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第2話 魔都テセルス①

六日前。 魔都テセルス――


塔の最上階、吹き抜ける風が頬を撫で、青いローブの裾を揺らしていく中、マーベリックはそのまま遠くへ視線を伸ばした。


「風向きが変わるのが早いな……。」


目を細めると、空気の揺らぎがわずかに変わるのを感じ取る。


「マーベリックさん。やっぱりここでしたか。」


背後から声が届き、振り返ると、赤と黒のローブを纏った女性が立っていた。


「どうした?」


女性は軽く息を吐きながら肩の力を抜く。


「今日、報告会議なの忘れてませんか?」


「……。だったか?」


「やっぱり忘れてましたね?」


風が強まり、二人のローブが同時に揺れる。


「アストラがいれば大丈夫だろ。」


「私がいればとかそういう話ではないと思いますけど…。」


「わかった。行くよ。」


その言葉に、アストラはわずかに表情を緩めた。


傾きはじめた陽が、塔の縁をなぞるように差し込み、視界の端を赤く染めていく。


塔を降りる階段を踏みしめながら、


「なぁ、アストラ。」


「はい。」


「テセルスより北…だいぶ荒れてるのか?」


歩幅を合わせるように隣へ寄りながら、アストラが頷く。


「はい。霧の検知も連日反応、一般報告も連日入っています。」


「そうか。」


わずかに息を吐き、足音だけが石段に響く。


「気になることあるんですか?」


「風の鳴き声が震えてるんでな。」


「鳴き声?」


顔をかしげる気配を横に感じる。


「監視をちゃんとしてれば大丈夫だろうけどな。」


階段を抜け、外の空気が肌に触れる。


「お前からみんなには言ってくれ。」


隣を歩いていたアストラの足取りが、わずかに遅れる。


「俺は古参だから参加してるだけだしな。」


その言葉に、足音が止まる。


「どうした?」


「……マーベリックさんから言うべきです。」


振り返ると、まっすぐな視線が向けられていた。


マーベリックは数歩戻り、その距離を埋める。


「お前から皆に言ったほうが話は通る。上位魔道士からの言葉と下位魔道士からの言葉だと重みが違うからな。」


「そ、それは…そうかも知れませんが……。」


迷いを含んだ声に、軽く肩へ手を置く。


「それでいいんだ。」


触れられた感触に、アストラは小さく息を整えながら頷いた。


「さ、行くぞ。」


再び足を動かすと、二人の歩調が自然と揃う。


塔を出て、魔導院へ向かう道に入ると、石畳の感触が足裏に伝わり、視線の先には整然と並ぶ人影が続いていた。無駄な動きも声もなく、それぞれが自分の役割を淡々とこなしている空気が流れている。


「今、魔都がこうなのも代表がルーフェンスになってからだな。」


「そうなのですか?」


隣で視線を向けてくる気配を感じる。


「アストラは知らなかったか。」


「私が来たときには代表はすでにルーフェンスさんでしたから。」


「昔は代表なんていなかった。魔法を使える者の集団。ってだけだ。」


中心の広場へと足を踏み入れると、水の音が静かに耳に入ってくる。


噴水の前を横切りながら、


「まとまりがなかった…ってことですか?」


マーベリックは小さく頷く。


「そんな感じだ。」


水面に反射する光が揺れ、足元をかすかに照らす。


「20年前、ルーフェンスが規則を作った。たいしたもんだよ。」


わずかに口元が緩む。


「ルーフェンスさんは誰にでも平等に接してくれますし。」


「そうだな。人間的にも出来てるやつだ。」


広場を抜けると、視界の先に魔導院の建物が見えてくる。


その前で手を振る人影に気づき、アストラが声を上げる。


「ウェズリー?」


女性は必死に手招きしている。


「マーベリックさん会議の時間みたいです!」


「ん?」


「急ぎますよ!」


そのままアストラが走り出し、ローブが大きく揺れる。


「お、おい!走るのか?」


「はい!」


足音が速まり、二人はそのまま魔導院へ向かって駆けていった。

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