにサラが興奮する。


「よく分かったね。ボクは地下に魔力が続いていることは分かったけど、隠し扉の場所までは分からなかったよ」


 真羅と同じく魔力の流れを辿っていたレイルシアは、彼の正確な感知能力に感心する。


「扉の位置は勘だがな。それよりも、この先は幸いにも一本道のようだが、突き当りに強い魔力反応がある。何かいるね、これ」


 魔力炉から続いている回路を辿った真羅には、この隠し扉と共に、この先にある強大な魔力反応まで感知することができた。

 その反応は動いていないが、この地下の先に何かがいることには間違いない。


「用心して進もう。ここからは俺が先頭を行くから、二人は後ろからついて来てくれ」


 そう言うと真羅は、二人の返事を待つことなく階段を下りて行ってしまった。


「あっ! ちょっと、また勝手に!」


「一人で進まないでってば!」


 サラとレイルシアは文句を言いつつも、真羅の後を追いかけて階段を下りて行った。


 二人がしばらく階段を下りていくと、先に下りていた真羅が階段の途中の壁を見ながら立ち止まっていた。


「どうしたんだ?」


「ああ、何か怪しいな、と思ってね」


 疑問に思ったサラが尋ねると、真羅は壁に手を付けて力を込めて押す。


 すると、押した部分がズレて人一人が通れるぐらいの大きさの扉が開かれた。


「こんな所にも隠し扉が!」


 サラが驚きの声を上げるが、真羅はそれに反応することなく、ずけずけと扉の中に入ってしまう。


 隠し扉の中は、長年放置されていたのか砂埃が酷く、光源がなく真っ暗なため、真羅の魔眼でも何があるのかは見えなかった。


「おい! ランタン持ってるのはアタイなんだ! 先にどんどん行くなって!」


 魔導品(アーティファクト)のランタンを持ったサラが、真羅の後を追って室内に入って来たため、この暗い部屋の中が照らされる。


「こいつは……粘土板?」


 照らされた室内にあったのは、散乱した状態で放置されている粘土板の山だった。


 真羅は手前にあった粘土板を一つ手に取って確認すると、そこには象形文字のようなものが刻まれており、召喚された際に付与された翻訳の術でも読み解くことはできなかった。


「これは……古代文字だな。二千年以上前に使われていたっていう文字で、現代でもあまり解析が進んでいない謎に包まれている文字だ」


「ああ、これは俺も本で見た事があるよ」


 横から顔を覗かせたサラが、粘土板の文字を見て解説する。


 真羅も事前にエルフの里で古代文字について調べたことがあったため、ある程度の知識はあった。


「古代文字が使われてるってことは、少なくとも二千年以上前にこの遺跡は造られたってことか……神代が約三千年前って推測されているからそれに近い可能性もあるのか……」


「うわ! 粘土板がいっぱいある!」


 真羅が遺跡の造られた年代を推測していると、レイルシアが二人に遅れて室内に入ってくる。


「ちょうど、適任者が来たな――なあ、レイルシアって神代の文字に詳しいよな。この粘土板の文字って解読できるか?」


 この世界に文字という概念が生まれた時代から存在していたレイルシアがいるため、この手の解読ならば最適だろうと、真羅は彼女に粘土板を手渡す。


「えっと、ちょっと見してね――あー、これは神代の文字とは大分違うね。ごめん! ボクも読めないや……」


「そっか、レイルシアでも分からないって事は、神代からは離れた時代の文字なのか……まあ、解読する(すべ)なんて幾らでもあるが……」


 レイルシアでも解読できないということは、この場でこの文字を読める者はいないということになるが、ここにいる真羅はただの人間ではなく魔術師だ。

 この手の解読など、彼にとっては日常的な通常業務と変わらない。


『――文字に宿りし想いよ。その意味を我に示せ』


 魔術の詠唱。


 真羅から紡がれる呪文は、確かな力となって神秘を顕現させる。


「――よし、これで読める」


 翻訳の魔術により、真羅は粘土板の古代文字の解読を可能にする。


「今のは魔法? 聞いたことない呪文だが、何をしたんだ?」


 突然、見知らぬ魔術を行使したため、疑問を覚えたサラが尋ねてくる。


 日本語での詠唱は、サラにとって未知の言語での呪文に聞こえてしまったのだろう。


「今のは翻訳の魔術だ。その文字に込められた意味を読み取るから、古代文字だろうが、神代文字だろうと解読できる術だ。ちょっと待っててくれ、適当に読んでみるから」


 真羅は山積みになった粘土板の中から、直感的に重要そうな物を適当に読み漁っていく。


 しばらく読み漁っていた真羅だが、一段落付いたのか息を吐きながら二人に向き直る。


「ふむ。大体分かったぞ」


「何が書いてあったんだ?」


「ああ、まずこの遺跡が造られた目的だが、当時の王の財宝を隠す以外にも、さっき推測した通り魔物を人工的に造り出す研究も行われていたみたいだな」


「人工魔物か……そんなもん造ってどうするつもりだったんだか」


「財宝を守らせる目的もあったみたいだが、使役して国の戦力にしたかったみたいだな。まあ、上手くいかなくて封印する結果になったんだが……」


 戦力するどころか制御不能になるという本末転倒な結果に、真羅は呆れ気味に肩を竦める。


「古代の人たちはどうやって魔物を造ったの? 魔物を造るなんてそんなの魔神以外に不可能だと思うけど……」


 この世界の魔物を生み出したのは、魔神だ。

 人間が魔物を造るということは自然の摂理に反する行為になる。


「ああ、それについてだが、その資料にも断片的にしか書いてないんだが、神代のモノと思われる秘宝が使われているらしい……」


「神代の秘宝?」


 神代という言葉に反応してレイルシアが、真羅の持っていた粘土板を覗き込んでくる。


「この粘土板には名前と絵しか書いてないけどな。見覚えあるか? ほらっ」


 真羅は覗き込んできたレイルシアに粘土板を投げて渡す。


「おっとっ、これは……水晶玉?」


 そこに描かれていた絵は、水晶玉のような球状の宝玉だった。


「そう見えるよな。名前は“進化の魔宝”って言うらしい」


「進化の魔宝……ごめん、分からないや」


「そっか、まあ、実際に見てみれば何か分かるかもしれないし、手に入れてからのお楽しみだな」


 真羅はそう言うと粘土板に興味を失ったのか、そのまま部屋を出ようとする。


「あっ、おい! もういいのか? まだ結構な数の粘土板があるぞ?」


 サラの言ったように、真羅が読んだ粘土板はほんの一部だ。

 室内にはまだ読んでない物がかなりの数残っている。


「別にそんな重要な事は書いてないよ。大半は失敗しましたっていう記録だけさ。成功したのなんてさっきの白い植物と白いゴブリンぐらいみたいだし、こんなの持って帰ったって荷物になるだけだ。そのまま置いていけば良いよ」


 実際、ここに保管されているのは大半が研究のレポートのようなものであり、書き残されてるのは実験内容と結果が大半だった。

 それもほとんどの実験は失敗に終わったようで、真羅が興味を惹かれるモノは先ほどの“進化の魔宝”ぐらいだ。


「あ、それと言い忘れていたけど……」


 部屋から出た真羅は、思い出したように二人に向き直ると、先ほど読んだ粘土板を指差して――


「その粘土板に書いてあったんだけど、海人族に伝わっている化け物は、ここの実験の結果生まれた魔物らしいぞ」


 ――さらっと重要な情報を放つ。


「ちょっと待て! この遺跡は強大な魔物に住み着かれたから結界で封印されたんじゃないのか?」


 突然の暴露に対して、サラは困惑しつつも、呑気に欠伸をしている真羅に問い質す。


「あー、ここの情報によると、実験の過程でとんでもない化け物を造り出してしまったらしいな。それはこの遺跡の最奥の実験場にいるらしい。何とか一時的に眠らしてその隙に結界で封じ込めたらしいな」


 ベーラの話では、この遺跡は強大な魔物が住み着いてしまったために破棄されたと伝わっているが、真羅が読み解いた真相は異なるようだ。


「まあ、経緯なんて気にする必要はないさ。どのみち化け物退治はするんだ。外部からきた奴だろうが、ここの生まれの奴だろうと大した違いはないだろう?」


「確かにそうだが……」


 事の真相を聞いたサラは初めは驚いていたが、普段と変わらぬ様子の真羅を見て落ち着きを取り戻す。


「これ以上ここで調べても時間の無駄だ。真実は実際に見た方が良いに決まってる。先を急ごう」


 そう言うと真羅は、またしても二人を置いて先に階段を下りて行ってしまう。


「だから灯りはアタイが持ってんだ! 勝手に行くなってば!」


「さすがにもう慣れてきたよ……」


 残されたサラとレイルシアも、その後を追いかけて隠し部屋から出ていくのだった。


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