第43話 ターニャの想い
「ただいまー。」
「今帰ったぞ!」
二人が家へ戻ると、居間の奥から声が飛んできた。
「おう!遅かったな。」
ウェンティは両手に荷物をぶら下げたまま居間へ入り、そのままエディの前まで歩いていく。
「エディ!見て見ろ!」
顔を覗き込むように身を乗り出す。
「ん?」
エディの目線が荷物へ向いた。
「ああ……ずいぶん買ったんだな。」
ウェンティの笑顔がすっと消える。
「そこではない……わしを見て見ろ!」
エディが改めてウェンティを見る。
「ウェンティだな……どうした?」
「……。」
後ろから入ってきたターニャに振り返る。
「ターニャ……エディはだめだ……。」
肩を落とした。
「おい……だめってなにがだめなんだ?」
ターニャが苦笑いをし、
「エディ。」
そう呼びながら自分の首元を指差した。
「ウェンティ、もう一回見せてあげて?」
むくれているウェンティの肩をくるりと前へ回し、そのままエディの前へ向ける。
「ウェンティどこか変わってない?」
後ろからそっと目線をウェンティの胸元へ置いた。
エディがじっくりと見つめる。
「……真珠の装飾品か!」
その瞬間、ウェンティの顔がぱっと明るくなる。
「やっと気付いたか!」
「おお!気付いた!ウェンティ似合ってるぞ。」
エディが笑いながら言うと、ウェンティは勢いよく振り返った。
「似合うって言ってくれたぞ!」
満面の笑みを向けられたターニャが小さく笑う。
「ふふふっ。よかったね。」
ターニャがエディへウィンクすると、エディは苦笑いを浮かべた。
「あとは、マーベリックだけじゃの!」
「そうだね。ウェンティ、荷物片付けるの手伝って。」
「わかった!」
二人は荷物を抱えたまま台所へ向かった。
そして夕刻――
シーツを広げたウェンティが端を引っ張ると、反対側を持ったターニャが軽く整える。
二人で何度か引き直し、ようやく綺麗に敷き終えると、ウェンティはぽすりとベッドへ腰を下ろした。
窓から入る光が部屋の中をゆっくり伸びている。
ターニャは洗濯物を抱えたまま床へ座り、一枚ずつ畳み始めた。
しばらくその様子を眺めていたウェンティが口を開く。
「なぁ、ターニャ。お主に聞きたいことがある。」
「うん。なに?」
手を動かしたまま答える。
「リアのことだ。」
その名前が出た途端、ターニャの手が止まった。
「お主はなぜ、そこまでリアを気にしておる?」
「今日リアと会ったとき様子がおかしかったから気になった。」
「……。」
洗濯物へ落ちていた視線が少し揺れる。
やがてターニャはゆっくりとそれを置いた。
「リアは……私と同じ……。」
そう言いかけて、小さく首を振る。
「違う……私達より……もっと……。」
ウェンティは黙ってその続きを待った。
「リアがハーベイに来たのは私達よりあとなんだ。」
「ダンゲルさんと一緒にここへ来たの。」
膝の上で指先が重なる。
「リアは……血まみれで……。」
ウェンティの表情が少し険しくなる。
「リアのケガじゃなかった。」
「ここへ来る途中、馬車が黒影に襲われて……。」
「リアだけが生き残った……。」
部屋の中に静かな沈黙が落ち、ターニャは再び洗濯物へ手を伸ばした。
「リアと私は同い年なんだ。」
畳みながらぽつりと続ける。
「村同士のお祭りとか……たまにあったとき、よく遊んでたの。」
「……でも……その時のリアは……違う人みたいだった。」
一枚畳み終え、隣へ置く。
気付けば窓から差し込んでいた光も少しずつ短くなっていた。
「あとから聞いたんだ。」
「家族でここへ向かってたとき、黒影に襲われたって……。」
「ダンゲルさんが、リアを助けたって。」
静かに息を吐く。
「次の日……リアの髪の色が白くなってた……。」
声がかすかに震える。
「……だから……。」
しばらく俯いていたターニャの目から、一粒の涙が落ちた。
「……でも……言えなくて……。」
ウェンティは小さく息を吐くと立ち上がった。
そしてターニャの前まで歩き、その頭へぽんと手を置く。
「ターニャ。お主はリアに何を言いたい?」
「何を伝えたい?」
ターニャが大きく息を吐いた。
少しだけ肩の力が抜ける。
「……私は……リアに言いたいのは一つだけ。」
膝の上で握っていた手を見つめる。
「リアは一人じゃないよ。みんないるよ。」
そしてゆっくり顔を上げた。
「私も……いるよって……ただ、それだけ言いたい。」
「そうか。」
ウェンティは顔を緩める。
「ターニャは優しい子じゃの。」
ターニャが顔を上げた。
「でも、ウェンティにまた言われちゃうね。」
「ちゃんとハッキリ言わんと伝わらんぞ!って。」
ウェンティは何も言わず、静かに首を横へ振った。
ターニャも小さく笑う。
その様子を見ながら、ウェンティはそっと目を細めた。
(ターニャも……リアも……ここで生きている。)
夕暮れの光がゆっくりと薄れていく。
(大切な人のために……)




