第80話 リアの蒼雷①
「おーい!ターニャ!リア――!」
遠くから届いた声に、リアとターニャがそろって振り返る。
「マーベリックさんとウェンティ……。」
砂浜をこちらへ歩いてくる二人を見つめたまま、ターニャは少し肩を落とした。
「ごめんね、リア。時間になっちゃった……。」
リアは小さく顔を横に振る。
「大丈夫。準備は出来てるから。」
二人がそのまま歩み寄ると、先にウェンティが足を止め、額に手をかざしながら砂浜へ目を向けた。
「お!なんじゃあれは……」
視線の先には、二人が砂に描いた大きな絵が残っている。
「リボン?お主達が描いたのか?」
「うん。二人で描いたんだ。」
ターニャが笑うと、ウェンティはもう一度リボンへ目をやった。
「ほう……ハーベイの街のリボン見たいじゃな!」
「ふふふっ。」
その笑い声にウェンティの頬が緩み、すぐ隣にいるターニャへ視線を戻す。
(うまく……話せたようじゃな。)
やがてマーベリックが海へ顔を向けた。
「リア。準備はいいか?海の上空に蒼雷を放ってくれ。」
「はい。」
リアが先に浜辺へ下りると、マーベリックとウェンティもその後を追う。
「ターニャはそこで見ていてくれ。」
「はい……。」
ターニャはその場に残り、胸元で両手を組むと指先に力を込めた。
(リア……。)
頬を撫でた海風が髪をさらい、その向こうで波の音がゆっくりと近づいてくる。
ザアァァ――……
リアは波際まで歩くと足を止め、海を正面に見据えたまま大きく息を吐いた。
ふぅ――……
右手をゆっくりと前へ伸ばし、呼吸を整える。
「……水よ……霧となれ……。」
掌が淡く光り始めると、その光の中から白い霧が溢れ、足元を抜けて砂浜へ広がっていく。
そのまま波打ち際を越え、海面すれすれを這うように進んでいった。
ウェンティは頬に当たる海風を感じながら、その霧を目で追う。
「霧は風に流されないんじゃな。」
「魔力で作られた霧は自然の霧とは別物だからな。」
マーベリックの言葉を聞きながら、ウェンティは風に逆らうことも流されることもなく漂う霧へ視線を戻した。
その先でリアが左手も持ち上げ、静かに目を閉じる。
「霧よ我が元へ……」
広がっていた霧の中から細かな粒子が浮かび上がり、ゆっくりとリアの両手へ引き寄せられていく。
「そして、集いて巡れ……」
シュウゥゥゥ――……
集まった粒子が掌の上を巡り始める。
ウェンティはその動きを追っていたが、ふと眉を寄せ、周囲の砂浜へ目を向けた。
「周りの霧が集まる?……違うな……霧は消えておらん。」
「ああ。リアはすべてを収束させていない。蒼雷に必要な粒子だけを集めている感じだ。」
マーベリックも霧の残る海面からリアの両手へ視線を戻し、その指先の動きをじっと見つめる。
(そんな器用なことができるのか?俺もはじめて見る。)
視線だけを動かし、砂浜を覆ったままの霧を確かめる。
(霧は残せる……ということか……。)
シュン――シュン――シュン――……
掌の上で巡っていた粒子が次第に速度を上げ、左右それぞれに小さな渦を作る。
コオォォォ――……
細かく聞こえていた回転音がひとつの低い唸りへ変わった瞬間、リアの両手が青白く染まり、その身体を包むローブが一方向ではなく縦横に激しく揺れ始めた。
ウェンティは舞い上がった砂を避けるように腕で口元を覆い、乱れる髪の隙間からリアを見る。
「風向きが変わった?リアが吸収しておるのか?」
「そうだ。左右の渦の回転は逆方向……リアの周りだけ乱気流だ。」
マーベリックも目を細め、風に煽られるローブを押さえながら両手の渦を追う。
コオォォォ――――
さらに回転が増し、足元の砂まで細かく震え始める。
マーベリックは視線を外さないまま、隣へ声を落とした。
「ウェンティ……これからリアが帯電を起こす。」
ウェンティがすぐにマーベリックを見る。
「砂浜にも電流が流れる。気をつけろ。」
ウェンティは一度うなづき、足を開いて身体を低く構えた。




