第50話 アリーシャとクリフト①
同日、昼過ぎ――
女性は望遠筒を覗いたまま、荒野の一点へ視線を止めていた。
吹き上げられた砂が流れ、その隙間から地面の色がわずかに覗く。
「やっぱり、あそこが怪しいよね……。」
「そうだね。あそこがおそらく水脈の終着点。」
隣の男性が荒野を見つめたまま答える。
カチ……カチ……
女性は望遠筒の距離を調整した。
砂の色が周囲と違う。
黒く湿ったような跡が荒野の一角に残っていた。
「あの場所……砂が少し黒くなってる。クリフト、あそこにちょっと行ってみようか?」
「荒野に出るにはダンゲルさんの許可が必要だよ?アリーシャも知ってるはずだ。」
望遠筒から目を離し、女性が振り返る。
「ちょっと行って帰ってくるだけ。この辺の黒影は飛ばないしね。」
口元がわずかに上がった。
クリフトがため息を吐く。
「それに、私達だけのほうが動きやすい。」
アリーシャは真顔で言う。
「私達の任務は地盤を調べ、水脈を探し当てること!そうでしょ?」
そう言いながら一歩踏み込み、クリフトへ顔を寄せる。
クリフトがふっと笑った。
「そういうことにしておくよ。」
「じゃあすぐに行こう!」
カチン!
アリーシャは望遠筒をしまった。
「今かい?」
「当たり前でしょ?今は曇り、しかも海風が湿った空気を運んでる。」
アリーシャは海の方を指差し、そのまま荒野へ向ける。
「その条件が重なって地上に地下水が染み出た。」
再び海へ目を向ける。
遠く、海の向こうだけがわずかに明るかった。
「海の向こうに日差しが射してる……。日差しが射すとあの地下水は消える。だから二時間が勝負。」
クリフトはその横顔を見た。
(なんだ。ちゃんと行く理由があるじゃないか。)
口元が少しだけ緩む。
アリーシャはすでに歩き出していた。
クリフトも後を追う。
外壁の階段を降りながら、クリフトが声を掛けた。
「アリーシャ。確認なんだけど、魔鉱三輪の燃料……大丈夫かい?」
前を歩いていたアリーシャが半分だけ振り返る。
「あと一本半はあるから大丈夫。」
(一本残しておけば大丈夫か……。)
「わかった。」
二人は歩調を変えないまま小屋へ向かった。
中に置かれた魔鉱三輪が静かに待っていた。




