第64話 帰り道②
「さぁ、俺達も行くぞ。」
マーベリックが歩き出すと、ウェンティとリアもその後を追う。
海沿いの側道へ出ると、吹き抜ける潮風がローブの裾を揺らした。
ザアァァ――……
ザアァァ――……
夕陽はゆっくりと地平線へ傾き、淡く染まった空が少しずつ夜の色を帯び始めている。
ウェンティはリアの隣へ並ぶと、肩が触れそうな距離のまま歩幅を合わせた。
「なぁ、リア。」
「はい。」
「お主はこの街が好きなのだろ?」
「……はい……。」
「わしも好きじゃ。」
リアが横目を向ける。
ウェンティは空を見上げたまま、口元だけをわずかに緩めていた。
「みんな楽しそうに暮らしている。」
「だからわしはこの街が好きなのだろうな。」
そう言ってリアへ顔を向ける。
「……楽しそう……。」
小さく返した声に、ウェンティもうなずいた。
「ダンゲルとリアがこの街を守っているからじゃ。」
「……私は……ダンゲル様のお側にいるだけなので……。」
前を歩くマーベリックは振り返らず、そのまま二人の会話を聞いている。
「そんなことないと思うがの……。」
ウェンティは両手を頭の後ろで組み、空を見上げた。
「ダンゲル様に仕えるのが私の役目です。」
海風が頬を撫で、そのまま三人のローブを静かに揺らしていく。
「うーん……リアはダンゲルが好きなんじゃな?」
リアが勢いよく振り返る。
「そ、それは違います!そういうの……ではなく……。」
頬がみるみる赤く染まる。
「違うのか?」
「……。」
前を歩くマーベリックが静かに口を開いた。
「リア、ウェンティが言ってるのは人として……の意味だ。」
「あ……それなら……はい……です。」
「うむ。やっぱり好きではないか。」
「で、ですから……その好きと言うのは……。」
ウェンティは不思議そうに首を傾げる。
「ウェンティ。リアが困ってる。」
マーベリックは苦笑まじりに一声かけ、そのまま足を止めた。
「俺はこのまま外壁へ言ってくる。二人はエディとターニャを家で待っていてくれ。」
「わかった!」
ウェンティはそのままリアの手を掴む。
「こっちじゃ!」
「引っ張らなくても家はわかります……。」
引かれるまま脇道へ入っていく二人の後ろ姿を見送り、マーベリックは静かに向きを変えた。
(ダンゲルなしで俺達がどこまでやれるか……。)
外壁へ続く階段へ足を掛ける。
一段、また一段と登るたび、頭の中ではあの戦いが何度も繰り返されていた。
(なぜあの時、女王は退いた……。)
(ハーベイの魔道士が狙いならそのまま進軍したほうが勝機は高いはず……。)
足を止め、薄暗くなり始めた荒野へ視線を向ける。
(女王の動きが読めない……それともわざと読まれないようにしているのか……。)
吹きつける風がローブを鳴らす。
あの瞬間を思い返すように、マーベリックはゆっくり目を細めた。
(ダンゲルが毒にかかったのを確認してから退いた……そんな感じだ。)
「…………。」
風だけが荒野を渡っていく。
(……人間に恐怖を植え付けるためにわざと退いた……。)
裾を揺らす風を受けながら、マーベリックは遠くの地平線を見据える。
(だとしたら……また近いうちに……)
(女王は動く……。)




