第21話 ハーベイの街③
「私、二階少し片付けてくるね。」
そう言ってターニャがおぼんを抱え、足音を立てずに台所へと向かう。
その背中を見送りながら、マーベリックは椅子に腰を落ち着けたまま口を開いた。
「エディ、俺達はこの辺りのことを知らない。少し詳しく教えてくれないか?」
「ああ。」
エディがうなずき、視線を一度落としてからゆっくりと話し出す。
「このハーベイは10年前くらい前ににできた新しい街なんだ。」
「もともとこの荒野には6つの集落があった。」
「統合したのか?」
「ああ…生き残るためにな。」
まっすぐ向けられた目を受け止めながら、マーベリックはわずかに顎を引く。
「黒影か?」
静かな問いに、エディが小さくうなずいた。
「10年前辺りから急に凶暴になった……。」
腕を組み、背もたれに体を預けながら息を吐く。
「テセルス側も同じだ。10年前ぐらいから黒影の活性化が始まった。」
「……。」
(10年前……)
隣で黙って聞いていたウェンティの気配がわずかに沈む。
「荒野は4足歩行の獣型が主流でな。」
「俺達は逃げ隠れするだけで精一杯だった。」
カップを持ち上げ、紅茶を口に含んだあと、ゆっくりと息を吐き出す。
「ある時期をみて、村の村長達が集まり、決断した。」
「村を捨て、ハーベイに皆を集める。生きるためにな。」
マーベリックは腕を組んだまま、背中を椅子に預け直し、小さく息を吐く。
「ハーベイはもともと村だった。」
「海に面しているから守りやすい、土地を広げ、外壁を建て、守りに専念する。」
「これが俺達ができる精一杯だった。」
「今ハーベイの街には300人弱の人間が住んでいる。」
「それに……。」
エディが視線を上げ、マーベリックとウェンティを順に見る。
「ハーベイには魔道士がいる。」
「ダンゲルさんとリア。」
「二人にこの街は守られている。」
その言葉を受け、マーベリックの思考が一瞬だけ深く沈む。
(ダンゲル……。元テセルスの上位魔道士……。)
――そのとき。
二階から声が落ちてくる。
「エディ。このくらいで大丈夫かな?」
「ああ。今行く。ちょっと待っててくれ。」
椅子がわずかに軋み、エディが席を離れる気配が遠ざかっていく。
静けさが残る中、横から声が差し込む。
「なぁ、マーベリック。」
「どうした?」
「こうちゃは何からできておるのだ?」
不思議そうに見上げてくる視線に、マーベリックは軽く肩をすくめる。
「紅茶は葉を煎じるんだ。」
「煎じる?」
「煮るって言うのか?」
「ターニャに聞いてみたらどうだ?」
「うむ。そうしよう。」
なぜか納得したように胸を張るウェンティ。
やがて足音が近づき、二階からターニャとエディが降りてくるのが見えた瞬間――
「ターニャ!こうちゃは何から作るのじゃ?」
声を弾ませて呼びかける。
「紅茶?葉っぱだよ。もっと飲む?入れて上げるよ。作り方見せてあげる。」
微笑みながら手招きするターニャに、ウェンティの目がわずかに輝く。
「おぉ…マーベリック!わしは行くぞ!」
勢いよく立ち上がる気配が横を抜ける。
「ああ。見せてもらうといい。」
軽く視線だけ向けて返すと、ウェンティはそのまま迷いなく台所へと向かい、ターニャの後を追う。
二人の気配が遠ざかり、残された空間にわずかな静けさが戻る。




