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第32話 おかえりなさい

ダンゲルの屋敷を後にし、二人は丘を下っていた。


黄昏色に染まった空の下、海から吹く風がマントの裾を揺らしていく。


「なぁ、マーベリック。」


「なんだ?」


「ダンゲルとは何を話していたんじゃ?」


ウェンティが隣を見上げる。


「昔話だ。ダンゲルは元テセルスの魔道士だからな。」


「知り合いだったのか?」


マーベリックは小さくうなづいた。


「そうだな。昔からの……な。」


「テセルスの魔道士ならなぜここにおる?」


ウェンティが不思議そうに首をかしげる。


テセルスは領地を守る――


俺はハーベイを守る――


ふと浮かんだ言葉に、マーベリックの口元がわずかに緩んだ。


「ダンゲルはそういう人なんだ。」


ウェンティはさらに首をかしげる。


「よくわからぬがそうなんじゃな。」


丘を下りきる頃には、街のあちこちに灯がともり始めていた。


窓からこぼれる橙色の光が、ゆっくりと夜の訪れを知らせている。


「だいぶ暗くなってきたの。」


「ああ。エディ達が心配するといけないしな。急ぐぞ。」


マーベリックは前を向いたまま言う。


「ウェンティ。足元気をつけろ。転ぶからな。」


ウェンティがむっと頬を膨らませた。


「わしは子供ではない!」


海沿いの小道を回ると、エディの家が見えてきた。


塀の前には誰かが立っているようだったが、薄暗く顔までは見えない。


「ん?マーベリック。あそこにいるのは……。」


ウェンティが言いかけた瞬間、人影がこちらへ向かって駆け出した。


「ターニャだな。」


ウェンティが手を振る。


目の前まで走ってきたターニャは膝に手をつき、肩で息をしながら頭を下げた。


「はぁ……はぁ……お帰りなさい……。」


「遅くなって悪かった。」


ターニャは顔を横に振る。


「いえ……。」


呼吸を整えるように小さく息を吸い込み、


「夕飯、できてます。」


ウェンティの顔がぱっと明るくなる。


「夕飯と聞いたら急に腹が空いてきたぞ!」


「ふふふっ。今日はいいお魚手に入ったから。」


ターニャもつられるように微笑んだ。


「ターニャ!行くぞ!」


ウェンティがターニャの手を掴む。


「うわっ!ちょ、ちょっと、ウェンティ!」


そのまま二人は家の中へ駆けていった。


マーベリックはその背中を見送り、ふっと小さく息を吐く。


口元がわずかに緩んだまま、ゆっくり後を追った。


家に入ると、ウェンティはすでに席に着いていた。


「遅かったな。」


奥の席からエディが声をかける。


「すまなかった。いろいろ話してたからな。」


「そうか……。ま、座ってくれ。ウェンティは待ちきれないみたいだしな。」


エディが笑う。


「すまないな。」


マーベリックはウェンティの隣に腰を下ろした。


「まだかのう……。」


ウェンティは頬杖をついたまま台所を見つめている。


すると、


「ごめんね、ウェンティ。」


ターニャが料理を運んできた。


ウェンティは勢いよく体を起こし、目を輝かせる。


「うまそうじゃ!な!マーベリック。」


マーベリックは料理を覗き込み、


「ああ。魚は俺もあまり食べたことないからな。」


「この辺でよく取れる魚だ。小ぶりだがうまいぞ。」


エディがそう言う間にも、ターニャは次々と料理を並べていく。


そしてマーベリックとエディの前にも皿を置きながら、


「ウェンティ、先に食べててもいいよ?」


「おお!そうか!」


ウェンティはすぐにナイフとフォークを手に取る。


「では……いただきます。」


がぶり!

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