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風は巡り、再び戻る。~風に導かれた出会い~  作者: Masa&G
第1部 ハーベイの魔道士
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第68話 マーベリックの考察①

2時間前、荒野側外壁上――


ヒュオォォ――


沈みかけた夕陽を受けながら、マーベリックは荒野の果てへ目を向けていた。吹き抜ける風がローブの裾を揺らし、その向こうには何もない大地がどこまでも続いている。


(黒影の数、約300……姿を見せてすぐに撤退……。)


風に煽られたローブを押さえることもなく、マーベリックは目を細めた。


(なぜ撤退した……。)


視線を荒野へ残したまま、外壁の上を山側へ向かって歩き始める。


(それにダンゲルとリアを襲った2体……やつらは山側からきた……)


足を止めて外壁の下を覗くと、地面は遥か下にあり、垂直に切り立った壁がそのまま荒野へ落ちていた。


(この高さは奴らは登れない。)


顔を上げたマーベリックは、そのまま外壁の端へ向かう。


角まで来ると、二つの壁が繋がる部分にわずかな凹凸が続いていた。近づいて身を乗り出し、下へ目を滑らせる。


(この場所……足を掛ける凹凸がある。)


外壁へ手を添えたとき、その近くに細く削れた跡が残っているのが目に入った。指先を寄せ、跡に沿ってゆっくりとなぞる。


(爪で削られたような跡……ここからか……。)


マーベリックはすぐに身を返し、近くの入口から荒野側へ出ると、壁の下から先ほどの場所を見上げた。


外壁の角には、上へ向かって三つの凹凸が続いている。


一番下へ目を合わせ、そこからゆっくりと視線を上げる。


(1……)


次の凹凸へ黒影が跳ねる姿を頭の中で重ねる。


(2……)


さらに上へ――


(3……)


(そして外壁の上へ……)


目を凝らすと、最上部にも薄く爪の跡が残っていた。


(あの小型の黒影なら容易く登れる。)


再び外壁へ上がったマーベリックは、荒野から吹きつける風を受けながら前門へ向かって歩き始めた。


(あの2体は俺達に脇目も触れずダンゲルとリアに飛びかかった……。)


(まるではじめから狙っていたかのように……。)


歩みを緩めることなく、山側から前門へ続く外壁の上を進んでいく。


(……今までそんな黒影見たことない……個別認識して襲う……。)


一度俯きかけた視線を、マーベリックは再び荒野へ向けた。


(いや……今まで見ていなかっただけなのかもしれん。)


大きく息を吐くと、その呼吸をさらうように風が抜けていく。


(…………。)


ヒュオォォォ――……


鳴り続ける風の中で、荒野の奥へ目を凝らす。


(……女王……。)


(すべてが女王の意思だとしたら……。)


マーベリックの眉間に深く皺が寄る。


(他の黒影をすべて操ることができるとしたら……。)


(ハンスが言っていた……複数の毒が混ざっていたと……。)


風に煽られ、ローブが背後で大きく揺れる。


(……女王が作り出した黒影……ただ……)


(ダンゲルとリアを殺すために……)


外壁へ両手を置いたマーベリックは、そのまま顔を伏せた。


(ただ殺すだけならこんなことをするのか?)


荒野へ視線を落としたまま、壁を掴む指にわずかに力が入る。


(あの大軍で一気に押し寄せ、ハーベイを落とした方が早いはず……。)


(蒼雷は中長距離魔法……それも理解してるはずだ……女王なら……。)


両手を外壁から離すと、マーベリックは再び前門へ向かって歩き始めた。


(知力のある女王なら……何を望む……。)


一歩ずつ足を進めながら、脳裏に女王の姿を浮かべる。こちらを見ていた、あの目が蘇る。


(……恐怖……)


歩みは次第にゆっくりとなり、風の音だけが周囲を流れていく。


(……絶望……)


(……毒によりダンゲル、リアが徐々に命を削られていく様……)


前門の前まで戻ったマーベリックは足を止め、外壁の内側へ視線を移した。


眼下に広がるハーベイの街からは人の声が消え、動く姿もほとんど見えない。


(ハーベイに住む者達を恐怖に陥れるため……)


静まり返った街を見つめながら、マーベリックの目が細くなる。


(この状況……女王は……ただ殺戮するだけじゃなく、これを狙っていた……。)


ヒュオォォォ――


荒野から吹き込んだ風が砂を巻き上げ、その砂煙が外壁を越えて街へ流れ込む。建物の輪郭が薄く霞んでいく中、マーベリックは動かずにそれを見つめていた。


(女王は退いたんじゃない……刻を待ってる……。)


(恐怖……絶望が最大になったときを……。)


砂煙の向こうに沈む街から目を離さず、ハンスの言葉を思い返す。


(ハンスは何も処置をしなかったらもって3日と言った……女王もそれを把握しているとしたら……。)


マーベリックはゆっくりと顔を上げ、再び荒野へ目を向けた。


「3日後……女王は来る。」


風に揺れるローブの中で、その視線だけは荒野の奥から動かなかった。


「次はハーベイを壊滅させるために。」

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