第81話 リアの蒼雷②
リアの唇が再び動く。
「水は天へ――天より雷――」
ゴオォォォ――……
左右の渦が一段高い唸りを上げ、青白い光が掌の中で濃くなる。
「雷は巡り、巡りて蒼く――迸れ――」
霧の中に細かな光が走り、
「そして我が前に集い――」
その声に引かれるように、リアの周囲に残っていた霧までもゆっくりと渦を巻き始めた。
ウェンティは足元を流れていく霧と、身体を押す風の変化に気づき、さらに腰を落とす。
「周りにも影響が出始めたぞ!」
マーベリックは返事をせず、青白く染まり始めたリアの周囲をじっと見つめる。
(外はダンゲルの蒼雷と比べても引けを取らない……。)
目を細めたその先で、リアが両手を合わせる。
「その蒼き刃よ姿を見せろ!」
パアァン!
掌底を打ち鳴らした音と同時に、
バシュ!!バシュシュ!!
リアの前で青白い電流の帯が弾け、暴れながら海へ走った。
波の上を鋭い光が跳ね、その一部が砂浜へ逸れると、足元を這うように青い稲妻が迸る。
ウェンティは目を見開いたまま、リアを見つめる。
「出た……蒼雷じゃ……。」
「いや、まだだ。ここからだ……本番は。」
「ここから!?」
ウェンティが思わずマーベリックへ顔を向ける。
マーベリックは答えず、風に大きく揺れるローブの裾をそのままに、リアから目を離さない。
(今のリアなら出来るはずだ……。)
ピシッ!ピシシッ!
青白い稲妻がリアの腕を走り、そのまま肩を抜けて身体を包む。
(ここまではいつも出来る……ここから……。)
リアは歯を食いしばり、胸の奥に溜まった息を押し込む。
(私はハーベイの魔道士……。)
重ねた両手をゆっくりと前へ押し出した瞬間、右手が小刻みに震え始めた。
バシュン!
ビシ――ビシシ!!
掌の中で稲妻が弾け、指の間から抜け出そうと暴れ回る。
「くっ……」
右手を押さえ込もうと力を込めるたび、抑えきれなかった稲妻が砂浜へ落ち、そのまま足元を這って走った。
バシュシュ!
「うわっ!」
ウェンティが身体を反らし、目の前を抜けた稲妻を間一髪で避ける。
「ウェンティ!離れろ!」
マーベリックの声にウェンティがすぐ足を引き、二人は風と砂を受けながら後ろへ距離を取った。
リアは震える右手から視線を外せず、額を伝った汗が頬へ流れていく。
(安定……しない……)
「安定……しないのか?」
ウェンティが息をのみ、暴れ続ける青白い光を見つめる。
マーベリックも唇を噛み、身体から漏れ出す稲妻の軌道を目で追った。
(自分の力に押し負けている。このままだと暴発する……。)
「やっぱり……私じゃ……」
リアは震える右手首を左手で押さえ、必死に身体へ引き戻そうとする。
その時、風と電流の音を突き抜けるように背後から声が飛んだ。
「リア――――!」
「!?」
リアが反射的に振り返る。
霧の向こう、離れた砂浜でターニャが両手を口元に当てている。
「ターニャ……。」
ターニャは大きく息を吸い込むと、さらに身体を前へ乗り出した。
「あなたならできる!絶対にできるからぁ――!」
リアはその声を受けたまま、一度だけ目を閉じる。
(私なら……できる……)
小さくうなづいて前へ向き直ると、唇を噛み、眉を寄せながら暴れる右手へ力を込めた。
「できる!やらなきゃいけないんだ!」
掌から弾けようとする稲妻を両手で押さえ込む。
「みんなを守るんだ……この蒼雷で!」
ビシッ――!
広がっていた稲妻が一瞬大きく弾けたあと、逆に掌の中心へ吸い込まれるように集まり始める。
その青白い光は両手から上下へ伸び、細く長い形を取り始めた。
マーベリックの目がわずかに開く。
「急に安定しだした……。」
ウェンティはリアを見たまま、ゆっくりとターニャへ顔を向けた。
「ターニャじゃ……ターニャがリアを支えた……。」
シュゥゥ――……ビシ!ビシシ!
リアは大きく息を吐き、震えの残る指先へもう一度力を込める。
手から上下へ伸びた青白い光は、そのままリアの背丈ほどの長さまで広がると、激しく明滅しながら形を保った。
リアは目の前に浮かぶ光を見つめ、かすかに息を漏らす。
「できた……蒼雷の弓……。」
周囲では青い稲妻が絶え間なく走り、そのたびに渦を巻く霧の中が白く照らされる。
ウェンティは風に揺れる髪を押さえながら、目を離さずマーベリックへ問いかけた。
「マーベリック……できたのか?」
「ああ。乗り越えた。」
マーベリックは青白い弓を握るリアの手元へ視線を落とし、そのまま目を細める。
(形はできた。あとは撃てるかどうかだ。)




