第40話 家族
丘を登るにつれ海風が強くなり、前を歩くリアのローブが揺れた。
その背中を見ながら、マーベリックはふと思い出したように口を開く。
「リア。一つ聞いてもいいか?」
「はい。」
振り返ることなく返ってきた声に、マーベリックは少し間を置いた。
「君は……ダンゲルの弟子なのか?」
リアは答えない。
ただ足を止めることなく歩き続ける。
風が二人の間を抜け、しばらくしてからようやく小さな声が返ってきた。
「……わかりません。ダンゲル様からそのようなことを……。」
言葉が途切れる。
リアは視線を落としたまま続けた。
「言われたことはありません。」
マーベリックは小さく息を吐く。
「テセルスにいたとき、俺には二人の弟子がいた。」
リアは黙ったまま前を向いている。
「教える者と、教わる者……。教えるのは魔法だけじゃない。」
「それこそ生活におけることとかもな。」
海から吹き上げる風が少し強くなり、ローブの裾が大きく揺れた。
「俺の唯一の心残り……。その二人の成長を最後まで見届けることが出来なかった……。」
「……家族のようなものだった……。」
その言葉に、俯いていたリアの顔がわずかに上がった。
「たから俺は……。ダンゲルが羨ましいんだ。」
前を歩くリアの背中へ向けて続ける。
「君みたいな家族が……ずっとそばにいる。」
その瞬間、リアの足が止まった。
「……ほんとうに……ダンゲル様はそう思ってくれているのでしょうか……。」
肩が小さく震える。
「……私のことを……家族と思ってくれているのでしょうか……。」
マーベリックはゆっくりと距離を詰め、その隣で足を止めた。
「俺はダンゲルという男をよく知っている。」
海を見ながら静かに言う。
「10年……流れたが何も変わっていなかった。」
そして一歩前へ出る。
「リア。君はダンゲルから何を教わってきた?」
振り返ると、リアも顔を上げていた。
瞳には涙が浮かんでいる。
「それが答えになるはずだ。」
しばらくそのまま見つめ、
「さぁ。行こう。」
そう言って再び歩き出した。
少し遅れてリアも後を追う。
二人が屋敷へ辿り着く頃には、さっきまで吹いていた風も少し落ち着いていた。
ガ……チャ――
リアが扉を開き、そのまま手で押さえる。
「どうぞ。」
マーベリックが中へ入ると、リアは扉を閉め、そのまま前を歩き出した。
廊下を進み、客間の前で足を止める。
「こちらでお待ちください。ダンゲル様をお呼びしてまいります。」
「ありがとう。」
リアはそのまま立っていた。
「ん?どうした?」
マーベリックが首を傾げる。
その視線を辿り、自分の手に抱えたままの荷物へ目が止まった。
「ああ。忘れていた。すまない。」
差し出された荷物をリアが受け取る。
「ありがとうございました。」
抱え直した荷物を見下ろしながら頭を下げ、その顔がほんの少しだけ緩んだ。
マーベリックもつられるように口元を緩める。
リアは小さく会釈を残し、そのまま奥へと消えていった。




