第27話 ダンゲルの屋敷①
夕刻――
コンコン――
ドアを叩く音に、室内の空気がわずかに揺れる。エディが腰を上げる気配を横で感じながら、その足音を耳で追う。
「俺が出る。」
立ち上がる音が床に伝わり、そのまま入口へと向かう背中が視界から外れる。ドアノブに手がかかり――
ガチャ――
開いた先に立つ気配。
「お迎えに上がりました。」
「ああ。話はターニャから聞いてる。」
エディが軽く振り向く。
「マーベリック、ウェンティ、リアが来た。」
立ち上がり、入口へ向かう。扉の向こう、うつむいたまま待つリアの姿が目に入る。
「迎えまでしてもらって悪いな。マーベリックだ。」
間を置かず、横から声が重なる。
「ウェンティじゃ!」
その声に、リアが顔を上げる。
「ハーベイの魔道士のリアです。」
小さく会釈し、視線を戻す。
「早速ですが、ダンゲル様の屋敷にご案内いたします。」
くるりと背を向け、歩き出そうとした瞬間――
「リア。」
呼び止める声に、足が止まる。ゆっくりと振り返る。
「頼むな。」
短い一言に、わずかにうなずき、再び前を向く。
そのまま三人は外へ出る。
リアが前を歩き、その後ろをついていく形で足を運ぶ。
「ここから東に向かい丘の上に屋敷はあります。ついてきてください。」
振り返ることなく、前を向いたまま言葉だけが届く。
「ああ。わかった。」
海沿いの道を進む。足元の砂利が小さく鳴り、潮の匂いが鼻にかかる。
しばらく誰も口を開かず、そのまま無言の時間が続く。
「リア。君は魔道士になって長いのか?」
少しの間を置いてから、
「6年ほど経ちます。」
「そうか。」
坂道に差しかかり、足取りがわずかに重くなる。風が正面から吹き上がる。
「なぁ。リアはなぜ怒っておるのだ?」
隣で、耳元に小さく落とされる声。
「いや、怒ってはないさ。」
ウェンティはわずかに首をかしげ、視線を前に戻す。
「わしの気のせいか……。」
前を行くリアの青のローブが風に煽られて大きく揺れる。それでも手で押さえることもなく、歩みの速さも変わらない。
そのまま登り続けると、視界がひらけていく。
街並みが下に広がり、その先に荒野、さらに遠くには海の地平線が線を引くように伸びている。
やがて丘の上に、一際大きな館が見えてくる。
「あれか?ダンゲルがいる館は。」
少し間が空き、振り返らないまま、
「はい。そうです。」
「なかなかでかい屋敷じゃの。」
そのまま三人は門をくぐり、入口へと足を進める。両開きの扉の片方が開かれ、
「どうぞ、お入りください。」
手で扉を押さえ、二人を中へ通す。
一歩踏み入れた瞬間、外の風が途切れる。屋敷の中は薄暗く、所々に灯るランプの光が床に揺れている。
背後で扉が閉まり、
「こちらです。」
再び歩き出す足音を追い、廊下を進む。
やがて客間へと通される。
「こちらでお待ちください。」
椅子へと促され、腰を下ろす。リアは小さく会釈し、そのまま静かに部屋を出ていく。
残された空間で、視線が自然と周囲へ流れる。見たことのない彫刻や装飾が壁際に並び、大きな暖炉が奥で静かに口を開けている。
そのどれもが重く、ここだけ別の場所に足を踏み入れたような感覚が胸に残る。
「よくわからんがすごいの…この部屋は。」
「ああ。中には魔導に関する物もあるな。」
外で感じていた風も波の音も、ここには届かない。音のない空間が静かに沈んでいる。
「あれはなんじゃ?」
視線の先に、黒い鉱石が並んでいる。その隙間で赤、青、白と、角度によって違う輝きがちらりと覗く。
「魔鉱石だ。」
「あれが魔鉱石。」
椅子から身を乗り出し、食い入るように見つめる。
(あの魔鉱石…かなり純度が高そうだな……。)
そのとき――
ドン――ドン――ドン――
低く重い音が廊下を伝い、足元に響いてくる。
二人はその音に気付く。
廊下に響く足音。
そして、
ガチャン――
ドアが開く。




