第63話 帰り道①
治療院の扉が静かに閉まる。
ガチャン――
「ハンス。ダンゲルを頼む。」
ハンスは小さくうなずき、
「マーベリック。無茶だけはするなよ。」
「ああ。」
短く返すと、そのまま治療院を後にした。
坂を少し下るにつれ、待っていた馬車が見えてくる。その前では皆が息をひそめるように立ち尽くし、マーベリックの姿を見つけた瞬間、リアが堪えきれず駆け寄った。
「マーベリックさん……ダンゲル様は……」
今にも泣き出しそうな声だった。
「また毒は抜けきっていない。余談は許さないがハンスが付きっきりで見ていてくれている。」
リアは視線を落としたまま、小さくうなずく。
「心配しなくても大丈夫だ。」
「はい……ありがとうございます。」
肩へそっと手を添えられ、リアは皆のもとへ戻る。
ウェンティとエディもマーベリックの顔を見つめたまま言葉を待っていた。
「ダンゲルが受けた毒はまだ抜けきれていない。余談は許さないがハンスが付きっきりで見えている。大丈夫だ。」
エディが張りつめていた息をゆっくり吐き出す。
「そうか……よかった……。」
隣ではウェンティも静かにうなずいた。
そのままエディが顔を上げる。
「これから先……俺達はどうすればいいんだ?ダンゲルさんも今は動けない……。」
「またあの大軍が来たら……。」
疲れの滲む声だった。
「とりあえず一度家にみんなを戻そう。そして今日の夜。みんなで作戦を練る。」
「みんなで?」
「ああ。ダンゲルが動けない今。みんなで乗り越えるしかない。もちろん俺も最善は尽くす。」
マーベリックは言葉を切り、横目でリアを見る。
俯いたまま、リアはまだ動かない。
「そう……だな。俺達の街だもんな。俺は何をすればいい?」
「エディは各防人を集めてくれ。夜、俺から話をする。」
「ああ。わかった。」
エディは一歩近づくと、周囲に聞こえないよう声を落とした。
「さっきウェンティと話したんだがリアをうちにしばらく泊めようと思う。」
(ダンゲルが動けない今……リアが中心にならないといけない。)
「ああ。わかった。」
エディが目だけでウェンティへ合図を送る。
それを受けたウェンティは軽くうなずき、そのままリアの前まで駆け寄った。
「リア!」
目の前で足を止め、そのまま下から顔をのぞき込む。
リアは思わず一歩身を引いた。
「今日からエディのうちに泊まるんじゃ!いいな!」
「え……。」
驚いて言葉を失う。
「お、おい!もう少し……」
エディが慌てて声を掛けるが、ウェンティは真っ直ぐリアを見つめた。
「わしらはお前のことを一人にしておけん。みんなお前を心配しておる。」
その表情から笑みが消える。
エディも足を止めた。
リアは何も言わず、ウェンティを見つめ返す。
「お前は一人じゃない。」
しばらくして、リアは小さくうなずいた。
「よし。エディ、リアは説得したぞ!」
途端に得意げな笑顔が戻る。
エディは腰へ手を当て、小さく息を吐いた。
「ウェンティらしいやり方だな。」
「ああ……まったくだ。」
マーベリックも思わず口元を緩める。
「じゃあ動くぞ。俺は屋敷に行って皆に事情を話す。ターニャは連れてくる。」
「マーベリック達は先に家に帰っててくれ。」
マーベリックがうなずく。
「そのあと、防人達の班長達を集める。」
「ああ。すまないが頼む。」
エディは馬車へ乗り込むと手綱を握り、ゆっくり屋敷へ向かっていった。




