第34話 違和感
居間に話し声が広がる――
「ハーベイの街にも井戸はあるんだ。ただ……足りない。」
「だから俺は山脈のふもとの水源まで水をくみに行っている。樽八つ分だがな。」
マーベリックが腕を組む。
「人数分は確保できていないってことか……。」
「ああ。今、新しい井戸を見つけてる最中だ。」
パチッ――
暖炉の火が小さく鳴る。
「ここから北に行った所に鉱山の街があるんだ。そこの連中に力を貸してもらっている。」
「鉱山……。」
エディがうなづいた。
「ああ。穴掘りだけじゃなく水脈を見つけることもできるんだ。」
話を聞いていた途中、不意に肩へコツンと柔らかな感触が触れた。
横を見ると、ウェンティの頭が寄りかかっている。
スゥ――
スゥ――
規則正しい寝息がすぐ横から聞こえていた。
マーベリックは横目でその顔を見て、
「今日は朝からはしゃいでいたからな。」
小さく口元を緩めた。
その様子に気付いたターニャが席を立ち、そっと近寄るとウェンティの耳元へ顔を寄せた。
「ウェンティ。二階行こ。」
肩に優しく触れられ、ウェンティのまぶたがゆっくり開く。
「ん……ターニャ?」
「うん。そうだよ。」
ターニャが微笑むと、ウェンティは引かれるまま立ち上がった。
「わしは大丈夫じゃ……寝ておらん。」
そう言いながらも、まぶたは今にも閉じそうだった。
「ふふふっ、さ、行こ。」
手を引かれたまま、ウェンティとターニャが二階へ上がっていく。
その背中を見送りながら、
「すまない。ターニャ。」
とマーベリックが声をかけると、ターニャは振り返り、小さくうなづいた。
足音が遠ざかり、再び居間に静けさが戻る。
「ウェンティは不思議なやつだ。」
エディがそう言うと、その顔がわずかに緩んだ。
マーベリックもうなづく。
「マーベリック。お前達はいつまでここにいるんだ?」
問いかけられ、マーベリックは小さく息を吐いた。
「まだ、決めてはいない。ウェンティがこの街を気に入ってるみたいだしな。」
「そうか……。」
エディは椅子に深く腰を預けると、そのまま天井を見上げる。
少しの沈黙が落ち、
「エディに聞きたいことがある。」
「なんだ?」
「馬車の上で言っていた『女王』とはあの大型の黒影のことか?」
エディは前屈みになり、手を組んだ。
「ああ、そうだ。この荒野に出る黒影……女王は他の黒影を統率しているんだ。」
「だから俺達は女王と呼んでいる。」
「統率……。」
マーベリックは腕を組む。
(ダンゲルも言っていた。日食が起きてから統率されたと……。)
「ああ。でも、その女王はウェンティが倒した。奴らは統率が取れなくなる。」
パチッ――
暖炉の奥で火が弾ける。
パチッパチッ――
残り火が小さく跳ねた。
マーベリックは静かにうなづく。
(倒した……には間違いない……。)
揺れる火を見つめたまま、あの時の光景が脳裏をよぎる。
(ただ……そのあとかすかに遠吠えが聞こえた。)
暖炉の火がまた小さく鳴った。
(あれは何を意味している……。)




