第22話 紅茶とウェンティ
エディが腰を下ろす気配とともに、場の空気がそのまま続いていく。
「話の途中ですまなかった。」
「いや。大丈夫だ。」
「ダンゲルさんには落ち着いたら会ってみるといい。」
「ああ。そうさせてもらう。」
頬がわずかに緩み、そのまま手に取ったカップへ視線を落とす。
(いろいろ聞きたいことあるしな。)
湯気がゆらりと立ち上るのを眺めながら、唇を寄せると、ほのかな香りが鼻を抜けた。
ふと、奥のほうから声が重なる。
「これが紅茶の葉か?」
「うん。そうだよ。」
「カラッカラじゃの……。」
「ふふふっ。そうだね。カラッカラだね。」
軽やかな笑い声が混じり、台所の空気がこちらまで流れ込んでくる。
その音を聞いた瞬間、エディの口元もふっと緩んだ。
「ターニャの同年代はこの街には少ないからな。内心はうれしいんだろう。」
「親もこの街にいるのか?」
背もたれに体を預けるわずかな軋みとともに、エディの視線が少しだけ落ちる。
「親はいない。俺とターニャだけだ。」
「そうか…。」
「俺達だけじゃない。似たような境遇のやつらはこの街にはたくさんいる。」
言葉のあとに残る静けさが、ほんの少しだけ重く沈む。
「リアも……そうだ。」
視線を伏せる気配に、言葉が止まる。
「……。」
(リア…ここの魔道士と言っていたな。)
その空気を裂くように、足音が近づいてくる。
「おい、マーベリック!これ飲んでみろ!」
勢いのまま差し出されたカップと一緒に、満面の笑みが飛び込んできた。
「わしが煎れたんじゃ!うまいぞ!」
「おぅ…そうか。」
カップを受け取り、ふっと息を吹きかけると、湯気が顔をかすめていく。
すぐ目の前で、期待を隠しきれない視線がこちらに張りついていた。
ひと飲み――
「どうじゃ?」
「……。」
わずかに間を置いて、口を開く。
「苦いな……。」
「は?そんなわけない!」
勢いよくカップが奪われ、そのまま口元へ運ばれる。
「……うむ…苦いな……。」
小さくうなずく姿に、空気が一気にほどけた。
「ターニャ!わしは何を間違えた!?」
振り返る声に、台所の向こうで肩が揺れる。
「え…苦いってことは、葉っぱの量多かったか、待ちすぎたか……からかな?」
困ったように笑うその声が、やわらかく返ってくる。
思わずこぼれた笑みが重なり、場の温度がゆっくりと戻っていく。
「さて、俺は何か夕飯買ってくるよ。」
立ち上がる気配とともに、椅子がわずかに音を立てる。
「二人はゆっくりしててくれ。ターニャ。頼むな。」
「うん。わかった。」
そのやり取りを背に、扉が開き、外の空気が一瞬だけ流れ込む。
やがて静かに閉じられ、足音が遠ざかっていった。




