第39話 破裂菓子②
「すみませーん。」
「いらっしゃい!」
店主の声を聞きながら、ターニャは並んだ札へ目を向けた。
「っと……二つ……味は……。」
その横からウェンティがひょいと顔を出す。
「今あるのは塩とはちみつ……あとは胡椒だね。」
店主が鍋を振りながら答えた。
(ウェンティは辛いの苦手そう……。)
「じゃあ塩とはちみつください。」
「はいよ!」
店主が火から鍋を離し、蓋を開ける。
その瞬間、ウェンティはさらに身を乗り出した。
「なんかすごいの……白いふわふわしたのが山盛りじゃ……。」
目を丸くしたまま振り返り、大きく手を振る。
「マーベリック!見て見ろ、すごいぞ!」
呼ばれたマーベリックも隣へ並び、鍋の中を覗き込んだ。
「ほう……綿みたいだな。破裂してこれが出来るのか……。」
「あんた達破裂菓子食べたことないのかい?」
二人はうなづく。
「聞いたことはあるが実際見るのははじめてなんだ。」
店主は後ろの麻袋へ手を入れ、そのまま一掴み手のひらへ乗せた。
「これが破裂菓子の元だ。」
差し出された手へ顔を寄せる。
「……黄色くて小さいの……これがあれになるのか?」
ウェンティが首を傾げる横で、マーベリックは顎髭へ手をやった。
「実の水分が熱で飛ばされ、乾燥して破裂する……そんなところか……。」
「ま、食べてみてくれ。また食べたくなるよ。」
店主がニヤリと笑う。
ターニャは受け取ったカップを抱えたまま海の方を指差した。
「向こうの防波堤のところでたべよ。」
「そうじゃの!」
両手にカップ抱えたウェンティが先に歩き出す。
防波堤へ腰を下ろすと、足をぷらぷらと揺らしながら一粒口へ放り込んだ。
「んまいの……これ。」
口をもぐもぐと動かす姿に、ターニャが少し身を寄せる。
「ふふふっ。ウェンティはどっちが好き?塩とはちみつ。」
ウェンティは空を見上げたまま答えた。
「どっちも好きじゃ。」
「そっかぁ、言うと思った。」
ターニャが笑う。
その横で一粒ずつ口へ運んでいたマーベリックへ視線を向けた。
「マーベリックさんはどうですか?破裂菓子。」
「ん?ああ。うまい。こういうのは食べたことがないからな。」
指先の破裂菓子を見つめながら答える。
するとウェンティがぐいっと顔を近づけた。
「マーベリック!うまいならもっとうまそうな顔したらどうじゃ!」
ぷいっと顔を背ける。
「まったく……。」
マーベリックが苦笑いした。
「わるかった。」
「ふふふっ。」
その時だった。
ウェンティの視線がふと歩道の方へ向く。
「ん?あれ、リアではないか?」
二人もそちらを見る。
両手に大きな荷物を提げたリアが、脇目も振らず歩いていた。
「おーい!リアー!」
ウェンティが大きく手を振る。
その声に気付いたリアが顔を上げ、小さく会釈を返した。
「リアのところまで行ってくる。」
そう言うなりカップを二つマーベリックへ押し付け、防波堤から飛び降りる。
「あ、おい……。」
そのまま駆けていく背中に肩を落とした。
「まったく。」
海風が髪を揺らす。
耳へ掛けながら、ターニャは離れていくウェンティとリアを見つめていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
リアの前まで走ったウェンティは膝へ手をつき、大きく肩で息をする。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫……じゃ……。」
なんとか体を起こし、リアの手元へ目を向けた。
「リアも買い物か?」
リアがうなづく。
「はい。ちょうど今日は買い出しの日なので。」
「そうか。わしらも買い物じゃ。」
追いついたマーベリックが軽く頭を下げると、リアも会釈を返した。
顔を上げた瞬間、ターニャと目が合う。
ターニャはわずかに目を伏せ、その視線を追うようにリアも荷物を持ち直した。
その様子を横目に見ながら、マーベリックが口を開く。
「ターニャ。俺達はもう帰るんだろ?」
「あ、はい。そうですね。」
はっとしたように顔を上げる。
マーベリックは小さく息を吐いた。
「少し別行動していいか?」
「え?あ、はい。どちらに行かれるんですか?」
「ダンゲルのところにな。」
「ならわしも!」
ウェンティがすぐに身を乗り出した。
だがマーベリックは首を横に振る。
「荷物をターニャ一人に持たせる気か?」
「俺は本を借りに行くだけだ。すぐ戻る。」
「そう…じゃの……。」
「わかりました。」
マーベリックはうなづくと、そのままリアへ歩み寄った。
差し出された手に、リアが視線を落とす。
「持つよ。」
「あ……いえ……ですが。」
マーベリックはさらに手を前へ出した。
「……ありがとうございます。」
少し迷ったあと、リアは荷物を一つ預ける。
「エディが借りた本の続き。読みたいと思ってな。すぐ戻る。」
「すぐじゃぞ!」
マーベリックが細く笑い、うなづいた。
「リア。」
「はい。」
リアは二人へ会釈を返すと、マーベリックと並んで歩き出した。
腕を組みながらその背中を見送り、ウェンティは大きく息を吐く。
「ターニャ。わしらも帰るかの。」
「……。」
返事がない。
「ターニャ?」
顔を覗き込まれ、ターニャが肩を震わせた。
「え!?あ、ごめん。なんだっけ?」
笑顔を作る。
「わしらも帰ろう。」
「うん。そうだね。」
二人は荷物を持ち直し、家へ向かって歩き出した。
(ターニャ……お主は何をそんなに不安がっておおる……。)




