第33話 再挑戦
がぶり!
「あ!ウェンティ……。」
もぐもぐと頬を動かしながら、ウェンティは次々と口へ運ぶ。
「うまい…うまいぞ!ターニャ!」
「これ、わし好きじゃ!」
ターニャは思わず苦笑いを浮かべた。
「あ…ありがと…あ、あの…ナイフあるからそれで……。」
ウェンティは顔を上げると、手元のナイフを持ち上げた。
「ん?これか?」
「使わんでも食べれるぞ?」
「う、うーん……。」
返事に困ったようにターニャが視線を落とすと、その様子を見ていたエディが声を上げて笑った。
「はっはっは!ターニャ。いいじゃないか。」
「うまそうに食ってくれるのが一番うれしいだろ?ターニャ。」
ターニャの肩がぴくりと揺れ、そのまま顔を赤くして下を向く。
「う、うん……。」
「俺もいただくとしよう。」
マーベリックがフォークとナイフで身を切り分け、口へ運ぶ。
ターニャはその様子をじっと見つめたまま目を離さない。
つられるようにウェンティもマーベリックを見つめる。
「うん。香味料が効いていてうまい。」
マーベリックが顔を上げた。
気付けば二人の顔がすぐ近くにある。
「ん?どうした?」
ターニャは慌てて目をそらした。
「な、何でもありません……。」
「そうか。ウェンティはなんでそんなに見てるんだ?」
ウェンティは手にしたナイフを持ち上げる。
「そういうふうに使うのか……。」
「ん?」
少し時間が経ち――
「ターニャ!うまかったぞ。また同じの作ってくれ。」
満面の笑みのウェンティ。
「うん。ウェンティのうまかった!が1番うれしいよ。」
ターニャもつられるように微笑んだ。
「明日も楽しみじゃ!」
「え…明日?」
ターニャが困ったように首を傾げる。
「ウェンティ。この魚は今日の漁で取れたやつだ。明日は同じく取れるかはわからない。」
奥からエディの声が飛んできた。
「なるほど……。」
ウェンティの肩が少しだけ落ちる。
「もしかしたらもっとうまい魚が取れるかもな。」
その言葉に、しょんぼりしていた顔がぱっと明るくなった。
「エディ!頼むぞ!」
「ああ。任せてくれ!」
二人のやり取りを眺めながら、ターニャの口元がふっと緩む。
そのまま静かに微笑んだ。
食後――
「あ、ウェンティ。今から紅茶煎れるんだけどまたやってみる?」
ウェンティはぱっと立ち上がった。
「やる!昨日はマーベリックに苦くて飲めん!とか言われたからのぅ……。」
そう言いながら横目でマーベリックを見る。
「飲めん。とは言ってないがな。」
マーベリックが細く笑った。
「ターニャ!行くぞ!」
ウェンティが後ろから背中を押す。
「ちょっ、ちょっとウェンティ~。」
二人が台所へ向かうのを見送りながら、マーベリックはふと視線を奥へ向けた。
エディの横に本が二冊積まれている。
「その本は?」
「ん?これか?」
エディは本を手に取ると、慣れた手つきでページをめくった。
「これはダンゲルさんから借りた本だ。」
「ダンゲルさんがハーベイに来たときから書いてる本だ。」
マーベリックは席を立ち、近づく。
「見せてくれないか?」
エディが本を差し出した。
(荒野記録……。)
ページをめくる。
「それは荒野に出た黒影の記録だ。」
(……黒影の出現場所、時間帯……。)
さらに目を走らせる。
(その日の天気、風向きまで……。)
「ダンゲルさんは10年……俺達のために記録を残してくれている。」
エディの声に、マーベリックは静かにページを閉じた。
「すごい人だよ……ダンゲルさんは。」
「俺達もダンゲルさんが書いた本を読んで自分なりに……自分なら何が出来るかを考えてる。」
「俺だけじゃない。みんなそうだ。」
「人のために生きる。ハーベイの街に住んでる者はみんなそう思っている。」
マーベリックがうなずく。
(人のために……生きる。)
エディが細く笑った。
「山のふもとで会ったとき、マーベリックは『テセルスから来た』と言ったよな?」
「ああ。」
「あの時な、正直ダンゲルさんを探しに、連れ戻しに来たのかと思ったよ。」
エディがまっすぐマーベリックを見る。
「悪かったな。変な疑いかけちまって。」
マーベリックは小さく首を振った。
「いや。」
「この状況なら疑われて当然だ。それに……」
「マーベリック!飲んでみろ、今度は大丈夫じゃ!」
言葉を遮るように台所から声が飛んできた。
振り向くと、ウェンティが盆に四つのカップを乗せ、よたよたと歩いてくる。
「ちゃんとターニャに味見してもらったからの。」
マーベリックは苦笑しながら席へ戻った。
「エディも飲んでみろ。うまいぞ。」
自信満々のウェンティ。
カップを配り終えると胸を張った。
「さぁ、飲め!」
ウェンティの顔が近い。
「ウェンティ……近いぞ?」
さらに顔を覗き込む。
「飲んで、うまいと言ったら離れてやる。」
マーベリックはふぅっと湯気を飛ばし、ひと口飲んだ。
「どうじゃ?」
「うん……ちょうどいい甘さでうまい。」
その瞬間、ウェンティの顔がぱっと明るくなる。
「そうじゃろ!?ターニャ!今日は成功じゃ!」
ターニャも笑みを浮かべた。
「うん。成功だね。」
「まだエディが飲んでおらん……さぁ、飲め!」
エディが苦笑いする。
「わかった!飲むから。」
「ふふふっ。」
ターニャの笑い声が小さく漏れる。
テーブルの上で揺れる紅茶の湯気を眺めながら、ターニャはそっと目を細めた。
(ずっと……続いて欲しいな……。)




