第69話 マーベリックの考察②
「マーベリックさん!」
背後から呼び止められ、マーベリックが振り返ると、防人が足早に近づいてきた。
「ダンゲルさんの具合はどうなんでしょうか?」
覗き込むように向けられた顔へ、マーベリックは静かに答える。
「命に別条はない。ただ数日間絶対安静だ。」
「そうですか……よかった……。」
防人は詰めていた息を吐きながら胸を撫で下ろした。
その呼吸が落ち着くのを待ち、マーベリックは薄暗く沈み始めた荒野へ目を戻す。
「君たちに頼みがある。」
「はい。私達にできることならなんでも。」
マーベリックは荒野の奥へ指を向けた。
「この荒野に明かりを灯したい。」
「ああ。3カ所……均等に。火球はあるか?」
「あ、はい。しばらく使っていませんが倉庫のほうに。」
そのまま指先を動かし、前門の上に据えられた投石機へ向ける。
「投石機から3方向……距離は500付近。」
防人へ視線を戻し、
「夜にもしかしたらまたあの大軍が来るかもしれないからな。」
防人の口元が引き締まる。
「わかりました!今準備をさせます!」
すぐに外壁の下へ身を乗り出し、
「火球、用意してくれ!倉庫にある!3つだ!」
声が下まで届くのを見届け、マーベリックは小さく頷いた。
(女王はこちらの裏も読んでくる。対策は必要だ。)
「あと、外壁外に均等間隔にかがり火を頼む。」
「はい。そちらもすぐに。」
防人が階段へ駆けていくと、その足音を追うように風向きが変わった。
ヒュオォォォ――……
ローブの裾が荒野側へ引かれ、暗闇の奥へ風が吸い込まれていく。
(あとは……あの大軍にどう対処するかだ……。)
(こちらの戦力としてはダンゲルが動けない分圧倒的に不利……。)
マーベリックは風に煽られるローブをそのままに、暗く沈んだ空を見上げた。
(俺に……ウェンティ……リア……。)
一度浮かんだ名を、すぐに打ち消す。
(……いや……ウェンティはダメだ……。)
(あの力は魔力とは明らかに違う……。)
目線を下ろすと、外壁の上では防人たちが倉庫から運び出した火球を抱え、投石機へ集まり始めていた。
「火球を落とすなよ!」
「はい!」
声が飛び交う中、外壁の外へ目を移せば、火のついたかがり火を持った防人たちが距離を取りながら並んでいく。
(……リアが頼り……)
マーベリックは小さく息を吐き、投石機へ運ばれていく火球を目で追った。
(ダンゲルの弟子といっても蒼雷ができるとは限らない……。)
前門の上から声が落ちてくる。
「マーベリックさん!投石機の準備できました!」
「ああ!頼む!」
「はい!」
防人が火を近づけると、
ボワッ!
火球の表面を炎が這い、暗くなり始めた外壁の上を赤く染めた。
(……リアと一度話さなければダメだな。)
燃え上がる火を見つめたまま、マーベリックの目が細くなる。
(……返答によっては……。)
「火球!発射します!」
ダン!
縄が切られた瞬間、
ブォン!
投石機が大きく振り上がり、その反動とともに火球が暗闇を切り裂いて弧を描いた。
ヒュゥゥゥ――……
夜空を鳴らしながら飛んでいく音が遠ざかり、やがて風の中へ消える。
その直後、
ボォォォン――……
荒野の奥で地面に叩きつけられた火球が破裂し、飛び散った炎が地を這いながら広がっていく。
遠くに生まれた明かりへ目を向けたまま、マーベリックは踵を返した。
「2発目!準備急げ!」
「すまないがここは頼む!何かあったらエディの家まで報告を頼む!」
外壁の上へ声を投げると、
「はい!わかりました!」
返事がすぐに追ってきた。
マーベリックはそのまま街側の階段へ向かう。
(まずはリアに話を……。)
足を止めず、暗くなり始めた街へ視線を落とす。
(それからだな……。)
階段を下り始めた背後から、防人の声が響いた。
「よし、2発目、北西……発射!」
ダン!
ヒュゥゥゥ――……
火球の鳴る音が頭上を抜け、夜空へ駆け上がっていった。




