第6話 湖にて①
背中を向けて立つウェンティの背を見ながら、マーベリックは足を止めたまま様子をうかがう。
「マーベリック。お主はこれからどこにいくのじゃ?」
声に視線だけ向ける。
「ん?いや、別に決めてはいない。」
胸の奥に溜まっていた息を一つ吐き出し、そのまま視線を少し遠くへ流す。
「まぁここから西は行ったことがないからな。」
その言葉に反応するようにウェンティが振り返る。
「旅をしてる…そんなところか?」
「まぁ…そうなるかもな。」
軽く肩をすくめながら答え、すぐに視線を戻す。
「お前はどこ行くんだ?探してる人いるんだろ?」
「探してるやつがどこにいるのかはわからん……。」
わずかに視線が揺れ、そのまま足元へ落ちる。風が一つ、静かに通り抜けた。
少し困ったように眉を寄せながら、マーベリックはウェンティへと歩み寄る。
「この先、集落が見つかるまで一緒に行くか?一人だと危険かもしれんからな。」
ウェンティは一拍置いてからうなづく。
「助かる。」
そのまま二人は並び、山の反対側へと足を踏み出す。足裏に伝わる地面の感触を確かめながら進み、風が頬をかすめていく。
「そういやウェンティは今いくつだ?」
「いくつ?いくつとは年のことか?」
「ああ。」
前を歩いていたウェンティが振り返り、後ろ向きのまま歩調を崩さず両手を少し広げると、首を軽くかしげてマーベリックを見る。
「いくつにみえる?」
(身長…顔立ちから15、6あたり…。)
視線を上から下へと流しながら答える。
「15、6ぐらいか?」
その言葉にウェンティがふっと目線を外す。
「違ったか?」
問いかけに対して答えず、くるりと前を向き直ると、そのまま両手を後ろに組んで歩き出す。
「そう見えるならそれでよい。それがわしの年じゃ。」
「なんだそりゃ…。」
呟きながら、マーベリックはその後ろ姿を追う。
周囲へ視線を走らせながら歩くウェンティの背を見つめつつ、思考だけが内側へ沈んでいく。
(あの落ちてきたのは射出魔法だよな……。)
(ウェンティはテセルスでは見たことはない…剣聖国にも魔道士がいるってことか?)
(人を探してるとか言ったな……。)
足を進める感覚とは別に、思考だけが深く潜っていく。
「おい!マーベリック!」
「ん?」
呼ばれていたことに気づき、顔を上げる。
「お主の悪いところじゃぞ!考え込んでおると耳にすら入らない…まったく!」
ウェンティが小さく息を吐きながら前を指した。
「山の反対側が見えてきたぞ。」
その指先を追って視線を伸ばし、マーベリックは足を速めて隣へと並ぶと、そのまま前方の景色を見渡す。遠くに広がる地形をなぞるように目を細めるが、言葉は出ない。
「……。」
「どうした?」
覗き込むように顔を寄せるウェンティに対し、視線だけを前に残したまま答える。
「集落はあそこか…。」
ウェンティも同じ方向へ目を向け、遠くの影を探るように目をこらす。
「建物が並んでる…あそこまで行くのか?」
マーベリックはわずかにうなづきながらも、その距離を測るように視線を落とす。
「だが今日は無理だ。山の麓に集落があればと期待したが、夜になるからな。」
言いながら空を見上げると、光の色がゆっくりと変わり始めているのがわかる。
「湖まで戻るぞ。そこで1泊だ。」
「せっかくここまで来たのに戻るのか?」
ウェンティが肩を落とし、あからさまに不満を滲ませる。
「危険はできるだけ回避しないとな。湖周辺のほうが安全だ。」
そう言って軽く手で合図を送り、
「さ、戻るぞ。」
そのまま踵を返す。
ウェンティは一瞬だけ遠くの集落へ視線を残したまま立ち止まり、それから小さく息を吐いて渋々と後を追った。




