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第36話 推測

同時刻、ダンゲルの私室――


ダンゲルは机に向かったまま筆を走らせていた。


二つのランプが揺れる灯りを落とし、その明かりだけが机の上を照らしている。


(大型……女王……。)


筆先が止まる。


(あれはほんとに女王だったのか?)


わずかに視線を落とし、紙の上に並ぶ文字を見つめる。


(……統率……人を欺く……。)


大きく息を吐いた。


(それにあの遠吠え……。)


その時、静かな部屋に控えめな音が響く。


コンコン――


「入れ。」


返事と同時に扉が開いた。


「失礼します。紅茶……お持ちしました。」


リアが紅茶のカップを両手で持ちながら部屋へ入ってくる。


「ああ。すまないな。」


リアは机の横まで歩み寄ると、静かにカップを置いた。


コト――


立ち上る湯気が灯りの中でゆっくり揺れる。


軽く会釈をし、そのまま下がろうとした背中へダンゲルが声をかけた。


「リア。」


リアが足を止め、振り返る。


「あの時……。外壁上でお前は何を見た?」


「はい……私と目が合いました。」


ダンゲルの眉間にしわが寄る。


「合った?」


「はい。」


リアがうなづく。


「霧を通して……。」


「………。」


ダンゲルは腕を組み、しばらく黙り込んだ。


「向こうも俺達のことを認識している……。」


リアが静かにうなづく。


ランプの灯りがわずかに揺れた。


「あれが仮に本物の女王ではなかったら……。」


その言葉にリアが顔を上げる。


「まだ終わってはいない……。」


椅子に深く座り直しながらダンゲルが息を吐く。


「これから……ということですか?」


「ああ。」


短くうなづいた後、ダンゲルは視線をリアへ向けた。


「明日朝、防人へ連絡しておいてくれ。」


「警戒を怠るな。と。」


「はい……。」


リアは会釈をすると、そのまま顔を上げた。


「ダンゲル様。」


「ん?」


小さく息を呑む。


「あと一つ……気になったことがあります。」


ダンゲルが目だけを向ける。


「なんだ?」


リアは少し間を置いてから口を開いた。


「ダンゲル様が前に言っておられたウェンティの波動……。」


「あの時……私の霧が波動の渦に呑まれました。」


ダンゲルは黙ったまま視線を向ける。


「私自身……吸い込まれるような感覚……。」


膝の前で重ねた指先がわずかに動く。


「そして……あたたかい……。」


視線が揺れる。


「あれは……なんだったのでしょうか?」


「………。」


ダンゲルの視線がゆっくり下へ落ちる。


そのまま小さく息を吐いた。


「そのことに関しては俺も答えは持っていない。」


リアが顔を上げる。


「ただ……。」


ダンゲルの声がわずかに強くなる。


「お前が感じたその感覚……忘れるな。」


「……はい……。」


リアは静かにうなづいた。

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