第53話 対黒影戦①
砂を噛むような振動が足元から伝わる。
ブロロロロ――……
アリーシャは肩越しに振り返った。
(中型が二体、距離は200ぐらい……。)
迫る黒影を確認すると、そのまま視線を周囲へ滑らせる。
(新たな敵影はなし。)
「アリーシャ!このままだとハーベイまでやつらを引き連れることになる!」
風に流されそうな声を聞きながら、アリーシャは魔鉱三輪をクリフトへ寄せた。
「じゃあやるしかないね!」
横を向き、ニヤリと笑う。
「勝手に荒野に出て、黒影引き連れて戻りました。じゃ立場上さすがにまずいからな。」
クリフトも口元だけ緩めた。
ブロロロ――
二台は同時に速度を落とす。
後ろでは黒影も速度を合わせるように距離を詰めてくる。
アリーシャはゆっくり左へ操縦桿を倒した。
(まだ……もっと近づかないと……。)
ハッ――ハッ――ハッ――
風の音に混じって息遣いが届く。
肩越しに振り返りながら速度を微調整しながら走り続ける。
(私を見ろ……。)
その瞬間、黒影の目がこちらを捉えた。
(あった!)
舵を左へ切ると、黒影も反射するように進路を変えた。
アリーシャの口元がわずかに上がる。
そのまま二台の距離が開いていく。
クリフトは離れていく背中を見送りながら、
(もはや才能だな……。)
小さく息を吐いた。
(こっちもやるか。)
操縦桿を右へ倒す。
二体の黒影は綺麗に分かれ、それぞれを追い始めた。
クリフトはそのままハーベイを横目に南へ向かう。
巻き上がった砂煙が後方へ流れ、黒影の姿を薄く隠した。
(一撃で仕留められる大きさだな。)
腰のホルダーから魔光銃を抜く。
ガチャ!
銃後部を開き、魔光弾を差し込む。
カポッ。
そのまま閉じる。
ガチャン。
魔鉱三輪をさらに加速させる。
ブロロロォォォ――!
一気に距離を取ると操縦桿を大きく回し、砂を巻き上げながら反転した。
ド、ド、ド、ド――……
駆動音だけが低く響く。
クリフトは魔光銃を握り直した。
(さぁ……来い……。)
一方アリーシャ――
ブロロロォォォ――
吹き抜けた風に髪が揺れる。
前へ視線を戻した瞬間、雲の切れ間から差し込んだ陽射しが魔鉱三輪の外装を白く照らした。
アリーシャは腰のホルダーへ手を伸ばす。
カチッ――
安全装置を下げ、そのまま後ろを振り返った。
黒影は砂を蹴り上げながら真っ直ぐこちらへ向かってくる。
魔光銃を構える。
すると黒影が左右へ身体を振り始めた。
照準から逃れるような動き。
アリーシャは小さく笑う。
「なるほど……よく見えてるじゃん。」
魔光銃を戻し、燃料計へ視線を落とす。
針はゆっくり減り続けていた。
(あんまり乗り回すと燃料なくなるからね……。)
口元を緩めながら少しずつ速度を落とす。
ブロロロォォォ――
前屈みになり、後方との距離を測る。
(15……。)
荒れた地面を越えるたび魔鉱三輪が小さく跳ねた。
(10……。)
ハッ――ハッ――ハッ――
息遣いがはっきり聞こえる。
(5……。)
首筋に熱い吐息がかかりそうな距離まで迫る。
(3……。)
アリーシャの足が減速板にかかる。
(この距離!)
グガァァァ――!
黒影が飛びかかった。
その瞬間。
ガキュキュキュ!!
アリーシャは減速板を思いきり踏み込む。
魔鉱三輪が砂を噛みながら急減速し、飛びかかった黒影が頭上を越えていく。
目の前へ着地した背中。
無防備な背後。
「これで……」
アリーシャは腰から魔光銃を抜いた。
照準を合わせ、そのまま引き金を軽く引く。
ヒュィィ――ン……
魔光弾の反応音が響き、銃中央の確認窓が青白く輝き始める。
光が強くなり、そして――音が消えた。
「終わり!!」
引き金を強く引く。
バシュウゥゥ――!!
青白い閃光が一直線に走る。
ギャウゥッ!
黒影の身体を貫いた光はそのまま荒野の向こうへ抜け、次の瞬間には黒影の輪郭が崩れ始めた。
黒い霧となって風に散っていく。
プシュゥゥゥ――……
魔光銃の両脇から白い蒸気が吹き出した。
アリーシャは大きく息を吐きながら銃後部を開く。
ガチャ!
内部の魔光弾は熱を帯びていた。
革手袋のまま引き抜き、新しい魔光弾を差し込む。
カポッ。
ガチャン――
閉じたところでようやく肩の力を抜いた。
そのまま空を見上げる――




