第41話 海底鉱山都市セルディア
マーベリックが客間へ足を踏み入れる。
コチ……コチ……コチ……
静まり返った空間に、大時計の音だけがゆっくりと響いていた。
視線を巡らせながら、前に訪れた時の感覚を思い出す。
(……この前に来たときも思ったが、この空間……。)
わずかに目を細める。
(……いや、屋敷全体か……テセルスの防壁と同じ作り方だ。)
マーベリックは手を前へ差し出した。
(風よ……。)
(我がもとへ集え……。)
シュウゥゥゥ――
指先へ風が集まり、ローブの裾がふわりと揺れる。
そのまま力を解き放つように手を開くと、
ゥゥゥ……
風は静かに周囲へ広がっていった。
しばらくその流れを感じ取り、
(……なるほど。)
胸の内で小さく呟く。
ガチャン――
「お待たせしました。」
「ダンゲル様が書斎に来るようにと。案内します。」
「ん?ああ。すまない。」
マーベリックはリアの後に続いて客間を出た。
静かな廊下を進み、階段を上がって二階へ出る。そのまま突き当たりまで歩いていくと、リアが一枚の扉の前で足を止めた。
「こちらです。」
「ありがとう。」
リアが軽く会釈をする。
コンコン――
すぐに部屋の奥から声が返ってきた。
「入ってくれ。」
ガチャ――
扉を開けると、ダンゲルが机に向かい筆を走らせている。
「忙しいところ悪いな。」
その声にダンゲルが顔を上げた。
「いや、かまわない。リアから話を聞いた。本を借りに来たと。」
マーベリックがうなづく。
「エディが借りた本の続き、読みたくてな。」
「エディ……ああ、水脈の本か。」
ダンゲルは少し考えるように天井を見上げると、後ろに立つリアへ視線を向けた。
「リア。茶を用意してくれ。」
「はい。」
リアは会釈を残し、静かに部屋を出ていく。
「座ってくれ。」
ダンゲルは机を離れ、書斎の中央に置かれた小さなテーブルへ向かった。
向かい合う椅子の一つへ腰を下ろし、マーベリックも向かいへ座る。
「お前が水脈に興味あるとはな。」
ダンゲルがニヤリと笑う。
「自分が持ってない知識はとくにな。」
マーベリックもつられて笑った。
「ここは水源が少ない。あの山脈から流れているのはわかっているんだがな……。」
マーベリックがうなづく。
「荒野で太い水脈は止まっている……。」
「ああ。だから今海底鉱山の連中に調査を頼んでいる。」
マーベリックの眉がわずかに動く。
「調査?」
「ああ、海底鉱山都市のセルディアというところから来てもらっている。」
「向こうは地下や地盤の専門家だからな。」
マーベリックは背もたれへ身体を預けながら腕を組む。
「セルディア……。」
「お前にない知識、そこには豊富にあるだろうな。興味があれば足を運ぶのもいいんじゃないか?」
ダンゲルの言葉にマーベリックの口元がわずかに緩んだ。
「そうだな。」
だが次の瞬間、ダンゲルの表情が引き締まる。
「毎回エディに真水を汲みに荒野を走らせるわけにはいかない。」
マーベリックが静かにうなづく。
ダンゲルは席を立つと本棚へ向かい、一冊抜き取って戻ってきた。
「続きだ。返すのはいつでもいい。」
目の前に置かれた本へ手を伸ばす。
「すまない。エディも読みたいと思うしな。」
表紙に目を落としたところへ、
ガチャ――
「紅茶、お持ちしました。」
リアがティーポットを手に書斎へ入ってくる。
コト――
コト――
二人の前へカップが置かれ、白い湯気がゆっくりと立ち上った。
「ありがとう。」
マーベリックが顔を上げると、リアが小さく会釈を返す。
「リア。少し休んでいい。」
ダンゲルが声をかける。
「はい。」
リアはもう一度会釈を残し、そのまま書斎を後にした。
ガチャン――
扉が閉まり、静けさが戻る。
立ち上る紅茶の湯気を眺めながら、マーベリックは本から視線を上げた。
「ダンゲルに聞きたいことがある。」




