第37話 夢
深夜――
ガ……チャ……
リアは小さなランプを手に部屋へ入り、扉を閉めるとテーブルへ歩いた。
揺れる灯りを置き、部屋着に着替える。
水差しからカップへ水を注ぎ、ひと口だけ喉を潤すと、そのままベッドへ腰を下ろした。
掛け布団を引き寄せ、静かに目を閉じる――
リア――
リア!
!?
お前だけでも逃げろ!
お父さん――
リア……行きなさい……早く!
お母さん――
う…うぅ……
お姉ちゃん!
早く行って!
無理だよ…足…動かないんだよ……。
グルルル――
どうして……。
グォフゥゥ――
どうして私は殺されないの……。
殺してよ……同じように……。
お願いだから……。
「はっ……。」
跳ねるように体を起こすと、荒く上下する呼吸の合間に額を伝った汗を拭った。
(また……あの時の……。)
ベッドを降り、そのままテーブルへ向かう。
水差しを掴み、いっぱいになるまで注いだカップを一気に傾けた。
ごく……ごく……ごく……
飲み干して息を吐き、カップを置いた視線の先に淡い光が映る。
窓辺へ歩き、顔が覗くほどだけカーテンを開いた。
ひんやりとした空気が頬を撫でる。
遠くの地平線がわずかに白み始め、その下では幾筋もの白波が静かに砂浜へ押し寄せていた。
「リア!気持ちを乱すな!」
ビシシ!ビシシシ!!
歯を食いしばるリア。
「っ………。」
海へ向けた弓の先で、周囲の海水が白い靄となって立ち昇る。
「そうだ。そのまま集中しろ!」
額を伝う汗が顎先から落ちた。
シュウゥゥゥ――
指先から細い煙が立ち始める。
「ぐっ……。」
走った痛みに肩が震え、ローブの袖がじりじりと焦げていく。
焼け焦げる臭い。
「リア!中止だ!空に向かって撃て!」
震える指先を空へ向ける。
「放つまで気を抜くな!」
雷が体の中を駆け巡り、わずかに下がった腕とともに狙いが揺れた。
バババババ!
抑えきれない雷光が弾ける。
「撃ちます!」
「撃て!」
引き手を一気に押し出す。
バシュウゥゥゥ――
青白い光が空へ駆け上がった。
揺れながら弧を描き、もがくように空を走る。
バァァァン!
夜明け前の空で弾けた光は無数の粒となり、海へ降り注いでいく。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
震える両手。
火傷で荒れた左手と、黒く焼け焦げたローブの袖。
「リア!」
駆け寄ったダンゲルがその手を取る。
「ハンスのところへ行くぞ。」
心が乱れる――
どうして私はここにいるの……?
どうして……戦っているの……?
わからない――
窓の向こうでは朝日がゆっくりと昇り始めていた。
差し込む光がリアの横顔を照らす。
しばらくそのまま海を見つめていたが、やがて伸ばした指先でカーテンを掴み――
ゆっくりと閉じた。




