第1話 追放
青い空が視界いっぱいに広がり、乾いた空気が肺に入るたび胸の奥まで抜けていく。
肩にかけた荷物の重みを感じながら、男は一歩ずつ街道を踏みしめていた。
(テセルスを出てから四日目か……。)
足を止めることなく、呼吸に合わせて思考が浮かぶ。
(どこ行く当てもないし…これからどうするか……。)
傾斜の続く山道を登り続ける。
靴底が土を擦るたび、細かな砂が流れ、ふくらはぎにじわりと重さが溜まっていく。
「はぁ…はぁ…」
吐いた息がわずかに白く揺れ、そのまま風に流される。
(なかなかきつい街道だな、こりゃ……。)
登りきったところで、ふと胸に入る空気の感触が変わる。
(空気が変わった?いや…薄くなっただけか?)
肩越しに振り返ると、遠く霞の向こうに街並みがうっすらと浮かび上がっていた。
(テセルスが見える。)
目を細め、位置を重ねる。
(テセルスから見えてた西の山がここか。)
胸の奥に距離の実感がじわりと広がる。
(ずいぶんと遠くまで来たな。)
ふっと笑いがこぼれ、そのまま息と一緒に抜けていった。
登りを越えた先で足元の傾斜がゆるみ、そのまま平坦な道へと続いていくにつれ、重かった足取りが少しだけ軽くなる。
「ふぅ……。」
吐いた息が長く伸び、肩の力が抜ける。
(やっと登りは終わりか。)
周囲に視線を巡らせると、風の音だけが静かに流れ、人の気配はどこにもない。
(黒影も出てこない…。人気がないところには出ないってことか?それともたまたまか…。)
そのまま歩みを進めるうち、山の裏側へと続く道が視界の奥へ静かに伸びていく。
「ん?」
木々の隙間から差し込む光が揺れ、その反射が視界の奥でちらちらと瞬く。
「ずいぶん開けたな。」
歩みを進めるにつれて視界が一気に開け、目の前には大きな湖が広がっていた。
「でかいな…。」
腰に手を当て、息を整えながらその広がりを見渡す。
(山の上にこんな湖があったとはな。)
自然と足が湖のほとりに向かい、近づくにつれ水の透明さがはっきりとわかり、底まで見えるほど澄みきっている。
そのまま視界の開けた場所へ足を運ぶと、体を預けるように寝転び、腕を枕にして空を見上げる――
青の奥を鳥がゆっくりと横切っていくのが見えた。
「……。」
やわらかい風が頬を撫で、木々を揺らし、その揺れが水面へと伝わってゆるやかな波紋を広げていく。
(あの時のルーフェンス…。)
揺れる光を目で追いながら、思考がゆっくりと沈んでいく。
(あれは本当に本心からの言葉なのか?)




