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白い森


「本当に遺跡の中か? ここ?」


 真羅の第一声の通り、そこにはとても遺跡内とは思えない光景が広がっていた。


 洞窟の先には何と、鬱蒼とした森が広がっているのだ。それも木々や草花の全てが真っ白であり、とても自然のものとは思えない。


「おい! 上を見ろ! 妙に明るいと思ったら太陽まであるぜ!?」


 サラが困惑しながら指差した先を見ると、上空には太陽と思わしき光源まで存在していた。これでは本当に海底にある遺跡なのか怪しくなってくる。


「いーや、よく見ろ――いや、やっぱり目が危ないから光源は見るな。あれは魔力灯だ。魔力で光ってるだけで太陽じゃない」


「本当だ。よく見ると魔力灯だね。天井に埋め込まれているみたい」


 精霊であり太陽を直視したとしても網膜が焼かれることのないレイルシアが、真羅の忠告を無視して光源を見詰める。


「天井があるってことは、ここは遺跡内ってことでいいんだよな? 森だけど? 真っ白だけど?」


「ああ、ここは間違いなく遺跡の内部だ。真っ白い森だけどな」


 人工の太陽と、真っ白な木々を目の当たりにし、ここが遺跡の内部であるのか困惑してしまったサラに対して、真羅は落ち着いた様子で断言する。


「本当に真っ白だね。雪の精霊(スノー)の加護があるのかな?」


 雪でも積もっているかのような光景に、レイルシアは同胞である精霊の加護があるのではないかと推測するが、その言葉を聞いていた真羅は呆れるように溜息を吐く。


「そんな訳ないだろ。ちょっと見てろ」


 そう言うと真羅は、近くにあった白い木の葉っぱを一枚千切ると、そのまま口に含む。


「まずッ! やっぱりな!」


「ちょっと、また! こんなよく分からない植物を食べたらお腹を壊すよ!」


 得体の知れない白い葉っぱを食べるという奇行を行った真羅の身を案じるレイルシアだが、当の本人は何かを確信したように葉っぱを吐き捨てる。


「これは人工的に品種改良された植物だ。この環境下でも生息できるように改良されている」


「品種改良? 古代にそんな技術があったのか?」


 サラが最もな疑問を口にする。

 

 この世界における植物の品種改良の技術が確立したのはつい近年だ。この遺跡が造られた古代に、そのような技術があるのは腑に落ちない。


「厳密に言うとこれは“変質”だな。特殊な力を浴びて変化してしまったものだ。ほら、地面を見ろ」


 真羅は地面に掌を当て、何かを探る。


「地下からこの遺跡全体に魔力が流れている。この魔力によってここの植物は成長し、あの魔力灯は輝いている。それによく見ると、これは世界の魔力(エーテル)ではなく、生物の魔力(オド)だ。まるでこの遺跡自体が生きているみたいに流れている」


「オドって確か生物の魔力だよな……この遺跡が生物だとでも言うつもりか?」


「いや、それはない。恐らくだが、地下に生体的な魔力炉がある」


 サラの疑問に対して、真羅は首を振って否定する。


「兎も角、魔力の流れ的に確実に地下がある。取り敢えず、地下への入口を探そう」


 そう言うと真羅は、懐からハムスターの使い魔であるユキを呼び出す。


「ユキ。話は聞いてたな。地下への入口を探してくれ」


「キュ!」


 真羅の指示を聞いたユキは、彼の手の平から飛び降りると、そのまま森の奥へ姿を消した。


「今の子は?」


 初めてユキを見たレイルシアが、彼女のことを尋ねる。


「ああ、あいつはユキっていう動物霊の使い魔だ。ヒゲで色々察知できるから、暫くすれば地下への道を見つけてくれるだろ」


「あんな小っちゃいやつで、こんな広大な森の中を調べられるのか?」


「そこはあいつの野生の勘を信じよう。俺たちが闇雲に動いてバラバラになるよりはマシさ」


「確かにこんな所で迷うのはごめんだな」


 手の平サイズのユキの性能に疑問を持ったサラだが、真羅の言葉にこれが最善だと納得する。


「そんな事よりも……何か来るぞ」


 真羅が目を細めて木々の間を見詰めていると、そこにある茂みが揺れ始めた。


 彼の言葉に、サラは腰の剣に手を伸ばし、レイルシアも魔力を整えて身構える。


「動物――ではないな。魔物か?」


 茂みの奥から感じる気配から、真羅は魔物だと疑うが、どうにも確信が持てなかった。


「さっきの破壊音で呼び寄せてしまったかな? まあ、いいや……魔銃はどこやったかな……」


 この世界に来てから、初めて感じる謎の気配だが、真羅は呑気に懐を弄り【内なる物置小屋】から魔銃を探す。


「あっ、そういや、あの子に貸してたな……」


 真羅は物置小屋に魔銃がないことを思い出し、仕方なく右手の人差し指を茂みに向ける。


 すると、その直後に茂みから複数の影が飛び出してきた。


「ギャギャッ!」


 下品そうな雄叫びを上げて現れたのは、この世界では広く生息している魔物であるゴブリンだった。


 しかし、その姿は通常のものとは少し異なっていた。


「白い? ゴブリン?」


 思わず漏れたサラの呟きの通り、現れたゴブリンたちはここの草木のように真っ白だった。


 この世界のゴブリンは結構な数の種類がいるが、どれも肌の色は森林に溶け込めるような濃い緑をしている。

 しかし、このゴブリンたちは体色は、この森の木々と同じく真っ白だった。


「調べるのは後でも出来る! 相手は三匹! 一人一匹ずつ仕留めろ!」


 真羅は二人指示を飛ばすと、人差し指から魔弾を放ち、一番奥にいたゴブリンの眉間を正確に撃ち抜いた。


 その直後にレイルシアとサラも動き出す。


「――銀星弾!」


 レイルシアは銀色の浄化の力を持った魔力塊を放ち、一番手前にいたゴブリンを消滅させる。


「――唸れ! 猫又(ネコマタ)!」


 レイルシアに一拍遅れて、サラも腰の剣を引き抜き、残ったゴブリンに飛び掛かる。


 サラの手にしている剣は刃渡りは二十センチほど短剣ではあるが、ただの剣ではなく“猫又”の名の通り、柄の部分が二又になっており、それぞれの何らかの術式が籠められた紅い宝玉と蒼い宝玉が付いた魔剣だった。


 サラが猫又の紅い宝玉に魔力を籠めると、刀身から紅い炎が噴き出した。

 

 噴き出した炎は刀身の倍以上に伸び、焔の刃を形成する。


「くらえ! 火焔斬り!」


 サラによって振り下ろされた焔の刃は、ゴブリンを真っ二つに焼き斬る。


「へー、かなり出来るみたいだな」


 その様子を見ていた真羅は、感心したように呟く。


 サラの動きは正当な武道ではなく我流のものだったが、剣術と魔力操作の双方において高いレベルで洗練されていた。

 これだけで彼女が冒険者として高い実力が持っていることが分かる。


「でも、二人共さー。調べるだから死体はちゃんと残してほしかったなー」


 真羅が倒したゴブリンは五体満足で残っているが、レイルシアに倒されたゴブリンは完全に消滅しており、サラに焼き斬られたゴブリンも見事に火葬されている。


 これでは真羅の倒した一匹しか解析することができない。


「まあ、一匹いれば十分か。どれ早速解剖して――あら?」


 真羅が残ったゴブリンを調べようと手を伸ばした時、その死体が灰となって崩れてしまった。


「崩れちまった? こんな魔物は初めてみるぜ」


「死ぬと灰になるって魔物はいないのか?」


「そんな魔物、ボクは見たことないよ」


「そうか……じゃあ、真っ当な生き物ではなさそうだな」


 神代の戦争で魔物の軍勢と戦ったレイルシアでも知らないとなると、この白いゴブリンは通常の魔物とは何かが異なるのだろう。


 真羅は興味深そうに、その元々ゴブリンであった灰を指で摘むと、そのまま口の中に放り込んでしまう。


「あっ!? またそんなモノを!」


 またしても行われた奇行に、レイルシアは声を上げるが、真羅はお構いなしに舌の上で灰を転がす。


「ふむ……どうやらこいつは人工的に造られた魔物だな」


「なっ! さっきもそうだが、食べただけでそんなことが分かるのか!?」


 食べるという謎の解析方法もそうだが、それで魔物の正体を解き明かしたという事実に、サラは二重の意味で驚かされる。


「別に食べて解析している訳じゃないんだが……まあ、今ので大体は分かるよ。例えば、こいつらは人工的に造られたこと以外にも、消化器官が退化していて地下から流れてくる魔力で生きていることや、生殖器官が存在せずこのままでは子孫を残せないこととかも分かったよ」


「そこまで分かるとなるとなんか怖いな……」


「怖いって……ちゃんと仕組みはあるし、解析している()は信用できるぞ」


「子?」


「いや、何でもないよ」


「――?」


 真羅が言葉を濁したため、サラは疑問符を浮かべていたが、レイルシアは何かを察する。


《ねえ、シンラ。解析してる子って、もしかして……》


《ああ、お察しの通り魔霊だよ》


 レイルシアがサラに勘付かれないようにわざわざ念話で尋ねてきたため、真羅は仕方なくだが念話で答えることにする。


《俺の舌は、“博士”って呼ばれてる魔霊が管理している“研究所”に繋がっている。だから舌の上で転がせば大体のモノは解析できるんだ》


《――博士? その子は紹介してくれるの?》


《あー、こいつは“八戒”の一人だが、筋金入りの研究者だからな。滅多に外には出ないし、会うこともないだろ》


《――八戒?》


 聞き慣れない言葉に、今度はレイルシアが疑問符を浮かべる。


《“八戒”は“六血”に匹敵する力を持った魔霊で、ちょっと特殊な役割を持った八人の通称だな。六血に負けないぐらい個性が強いのが多いし、基本的に外の連中の事は見下してるから会わない方が良いと思うぞ……うん》


《そっか……なんか大変そうだね。でも機会があったら紹介してよ。会うことがなくてもさ、一応ボクの仲間ではあるんだから》


《あー、そうだよな。仲間だもんな。紹介してないのは俺の都合――というよりも、あの子たちの性格の問題なんだよな……まあ、(おれ)の教育が悪いんだが》


 真羅は自身の子供と言える魔霊たちのことを考えて溜息を付く。


 契約精霊であり、新しい仲間であるレイルシアに魔霊たちを紹介していないのは、彼らがレイルシアを含めた外の世界の全てを毛嫌いしているからだ。


 魔霊たちは真羅にこそ従順――いや、彼に対しては尊敬どころか信仰の念を懐いているが、その分他者に対しては攻撃的だ。

 それこそ、真羅が地球で契約していた妖怪たちとすら折り合いが悪く、彼女たちを仕方なく妹の護衛に回したほどだ。


「どうした? 二人して黙り込んで?」


 急に黙り込んでしまった二人に対して、サラが不思議そうに声をかける。


「いや、そろそろ戻ってくる頃かなって――あ、来た」


 真羅が適当なことを言って誤魔化そうとすると、ちょうどタイミングよくユキが戻ってくる。


 ユキは茂みをかき分けて真羅の足元まで来ると、彼の身体をよじ登り、肩の上にまで来る。


「どうだった?」

 

「キュー!」


「そうか……」


 短い鳴き声だが、真羅には意味を理解できたようで、そのままユキを懐に入れる。


「この先に怪しいものが見つかったらしい。案内するからついて来てくれ」


 二人の返答と待たずに、真羅はユキの出てきた茂みの中に入っていく。


「あっ! ちょっと待ってくれ」


「一人で勝手に行かないでよー」


 二人も真羅の後を追って茂みの中に消えていった。



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