表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/63

獣人とお宝


 真羅たちが路地裏を頭だけ出して覗くと、その先には一組の男女が言い争いをしていた。


 どうやら二人は獣人族のようで、人間にはない獣耳と尻尾をもっている。

 

 女は年の頃は十代後半ほどで、背丈はレイルシアよりも少し高い。見た目は燃え盛る炎のような赤い髪と紅水晶(ローズクォーツ)のように綺麗な桃色の瞳を持っており、頭には猫のような獣耳が生えている。


 男の方は大柄で筋骨隆々な体つきをしており、女獣人の方を向いているため真羅たちからは顔は確認できないが、頭には熊の耳が生えている。そして、その柄の悪そうな見た目には反して、知的な黒縁の眼鏡を掛けている。


「ふざけるなよッ! お宝の独り占めなんて許されるわけないだろうがッ!」


 熊獣人の男が猫獣人の女の胸ぐらを掴みながら怒声を上げる。


「ふざけてるのはそっちだろうッ! 取り分については初めに決めていたじゃないかッ!」


 胸ぐらを掴まれながらも猫獣人は、怯むことなく言い返した。


 どうやら、二人は何らかの宝の取り合いで揉めているようで、両者とも一歩も引いておらず、言い合いに発展してしまったようだ。


「あの女の手に何か宝石みたいのがありますね。あれを取り合ってるみたいですよ」


 覗き込んでいたライドが、猫獣人の少女が手に宝石を持っていることに気付く。取られまいと握り込んでいるため色形は分からないが、何らかの魔力を秘めていることだけは確認できる。


「冒険者か何かだな。多分、報酬の分け前で揉めてるんだろ」


 両者共に腰に武器を下げていることから、真羅は彼女たちが冒険者だと判断する。


 冒険者とは、この世界では一般的な職業であり、冒険者ギルドという人界の各国に支部がある大規模な組織に所属し、そこに集まる様々な依頼を請け負う者たちである。


 ギルドに集まる依頼は多岐に渡り、魔物の討伐から輸送の護衛、遺跡の調査など様々なものがあり、冒険者は一種の何でも屋のような立ち位置をしている存在だ。


 彼女らもおそらくは、その冒険で得た宝石を取り合っているのだろうと真羅は推測する。


「喧嘩してるのなら止めないと!」


 レイルシアが身を乗り出しそうになったため、真羅とライドが同時に左右の肩を掴んで止める。


「今行ったら話を拗らせるだけだ。止めとけ」


「主の言う通りだ。これは当人たちの問題だ。オレたちが出て行ったところでどうこうできることじゃない」


 事情を知らない真羅たちが出て行ったとしても話をややこしくするだけで、解決することはできないだろう。

 冷静に状況を観察していた二人はそれを確信しており、息ぴったりにレイルシアの無謀な特攻を止めた。今回は決して面倒くさいから止めたわけではない。


「二人して……確かにそうだね。分かったよ……」


 二人に諫められたことで冷静になったのか、レイルシアは大人しく引き下がった。争い事を止めたいが一心で、自身が冷静さに欠けていたことに気付いたようだ。


「取り敢えず、様子を見て戦闘に発展したら介入しよう――ん? あの男の掛けているのは、もしかして……ということは彼女は?」


 何かに気付いたのか、真羅は思わず身を乗り出して猫獣人の少女の顔を覗き込んでしまう。


 その結果、言い合っていた猫獣人の少女と目が合ってしまった。


「あ、やべ」


 少女に存在を気付かれたことを覚り、真羅はゆっくりと顔を壁の方に引っ込めようとするが、少女の桃色の瞳はそれを見逃しはしなかった。


「ちょっと! お兄さん! 見てないで助けておくれよ!」


 猫獣人の少女は目に入った真羅に助けを求める。


「うっわ、やっぱりこうなるのか……」


 嫌な予感が的中して真羅がげんなりする中、彼の存在に気付いた熊獣人の男がこちらに振り向く。


「何だ、テメェ? 見世物じゃねえぞ!」


 熊獣人の男は掴んでいる猫獣人の少女の胸ぐらを離し、真羅に向けてガルルッとまるで獣のような唸り声を上げて威嚇をしてくる。


 その一瞬の隙をついて少女は男から距離を取ると、壁を蹴り、文字通り猫のような身軽な動きで隣の建物の屋根の上に飛び乗ってしまう。


「お兄さん、ありがとう! おかげで助かったよ! じゃあね!」


 そう告げると猫獣人の少女は、颯爽と屋根の上を走り去って行った。


「アッ!? サラッ!! テメェ!!」


「――アヤメ」


 去っていくサラと呼ばれた猫獣人の少女に対して、熊獣人の男が怒声を上げる中、真羅は冷静に呪文詠唱ではない誰かの名前を呟く。

 すると、彼の影が僅かに揺らめいたが、それだけで特に何かが起こることはなかった。


「おい! テメェのせいで逃げられちまったじゃねーか! どうしてくれるんだ!」


 少女に逃げられた熊獣人の男は、今度は真羅に詰め寄り胸ぐらを掴んでくる。


 しかし、真羅はどこ吹く風で平然と彼の顔――正確には彼の掛けている眼鏡を興味深そうに眺めていた。


「黙り込んでんじゃねえぞ! ぶちのめすぞ! ゴラァ!」


 頭に血が上っているのか、完全に冷静さを欠いている熊獣人の男は、拳を振りかざして真羅を殴ろうとするが――


『――止まれ』


 一節の短い呪文。


 それだけで男の拳は止まった。


「その眼鏡、見してくれ」


 虚ろな目で固まってしまった熊獣人の男の眼鏡を、真羅は了承を得る前にひったくる。


 そして、その眼鏡を自身の顔に掛けると、どこか納得したように頷いた。


「ふむ、やはり、“魔眼殺し”か」


 魔眼殺しとは魔眼から身を守るための魔導品(アーティファクト)の一種であり、眼鏡やサングラスの形をしている物が大半だ。地球の魔術師たちにとっては一般的な装備品だが、この世界で見るのは初めてのことだ。


「有難う。もう良いよ」


 そう言うと真羅はもう興味を失ったのか、眼鏡を外して狼獣人の男の顔に掛けた。


「さて……」


 眼鏡を男に戻した真羅は、先ほどの興味深そうな表情から一転して無表情になると、静かに男の顔に手をかざした。


「――今日のことは忘れて家に帰ってゆっくり寝な」


 そう告げると、熊獣人の男は虚ろな目のまま振りかぶっていた拳を下ろし、ゆっくりとおぼつかない足取りで静かに町の中に去っていった。


「ふむ……これで解決したか。厄介ごとは早々に片付けないとな。 これでいいか? レイルシア?」


 なんだかんだ言って揉め事を解決した真羅は、いつの間にかライドに羽交い絞めにされているレイルシアに確認する。


 どうやら先ほど男が殴り掛かろうとした際に、レイルシアは止めに入ろうとしてくれたようだが、手出しは無用と判断したライドが無理やり押さえてくれたようだ。


「え~と、うん。いいんだけど……いったい何をしたの?」


 解決したは良いが何をしたのか分からず、レイルシアは羽交い絞めにされたまま真羅に尋ねる。


「簡単な暗示をしただけだよ。まあ、猫には逃げられたけど、元凶は手に入れたぞ」


 そう言うと真羅はいつの間にか手にしていた宝石をレイルシアに見せる。


「それって、さっきの子が持ってた宝石?」


「そう、これを取り合ってたみたいだったから没収してやったのさ」


 真羅は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて宝石を手の平で弄る。


 先ほどは猫獣人の少女が持っていたため全貌が分からなかった宝石だが、形状は雫のような形をしており、紺碧の海を凝縮したような色をしてる。


「いつの間に取ったんだい? ボクが見ていた限りだとあの獣人の女の子が持ったまま逃げて行ったと思ったんだけど?」


 レイルシアの疑問も当然である。


 この宝石はあの猫獣人の少女が、持ったまま屋根の上を走り去っていったはずであり、この場から動いていない真羅に宝石を奪うことは不可能のはずだ。


「なに、俺の影はちょっと手癖が悪くてね」


 レイルシアの疑問に対して、真羅は不敵に笑いながら曖昧に答えた。

 

「そっか…まぁ、シンラのことだから何でもありだよね」


 適当な返しだったが、レイルシアは納得することにする。


 真羅の仕出かしたことでいちいち悩んでいたら身が持たないだろう。


「それよりも、いい加減に放してくれないかい?」


 考えることをやめたレイルシアは、さっきから自分を羽交い絞めにしたままのライドに解放を求める。


「ああ、すまない。いきなり羽交い絞めなんかにして悪かったな」


 そう謝罪すると、ライドはレイルシアを解放する。


 ここで謝罪の言葉が出て来るのは、魔霊たちの中でも彼ぐらいだろう。大半の魔霊たちには部外者なんかに対して謝るという概念を持ち合わせていない。

 だからこそ、ライドは今この場に呼び出されてるのだ。


「しかし、この宝石だが、何らかの魔導品(アーティファクト)のようだな」


 そう独り言ちると、真羅は口の中に放り込んだ。


「ちょッ、何食べてるのッ!」


 真羅の奇怪な行為に、レイルシアはギョッとして声を荒げる。


 それも仕方がない。どこの世界でも人間が宝石(アーティファクト)を食べるなど異常な行動でしかないのだ。


「別に食ったわけじゃない。ほらっ、べぇー」


 焦るレイルシアに対して、真羅は舌を出してそこに刻まれた不気味に蠢く魔法陣を見せつける。


「この舌の魔法陣は研究室に繋がっていてな。解析をするために送ったんだ」


 この真羅の舌に刻まれた魔法陣は異空間に繋がっており、この空間に送られた物は彼の魔霊によって解析される仕組みになっている。

 因みに送ることができるのは口に入る大きさに限るが、本来は小さなサンプルや薬品などを調べるためのものであり、今回の場合は例外的な使い方だ。


「そっか……今度から奇行をする時は先に言ってからにしてほしいな……」


「……善処するが、このくらい普通じゃないか?」


 真羅にとってこのくらいは常識の範囲内の行動であり、レイルシアの頼みはおそらく多分きっと無駄になるだろう。


「それよりもだ。揉め事は解決したんだ。観光の続きをしようぜ」


 先ほどの不敵な笑みから一転、今後は無邪気な笑顔を浮かべると、真羅はレイルシアの手を取って歩き出した。


「ちょっとっ、分かったから。そんなに急がないでよ」


 いきなり手を取られ引っ張られたレイルシアは驚きつつも、真羅の後について行き、人込みの中へ消えていった。


「やれやれ、主らしいっちゃ、らしいな――って待ってくださいよー」


 主の自由っぷりに若干呆れながら、ライドも真羅たちの後を追って町の中に消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ