第62話 病床にて
「マーベリック。君に1つ質問がある。」
ハンスの声に、マーベリックは伏せていた視線を上げた。
「この毒は、一体の黒影の仕業なのか?」
「そうだが……どういうことだ?」
ハンスは小さく息を吐くと、膝の上で組んでいた手をゆっくり離した。
「少なくとも4つの黒影の毒がダンゲルの中に入っている。」
「4つ……。」
マーベリックの眉間に皺が寄る。
「4体の黒影……しかも質が違うものだ。」
「襲ってきたのは一体なのだろう?」
「ああ。それは間違いない。」
ハンスは腕を組み直し、そのまま視線を床へ落とした。
「作られた黒影……。」
(作られた?)
「女王が作ったとでも言うのか?」
「それはわからない。ただ間違いなく質の違う毒が4種類入っている。」
ハンスは顔を上げ、マーベリックの目を真っ直ぐ見た。
「普通の人間なら即死かその場で黒影化になる。」
(まさか……女王が特化型を作ったというのか?)
マーベリックが思考を巡らせている間に、ハンスは椅子から立ち上がった。
「君一人なら面会を許可しよう。」
「すまない。」
マーベリックも立ち上がり、ハンスの後を追って奥の小部屋へ向かう。
ガチャ――
扉が開くと、寝台の上でダンゲルが目を閉じたまま、大きく、深く呼吸を繰り返していた。
「ダンゲル。マーベリックが来た。」
ハンスの声が届くと、ダンゲルの瞼がゆっくり開き、視線だけがこちらへ向いた。
「悪かったな。油断した。」
「無事で何よりだ。毒の状況はどんな感じなんだ?」
マーベリックが寝台のそばまで歩み寄る間に、ハンスは点滴へ液を追加する。
「体の中を何かがのたうち回っている感覚だ。体を動かすと激痛が走る。」
マーベリックはダンゲルの呼吸を見ながら、小さくうなづいた。
(毒の質は通常とは変わらないようだな……。)
「女王はどうなった?」
「……あれからすぐに撤退した。」
その言葉に、ダンゲルの目つきが変わった。
「撤退?どういうことだ……。」
「まるではじめからハーベイの魔道士二人が狙いだったかのような感じだ。」
ダンゲルは視線を落とし、浅く息を吐いた。
「あの大軍は囮……。」
「ああ。俺もそう見てる。」
「ぐっ……」
ダンゲルの顔が苦痛に歪がみ、それと同時に大きく息を吐く。
マーベリックはわずかに身を寄せたが、ダンゲルが呼吸を整えるのを見て、その場で足を止めた。
「無理はしなくていい。俺達で今はなんとかする。」
「……ああ。頼む。」
マーベリックがうなづくと、ダンゲルはその顔を見たまま、わずかに口元を緩めた。
「テセルス時代の時も似たようなことがあったな……。」
マーベリックも細く笑い、ほんの少しだけ視線を落とした。
「……覚えてる。皆を外に待たせている。」
そう言って立ち上がると、寝台から一歩離れる。
「安静にしててくれ。」
扉へ向かいかけた背中へ、後ろから声が届いた。
「マーベリック。」
足を止めてふり返ると、ダンゲルは寝台の上からこちらを見ていた。
「ハーベイを頼む。それと、リアのことも。」
マーベリックはその視線を受け止め、ゆっくりうなづいた。
「ああ……わかった。」
そのまま扉を開き、マーベリックは部屋を出た。




