第65話 リアとウェンティ①
エディの家へ着くと、ウェンティは扉を開けながら振り返った。
ガチャ――
「入ってくれ。」
満足そうに笑うウェンティを見て、リアは小さく首を振る。
「あ、大丈夫です。」
そう言い終える前に手を取られ、そのまま居間まで引っ張られていく。
「ここに座っておれ。」
椅子へ座らせると、ウェンティは嬉しそうな足取りで台所へ向かった。
「今紅茶作るからの。」
ほどなくして食器を動かす音が聞こえ始める。
「ターニャはわしらが帰ってくるといつも紅茶を入れてくれるんだ。」
カチャ……
カチャカチャ……
「ターニャの紅茶を飲むと落ち着くんじゃ。」
ガチャン!
「わわっ!」
思わず腰を浮かせかけたリアだったが、
「落とすとこだった……。」
その声を聞き、静かに座り直した。
「ん?」
台所から漏れた声に、もう一度顔を上げる。
「火がついておらん……いつもはついているのに……。」
少し首を傾げていると、
「リア!ちょっときてくれ!」
呼ばれるまま立ち上がり、台所へ向かった。
かまどの前では、ウェンティが中を覗き込んでいる。
「火がついておらん。いつもはついておるのに。」
リアも腰を落とし、かまどを覗き込んだ。
「避難の際に消したようですね。」
「いつもついているわけではないのか?」
リアは静かにうなずく。
「ターニャがいつも火を起こしているのだと思います。」
その言葉に、ウェンティは腕を組んだ。
「てっきりずっとついてるものだと思っておった……。」
少し考え込んでいたリアが口を開く。
「薪のある場所……わかりますか?」
「薪?燃やす木のことか?」
「はい。」
ウェンティは裏口へ目を向けた。
「ターニャはそこの裏口から木をもってきているぞ」
リアもその先へ視線を送り、
「火、起こしますか?」
ウェンティがぱっと振り返る。
「リアも火をつけられるのか?」
「はい。」
「じゃあこっちじゃ!」
またウェンティに手を引かれ、そのまま裏口へ向かう。
「引っ張らなくても行きます。」
ギィ――
裏口を開けると、壁際には薪が積まれていた。
「これじゃな!」
リアはうなずきながら辺りへ目を向ける。
(あとは藁があれば……。)
壁際を見回していると、小さな麻袋が目に留まった。
(これかな……。)
袋を開くと、中には藁が詰まっている。
「ウェンティさん、薪を……」
その声に重ねるように、
「ウェンティでよい。わしもリアとしか呼んでおらんからな。」
「あ……はい。では、ウェンティは薪を4本運んでください。」
「わかった!」
重なった薪を上から四本抱え上げ、そのまま家へ向かう。
リアも薪と藁を抱き直し、その後を追って家へ入った。
リアが台所へ戻ると、ウェンティはかまどの前にしゃがみ込み、薪を並べていた。
「確かこうやって……重ねて……。」
その手元を覗き込むと、薪は三角に組まれている。
「ターニャの家は三角に薪を重ねるのですね。」
後ろから声をかけると、ウェンティが振り返った。
「火の中の木がなくなりそうなときは、こういうふうにターニャは並べておった。」
「リアのやり方はちがうのか?」
リアは静かにうなずく。
「屋敷では薪は四角に組みます。」
「じゃあやって見せてくれ。」
ウェンティが体を横へずらす。
「はい。」
リアはローブの裾を少し捲ると、奥へ薪を入れ、一つひとつ組み始めた。
「なるべく空気が入るように……」
組み終えると藁を手に取り、囲いの真ん中へそっと置く。
「そして真ん中に……」
「あまり藁を詰めすぎてしまうと火が消えてしまうからこれくらいで。」
ウェンティはその手元をじっと見つめる。
「リアもすごいの……ターニャみたいじゃな。」
「ハーベイに住む者ならみんな出来ることです。」
そう答えながら周りへ目を向ける。
「ん?何か探しているのか?」
「火打ち石を……。」
「火打ち石?」
リアはかまどの奥の棚を見る。
「あ、ありました。これです。」
火打ち石を取り出し、ウェンティへ見せる。
「これで火がつくのか?」
「はい。見ててください。」
リアはかまどへ手を入れ、藁の近くで火打ち石を打ち鳴らした。
カツン――
カツン!
パチン!
「お!火花が出おった!」
「これをうまく藁の上に火花が落ちるように……」
カツン!
パチン!
火花が藁へ落ち、小さく煙が立ち上る。
リアはそのままやさしく息を吹きかけた。
ふぅ――……
赤く灯った火種が少しずつ大きくなる。
「ウェンティ。そこにある木の皮を取ってください。」
「ん?どこじゃ?」
ウェンティが辺りを見回す。
「薪が4つ置いてある上です。」
リアが指を向けると、
「これか。」
薪の上に重ねられた木の皮を手に取り、そのままリアへ渡した。
「ありがとうございます。」
受け取った木の皮を藁の上へ重ねる。
ふぅ――……
もう一度息を吹きかけると、火は木の皮へ燃え移り、小さな炎がゆっくりと立ち上がった。
「おお!いつものかまどに戻ったぞ!」
「これで紅茶を入れられる!」
ウェンティが嬉しそうに声を弾ませる。
「火さえあればあとはわしができる。リア。助かった。」
リアは微笑み、うなずく。
それにつられるように、ウェンティも微笑んだ。
「じゃあ居間で待っていてくれ。うまい紅茶をいれてやる。」
「はい。」
ウェンティは鉄の鍋へ水を入れてかまどに掛け、そのまま手際よくカップを並べ始める。
その様子を見届けると、リアは静かに居間へ戻った。




