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第48話 浴場へ②

同時刻、女湯――


ガラガラ!


勢いよく引き戸を開けた瞬間、ふわりと温かい空気が頬を撫でた。


「おお……まるで湖じゃ!」


目の前いっぱいに広がる湯船に、ウェンティの目がぱっと輝く。


「ほんとにわしらだけしかおらん!」


湯気の向こうを見渡しながら声を弾ませるウェンティに、後から入ってきたターニャがくすりと笑った。


「ふふふっ。いつもなら数人いるんだけどね。」


「ウェンティ、ここに座って。はじめに体にお湯かけるから。」


「うむ。」


言われるまま、ちょこんと腰を下ろす。


ターニャは桶にお湯を汲むと、肩へそっと流した。


「熱くない?」


「熱くない!」


元気な返事を聞きながら、今度は背中へお湯をかける。


湯が流れ落ちる感覚に、ウェンティは小さく肩を揺らした。


「じゃあ体洗うね。」


ターニャは箱の中から葉を一枚取り出し、布へ擦りつける。


シャッシャッシャッ――


何度か擦るうちに、白い泡がゆっくりと膨らみ始めた。


「なんか泡が出てきたぞ……。」


ウェンティは目を離さず、その手元をじっと見つめる。


「これはね、ハーブの1つで擦ると泡が出てくるんだ。この泡が体をきれいにしてくれるの。」


「ほぅ……面白いのぅ。」


ターニャは指先に少し泡を取り、そっとウェンティの鼻先へ近づけた。


「いい香りするよ。」


くんくん――


鼻を動かしたウェンティの目が少し丸くなる。


「ほんとじゃ!あまい香りじゃ」


「ねっ。」


ターニャが笑う。


「じゃあ泡を手に取って。」


ウェンティは恐る恐る泡をすくい上げた。


「それを体につけて擦る。」


「こうか?」


ゴシゴシ――


ゴシゴシ――


「うん。そんな感じ。」


ターニャも隣で体を洗い始める。


しばらくすると、


「すごいの……これ。どんどん泡が出てくるぞ……」


ウェンティが自分の腕を見つめた。


泡は次々と膨らみ、腕から肩へ広がっていく。


「ターニャ!見て見ろ!体中泡まみれじゃ!」


両手を広げながら振り返る。


「ほんとだ。当たりのハーブだったね。」


楽しそうな声に、ターニャの口元も自然と緩んだ。


「じゃあ流したら入るよ。」


「うむ!」


ザバァ――


二人は泡を流し、湯船へ足を入れる。


ゆっくりと肩まで沈むと、温かさが体を包み込んだ。


「ふぅ……あったかいの……」


ウェンティが小さく息を吐く。


見上げた先では、立ちのぼる湯気が天井へ消え、その雫が時折ぽたりと落ちていた。


ポタン――


ポチョン――


しばらくその音を聞いていたターニャが、ふと口を開く。


「ねぇウェンティ。」


「なんじゃ?」


ウェンティは天井を見たまま答えた。


ターニャの唇がわずかに動く。


「……やっぱりなんでもない。」


湯の中へ視線を落とす。


ウェンティが首を傾け、何かを言おうとした時、


「ほんとになんでもないの。ごめんね。」


ターニャは先にそう言って立ち上がった。


「そろそろ時間だから上がろ。最後にかけ湯するね。」


「ウェンティこっち来て。」


「わかった!」


ザバァ――


湯から上がり、ターニャは桶にお湯を汲む。


肩へ、背中へ、最後に髪へ。


湯が流れ落ちる様子を見ながら、ターニャは静かに目を伏せた。


(やっぱり言えないよ……。)


(ここにずっといてほしいんだ……なんて。)


濡れた髪をぱたぱたと払うウェンティへ視線を向ける。


ターニャは小さく息を吐いた。


(ウェンティには会わないといけない人がいる。)


「はい、じゃあエディ達待ってるかもしれないから先に脱衣所行って着替えてて。私片付けていくから、」


ターニャが微笑む。


「わかった!」


軽い足音が遠ざかり、引き戸が閉まる。


静かになった浴場で桶を片付けていると、


「ターニャ!頭のこれ、ほどいてくれ!」


脱衣所から元気な声が飛んできた。


思わず肩が揺れる。


「はーい!今行くから待っててー」


「早くするのじゃー!」


「もう、少し待ってってば。」


返事をしながら引き戸へ向かう。


賑やかな声はまだ続いていて、ターニャは小さく笑いながら脱衣所へと入っていった。

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