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第46話 アリーシャとクリフト

ガチャ――


「遅くなってすまない。」


扉を開けたマーベリックの耳に、奥から駆けてくる足音が飛び込んできた。


「おそい!おそいぞマーベリック!」


勢いよく現れたウェンティがそのまま目の前まで走ってくる。


「つい話し込んでしまったからな。」


苦笑いを浮かべながら答えると、むくれた顔の下で何かが小さく光った。


「ん?それは?」


ウェンティはすぐに視線を追った。


「これか?」


マーベリックがうなずく。


「ターニャに買ってもらったのか?」


満面の笑みでうなずくと、ウェンティはくるりと向きを変えた。


「ターニャ!マーベリックはわしが言わんでも気付きおった!」


そのまま客間へ駆け込んでいく。


「よかったねウェンティ。」


奥から聞こえたターニャの声に、ウェンティはさらに嬉しそうな顔を見せた。


(よくわからん……。)


マーベリックは小さく笑いながら居間へ足を向けた。


「遅くなってすまなかった。」


「いえ。」


ターニャが微笑む。


「それに、ウェンティにあの装飾品……。」


言いながらターニャは視線を向けた。


胸元の飾りを大事そうに触りながら、ウェンティはまだ機嫌がいい。


「出店で見つけました。ウェンティが気に入って。ずっとつけてます。」


「ふふふっ。マーベリックに見せるんだって。」


「なるほどな。」


その言葉に、マーベリックの口元が緩んだ。


するとウェンティがまた近寄ってくる。


「さっきまで、みんなで共同浴場に行く話をしててな。マーベリックも行くぞ!」


そのまま背中を押される。


「お、おい……ちょっと待ってくれ……。」


「ウェンティ!」


奥からエディの声が飛んだ。


「浴場に行くのは飯を食ったあとだ。今の時間は混んでるからな。」


エディはニヤリと笑う。


「ゆっくり入りたいだろ?」


勢いよく押していた手がぴたりと止まった。


「そう……じゃの……。」


少し考えたあと、ウェンティはくるりと向きを変える。


「ターニャ!早く夕飯作るんじゃ!急に腹が減ったぞ!」


今度はターニャの背中をぐいぐい押し始めた。


「ちょっちょっとぉ~。」


「わしも手伝う!」


二人はそのまま台所へ消えていく。


残されたマーベリックとエディは顔を見合わせた。


マーベリックは椅子へ腰を下ろし、抱えていた本を机へ置く。


「続きを借りてきた。どうしても読みたくなってな。」


ふっと口元が緩む。


「エディも読みたいだろうと思ってな。」


「ああ。屋敷に行く手間が省けた。」


エディもつられるように笑った。


「今、セルディアから水脈の調査をしているからな。」


机の上の本へ目を向ける。


「俺達住民も少しは知識をつけといたほうがいい。セルディアにすべてを任せるわけにはいかないからな。」


マーベリックは小さくうなずいた。


「ダンゲルから話は聞いた。地盤や水脈の他、魔鉱石にも詳しいらしい。」


パチ――


暖炉の火が小さく弾ける。


「ダンゲルさんの屋敷にある魔鉱石はすべてセルディア産だ。」


「ダンゲルさんが質がいい。と言っていた。」


エディは肩をすくめるように両手を広げた。


「魔鉱石に関しては俺はお手上げだ。全くわからん。」


揺れる火を眺めながら、マーベリックは昼間の話を思い返す。


(ダンゲルが言った魔鉱石はすべての源……。)


暖炉の熱が頬を撫でる。


(それが本当ならエディ達も何かしらの影響は受けているはず……。)


「マーベリック。」


呼ばれて視線を戻した。


「セルディアから来ている、二人を荒野に案内したことがあるんだ。」


「そうなのか?」


「ああ。俺が一番荒野を走ってるからな。」


エディが細く笑う。


そのまま少し身を乗り出した。


「セルディアは馬車を使わない。」


マーベリックの眉間にしわが寄る。


「どういうことだ?まさか徒歩ではないよな?」


エディは一拍置いた。


「セルディアは魔鉱石を燃料にした乗り物を使う。」


「魔鉱石を燃料?」


思わず大きく息を吐く。


「よくわからないって顔してるな。」


「ああ。見たことも聞いたこともない。」


「俺の馬車より速い。」


その言葉に、マーベリックの目つきが変わった。


「興味あるだろう?」


「ああ。」


答えながら口元が緩む。


「俺は二人とは面識がある。今度会わせてやる。」


エディは少し天井を見上げた。


「名前は……アリーシャとクリフト。」


(アリーシャとクリフト……。)


頭の中で名前を反芻したところへ、廊下から慌ただしい足音が近付いてきた。


ドタドタドタ――


「エディ!マーベリック!夕飯じゃ!席に着け!」


料理を抱えたウェンティが勢いよく現れる。


「だそうだ。」


エディが腰を上げた。


「遅いとウェンティにどやされるからな。」


「そうだな。」


マーベリックも笑いながら立ち上がった。

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