第78話 蒼雷
「街を守るために……私は蒼雷を撃ちます。」
リアはまっすぐにマーベリックを見つめた。
コチ――コチ――コチ――
静かな部屋に時計の音だけが刻まれる中、マーベリックはその視線を受け止めたまま、ゆっくりとうなづく。
「わかった。俺も最善を尽くす。」
張っていたリアの肩がわずかに下がる。
「その前に1度君の蒼雷を見ておきたいがいいか?」
「蒼雷を?」
マーベリックがうなづく。
「ああ。俺はダンゲルの蒼雷しか知らないからな。」
「蒼雷ならみんな同じじゃないのか?魔力によって大小はあると思うが……。」
ウェンティが顔を向けると、マーベリックは小さく息を吐いた。
「蒼雷は別枠なんだ。」
「別枠?」
ウェンティが首をかしげる。
「ああ。質の違う水魔法を合わせて帯電を作り出す。」
マーベリックは隣のリアへ視線を移した。
「そうだな?リア。」
「はい。」
リアは両手を胸の前へ出し、左右にわずかに間を空ける。
「左では左回転、右では右回転の力を出します。」
「それを……」
パン!
リアが両手を合わせると、その音にウェンティの目が向いた。
「合わせた衝撃により、帯電を作り出します。」
そこへマーベリックが言葉を重ねる。
「摩擦を利用する。擦れ合う魔力同士でな。」
「これは水魔法でしかできない。」
ウェンティは組み合わされたリアの手からマーベリックへ視線を戻し、目を細めた。
「マーベリック……お主、なぜそこまで知っておる?お主は風の魔道士じゃろ?」
「テセルス時代にダンゲルと何度か黒影討伐に行ったことがあるからな。」
「そういう理由か……。」
ウェンティが腕を組む横で、マーベリックは再びリアへ目を向けた。
「蒼雷の難しさもよくわかってる。」
リアがその視線に小さくうなづく。
「まだ夜明け前だ。今から1時間後、海岸で君の蒼雷を見せてもらう。」
「わかりました。」
マーベリックは顎髭へ指を滑らせながら、先ほどのリアの言葉を頭の中でもう一度なぞった。
(リアは蒼雷を撃ちますとはっきり言った。)
(何かを掴んだようだな。昨日と顔つきも違う。)
リアの目はまだこちらへ向いている。
(あとは、リアがどこまでできるか……だな……。)
やがてリアは椅子から立ち上がった。
「では海岸へ先に行っています。」
深々と頭を下げるリアに続いて、エディも腰を上げた。
「じゃあ、俺もできることをやる。」
そのままマーベリックへ向き直る。
「点在してる船を全部集めて避難できるようにしておく。」
「いい案だ。黒影は海には入れないからな。」
マーベリックが小さくうなづくと、リアもエディへ顔を向けた。
「エディ……お願いします。では、海岸でお待ちしています。」
リアはそのまま入り口へ向かい、扉を開けて外へ出ていく。
「……。」
ターニャは何も言わず、膝の上で握った拳へ視線を落としていた。
ガチャン――
扉が静かに閉じる音に重なるように、ターニャが立ち上がる。
「ターニャ?どうした?」
ウェンティが目を向けると、ターニャは顔を上げかけて、また唇を結んだ。
「……私……。」
その目元を見たウェンティは、少しだけ首を傾ける。
「リアに伝えたいことあるんじゃろ?」
ターニャは一度ウェンティを見つめると、そのまま扉へ向かい、リアのあとを追った。
(しっかりの……ターニャ。)
(今度はちゃんと伝えられる……。)
閉じた扉を見つめていたウェンティは、やがて天井へ視線を上げると、ふっと口元を緩めた。
バタン――
外へ飛び出したターニャの頬を、夜明け前の冷たい海風が撫でていく。
(リア……。)
外壁を抜けて海岸線の歩道へ出ると、その先を歩くリアの姿が目に入り、ターニャはすぐに駆け出した。
足音に混じって波の音が近づいてくる。
(リアに……ちゃんと言わなきゃ……。)
「リア――!」
声が海岸通りを抜けると、リアの足が止まった。
振り返ったリアの髪を海風がさらい、彼女は片手で押さえながら、揺れるローブの向こうからターニャを見つめた。




