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亜人の国


 人界と呼ばれる大陸の東にその大国はあった。

 この世界でも太陽は東から昇るため、この大陸の最東に位置するこの国は日出(ひいずる)大国とも呼ばれており、女神の眷属たる光の精霊の影響を色濃く受けた者、亜人族たちが暮らしている。


 日出大国の首都たるこの都市には様々な種族が入り混じっていた。多彩な種族が入り混じっている影響か、様々な造りの建物が立ち並んでおり、石造りのものから木造のもの、地球では見慣れない謎の素材で造られたものなど多彩で統一感はないが、不思議と調和していて独特の雰囲気を醸し出していた。


 ここはミナマンディー連合国の首都ドルフィー。


 精霊の森の中にあるエルフの隠れ里から歩いて数日はかかる距離にあるが、音速どころかその気になれば亜光速以上の速度で走れるライドに騎乗した真羅とレイルシアは物の数十分でこの町に到着した。


「さすが異世界、凄いな」


 それが町を見た真羅の第一声だった。


 犬や兎のような様々な獣のような耳と尻尾を持つ獣人族。

 

 小柄だががっちりとした体つきのドワーフ族。


 耳の部分が魚のヒレのようになっており、手には水かきを持っている海人族。


 背中に鳥のような翼を持っている翼人族。


 目に映る範囲だけでも様々な種族の亜人たちが溢れていた。


「オレと同じ、ウマ耳のやつもいますね」


 隣にいた黒いスーツ姿の青年が口を開く。 

 一見すると就活中の大学生のような姿をした彼だが、明らかに人間とは異なる特徴と持っており、頭には馬のような耳を生やし、臀部からも馬の尻尾を生やしている。


「ここならお前も違和感なく歩けるな。ライド」


 そう、この青年は真羅たちをこの町まで運んだライドであり、魔霊である彼は人の姿になることも可能なのだ。


「はい。向こうでこの姿で歩いてると、コスプレだとか、ウマ息子だとか言われちゃいますからね」


「ははっ、そう思われる分には構わないだけどね。目の良いヤツには正体がバレる恐れもあるからな。そこは気を付けろよ?」


「分かってますよ。オレはそんなヘマはしませんよ」


 見た目だけは普通の馬の獣人の姿をしたライドだが、中身は魔霊であるため全くの別物だ。


 腕の立つ魔術師ならばその違和感に気付けてしまうだろうが、幸いにもここは異世界であり、彼の正体に勘付ける者はこの場にはいない。

 また、もし仮に魔術師がこの場にいたとしてもライドの擬態は完璧であり、見抜ける者はそうそういないだろう。


「普通に話してるけど、当たり前のように人型になるのは驚きだけどな」

 

 真羅の後ろを歩いていたレイルシアが呆れ気味に口を開く。


 この世界では二つ姿を持つ精霊は、光と闇に関係なくすべて高位精霊であり、数自体もあまり多くはない。

 さも当然のように人型になったライドを見て、レイルシアは驚きを通り越して呆れてしまっている。


「そんなに驚くようなことか? こいつら魔霊は俺から生まれた子供みたいなものなんだ。似たような姿になれるのに違和感はないだろう?」


 魔術精霊は、一応は人間である真羅から生み出された存在だ。生みの親である彼に姿形が似ることは不思議なことではない。


「確かにそうなんだけど……この世界の精霊に形態が変化する者は少ないんだよ」


「そうなのか? 常闇の精霊とか複数回は形態変化しそうだったけどな――って、あの露店、魔導品(アーティファクト)ショップじゃね? ちょっと見てくる!」


 話の途中で近くに魔導品(アーティファクト)の売り場を見つけた真羅は、脇目も振らずにその店に走って行った。この魔術オタクは、この手の物に目がないのだ。


「行っちゃった……本当に魔法の類いが好きなんだね」


 魔導品(アーティファクト)に飛びついた真羅を見て、レイルシアは呆れを通り越してもはや関心してしまう。


 彼の神秘好きに関しては村で一緒で過ごしたため分かっていたが、それでも子供のように目を輝かせて一心不乱に魔導品(アーティファクト)にかじり付く様には未だに慣れない。


「分かってはいるけど、あの豹変ぶりはちょっと引きそうだな」


「あれが(あるじ)だ。心配せずともすぐに慣れる」


 ライドが慰めるようにレイルシアの肩を軽く叩く。


 彼は他の魔霊たちとは異なり、魔霊以外に対しても社交的であり、レイルシアに対しても友好的な姿勢を取っている。これはかなり珍しい例であり、他の魔霊は真羅と契約したレイルシアに対しても悪感情を持っている者も少なくない。


 真羅を乗せて駆ける魔霊自体は数多くいるのだが、彼以外の者を乗せることを了承してくれるのはライド以外には存在せず、多くは外の世界に対して敵愾心を持っているため、他人とは言葉を交わすことすら困難な魔霊が大半なのだ。


「それにレイルシアには感謝もしている。主が騎乗する時は大半が”六血”だ。オレに乗ってくれることは少ない。お前さんがいなかったら、今回は呼びされなかっただろうからな」

 

「――六血? 何それ?」


 聞き慣れない言葉にレイルシアは疑問符を浮かべる。


「ん? 主から聞いていないのか?」


 レイルシアの反応に、ライドは意外だとばかりに訊ね返してしまう。 


「いや、何も聞いてないけど……」


「そうなのか? 六血に関しては初めに紹介していると思っていたんだがな……分かった。主に変わって簡単にだが説明しよう」


 そう言うとライドは、周りの雑音を和らげるためか、先ほどまでメンコの耳覆いだった物と思われるカバーをそのウマ耳に被せる。


「六血は特殊な六人の大魔霊で、オレたちの中でも取り分け強力な血統を持っている奴らだ。魔霊たちの王様って言えば分かりやすいか。まあ、一人は訳あって出てくることはないだろうが、他の五人はよく呼び出されるし、関わる機会も多い連中さ」


「奴らや連中って……王様なんでしょ? そんな雑な言い方でいいの?」


 ライドの物言いに、レイルシアが思わず尋ねる。


 六血のことを王と言ったにも関わらず、彼からは敬意といったものが微塵も感じられない。


「ああ、王と言っても、あくまでオレたちのまとめ役を担ってるってだけだからな。基本的には自分勝手な連中さ。実力に関しては信頼してるが、尊敬とかは全くしてない」


 ライドは六血のことを思い返したのか、不機嫌そうに言葉を吐き捨てる。


 彼にとって真羅を乗せて大地を駆けることは、至上の喜びであり存在意義だ。その役目を奪うどころか、自身に騎乗されて足として使われることもあるため、彼は六血のことを快くは思っていないのである。

 

「六血の主な役割は魔霊たちと領域(・・)の管理をしていて、色々多忙なはずなんだが……暇を見つけては勝手に外に出て(あるじ)に引っ付いて困らせる奴もいるからな。変わった性格の奴もいるし、関わらないなら関わらない方がいい連中さ。主もそういう所があるから紹介しなかったのかもな――あ、終わったみたいだ」


 そう言うとライドは耳のカバーを外して露店の方に耳を向けた。


 その先では、ちょうど真羅が商品を観察し終えたようで、こちらに戻ってこようとしていた。彼はそのことに逸早く気付いたようだ。


「いやー、中々興味深い物が多かったな。込められた術は大したことなかったが、こんな露店で堂々と魔導品(アーティファクト)が売っているとはな。向こうじゃ考えられないな――で、何の話してたんだ?」


 魔導品(アーティファクト)を一頻り見終えて満足そうにしている真羅が、レイルシアたちの下に戻ってきて尋ねてくる。


「六血について話をしてたんですよ。主、彼女に説明してなかったでしょ?」


「あー、六血ね。忙しそうだったし、別に会う機会なんていくらでもあるだろうし、紹介はその時でいいだろ。まあ、色々と個性的だから紹介すると疲れそうだがら控えたってのもあるが……」


 真羅は頭を掻きながら、六血の面々を思い浮かべる。


 六血は強力な魔霊だが、皆個性が強く、変わっている者が多いうえ、皆揃って外部の者に対して友好的ではない。何なら挙って真羅以外の人間を見下している節があるため、家族や身内などにも紹介したことはないのだ。


「如何せん数が多いからな。取り敢えず、六血も含めて他の魔霊たちは出て来た時に紹介するよ。一度に何人も紹介しても憶えきれないだろうしな」


 レイルシアを気遣ったのか、それとも単に面倒くさかったのか、真羅は魔霊の紹介はその都度行うことに決める。実際、かなりの数なので一度に紹介したところで憶えきることはできないだろう。


「そんなことよりも、せっかく亜人の国に来たんだ。色々見て回ろうぜ!」


 魔導品(アーティファクト)を見て好奇心が刺激されたのか、真羅は子供のように燥いで町の中を駆け出そうとした時。


「――ふざけるな!」


 近くの路地裏から怒声が聞こえてきた。


「何かあったのかな?」


「言い争ってるみたいだな」


 レイルシアの疑問に、耳を立てていたライドが答える。


 獣の耳を持っている彼の聴覚は常人よりもはるかに優れており、馬の形体時には耳覆い付きのメンコを欠かさずに装着して聴覚を制限しているほど発達している。


「だったら止めないと!」


 お人好しのレイルシアが仲裁しようと路地裏に向かって走り出すが、真羅とライドは息ぴったりに彼女の左右の腕を同時に掴んで制止させる。


「こんなにデカい都市なんだ。喧嘩ぐらいあるだろ。ほっとけよ」


「主に同じ」


 面倒事はごめんだと、二人がレイルシアを諫める。


「何で止めるのッ? 事件だったら不味いでしょ!」


 女神の眷属たる光の精霊は平和を愛し、争いを好まない性質を持っている。レイルシアにとって人々の争い事は見過ごせないことであり、止めることが役割と言っても良い。


 そんな光の精霊の性質について気付き、真羅は溜息を付く。


「はあー。そうだな、伝承でもあったな。光の精霊は平和のために注力する存在だって……取り敢えず、様子だけ見て、本当にマズそうだったら介入しよう。それでいいな、レイルシア?」


「分かったよ。それでいいから早く行こう!」


 掴んでいたレイルシアの腕を離して、真羅たちも路地裏に向かうことにする。


「なーんか、面倒事の予感がする」


 一抹の不安を抱えつつ、真羅は路地裏に向かうのだった。


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