第56話 報告②
ブロロロ――
クリフトは裏通りを抜けると、そのまま外壁沿いの道へ入った。
緩やかな坂を上り、小高い丘の上に建つ屋敷の裏手へ魔鉱三輪を止める。
エンジン音が消えるのを待ち、静かに降り立った。
カツン、カツン――
入口まで歩き、ノッカーを鳴らす。
そのまま一つ息を吐いたところで、
ガチャ――
「はい。」
扉が開き、リアが顔を覗かせた。
「ダンゲルさんはご在宅ですか?荒野の水源について報告があります。」
「はい。こちらにどうぞ。」
リアが扉を押さえる。
クリフトは軽く会釈をして中へ入った。
廊下を進み、客間へ案内される。
「こちらでお待ちください。今呼んでまいります。」
「お願いします。」
リアが静かに頭を下げ、そのまま部屋を後にする。
扉が閉まる音を聞きながら、クリフトは客間を見渡した。
(魔法……か……。)
視線の先には本棚。
整然と並ぶ魔導書の背表紙を眺める。
(エイダさんが見たら興味を示すだろうな。)
小さく口元が緩んだところで、
ドン……ドン……ドン……
重い足音が近づいてくる。
入口の前で止まり、
ガチャン――
「待たせたな。」
反射的にクリフトは背筋を伸ばした。
「お忙しいところすみません。」
ダンゲルは椅子を指差し、自身も腰を下ろす。
「で、報告があると聞いたが?」
クリフトも向かいへ腰を下ろした。
「はい。三時間ほど前、荒野に地下水が染み出ている場所を見つけました。」
ダンゲルの眉がわずかに動く。
「地下水……。」
「はい。確認のために私達は荒野へ向かいました。」
視線が向けられる。
クリフトはそのまま続けた。
「本来ならばダンゲルさんに許可をいただいてから向かうべきでしたが、水源が陽射しで消える場合もありましたので……。」
ダンゲルが腕を組む。
「こちらの判断で向かいました。」
言い切り、そのまま背筋を伸ばした。
「地下水は無事に回収。この水はセルディアに持ち帰り、成分を分析。後ほど報告を。」
ダンゲルがうなずく。
「ああ。頼む。」
「位置としては南の門から南東に二〇〇〇付近。細かい位置は地図を元に割り出します。」
コン、コン――
「失礼します。紅茶、お持ちしました。」
扉が開き、リアがトレーを持って入ってくる。
湯気がゆらりと揺れていた。
コトッ――
二人の前へカップが置かれる。
「ありがとう。」
「はい。」
リアは小さく頭を下げ、そのまま客間を出ていった。
扉が閉まる。
クリフトは視線を戻した。
「それと……その際に黒影と遭遇。二体撃破しました。すべてこちらの判断です。」
ダンゲルの表情がわずかに緩む。
「状況による素早い判断。そして解決……。」
「こちらとしては助かる。」
そう言って手でカップを示した。
クリフトはうなずき、紅茶を一口含む。
「今回の水脈はアリーシャが見つけました。明日以降予定していた探索個所……二個所を調査、地盤と水脈を調べます。」
「わかった。頼む。」
クリフトが再びカップを口元へ運ぶ。
ダンゲルは腕を組んだまま天井を見上げた。
「今までの調査結果からすると、水脈は街までは来ていないと?」
クリフトは視線を落とす。
「そうですね。山脈から離れるほど水脈は細くなります。普通でしたら水脈同士が合流して大きくなる……。」
「ですがこの周辺ではほとんどの水脈が一本のまま……。」
ダンゲルは何も言わず続きを待つ。
「この周辺の岩盤がそうさせているのかもしれません。」
クリフトは紅茶を置いた。
「この街にある二つの井戸はだいぶ前から存在していた……。」
「ああ。ハーベイの街になる前の村からあの井戸はあるからな。」
クリフトの口元がわずかに緩む。
「よく見つけたなと感心しています。」
ダンゲルはゆっくり天井を見上げた。
「この荒野で生きるためだからな。」
しばらく沈黙が落ちる。
「報告は以上です。」
「わかった。引き続き頼む。」
「はい。」
クリフトは立ち上がった。
その姿を見上げながらダンゲルが口を開く。
「アリーシャはどうした?」
「魔鉱三輪の整備をしています。」
「よろしく伝えてくれ。」
「はい。では失礼します。」
会釈を残し、客間を後にした。
廊下を抜け、そのまま入口へ向かう。
扉の近くにはリアが立っていた。
「お帰りですか?」
「はい。」
マントを羽織った姿が目に入る。
「これからどこかに行かれるんですか?」
リアは少しだけ考えるように視線を落とした。
「はい。街まで買い出しに。」
二人はそのまま外へ出る。
「魔鉱三輪で来ているので街までお送りできますよ。」
リアは足を止めた。
少し考え、
静かに会釈する。
「お気遣いありがとうございます。」
「大丈夫です。」
「わかりました。ではまた後ほどお伺いさせていただきます。」
「よろしくお願いいたします。」
クリフトが会釈を返して歩き出す。
背後で衣擦れの音が小さく揺れた。
裏手へ回り、魔鉱三輪へ跨がる。
ヒュィィ――ン……
ブオォン!
ド、ド、ド、ド――
駆動装置が低く唸る。
クリフトは前を向いたまま、
ふっと口元を緩めた。
(大丈夫です……か……。)




