第16話 ハーベイの魔道士④
馬の息が荒くなるのが背中越しに伝わり、揺れ続ける荷台の上で体勢を保ちながら、マーベリックは振り返る。
後方には黒影の獣型――一定の距離を保ったまま、離れもせず、ただ追い続けてくる。
(なぜ襲ってこない…何か目的があるのか?)
喉の奥で言葉を転がしながら目を細めるが、すぐに自分の中の常識がそれを否定する。
(いや…黒影にそもそも知性はない……。)
視線を外さず、その目を見据える。
ハッ…ハッ…ハッ…
荒い呼吸音が風に混じり、距離は詰まらず、かといって離れもしない。
(今まで会わなかった…が正解…かもな……。)
同時刻、ハーベイの外壁上――
足元から吹き上げる風を受けながら、ローブの裾がはためく中、リアの声が淡々と届く。
「距離600……速度55……そろそろ限界点です。」
「ああ。あと一撃だな。」
短く返したダンゲルの声に、迷いはない。
「はい。大型のため出力50…補足調整は私がやります。」
「頼む。」
ビシッ!ビシシッ!
両手に走る火花が指先から弾け、弓を引くように構えた腕に力がこもる。
横でリアが静かに目を閉じ、呼吸を落とし込むにつれて、前方へ伸びる霧が濃さを増していく。
「馬車の左側……蒼雷……。」
わずかに視線を動かし、狙いを重ねたリアの唇が、間を置かず静かに動く。
「発射。」
「ふん!」
バシュゥゥゥ――!!
解き放たれた蒼雷が地を這うように走り、一直線に馬車へと迫る。
同時刻、馬車上――
うなりをあげて迫る光を視界の端で捉えた瞬間、エディの声が叩きつけられる。
「体制低くしろ!」
荷台に身を沈めると同時に、蒼雷が左側をかすめ、馬車が激しく揺れた。軋む音とともに、残された帯電が肌にまとわりつく。
顔を上げると、黒影の巨体が一瞬だけ脚を止めていた。
迫る蒼雷を――見ている。
そのまま軌道をなぞるように、蒼雷が黒影へと向きを変え、逃げ場を塞ぐように迫る。
だが、次の瞬間。
黒影が地を抉るように踏み込み、直前で身体を横へと投げ出した。
蒼雷が空を裂き、その軌道だけを残して通り過ぎる。
「避けやがった……。」
マーベリックが身を乗り出す。
「蒼雷がくるのを見計らって避けた感じじゃ……。」
ウェンティも荷馬車に掴まりながら話す。
「くそ!やつは女王だ!もうすぐハーベイに着く……それまで……。」
エディの表情が硬い。
(女王……。)
マーベリックはエディの言葉を繰り返す。
(距離的にきついか……こいつを引き連れて行くわけにはいかねぇ……。)
握る手綱に力を込め、前を睨む。
「マーベリック、ウェンティ…すまない!」
そのまま手綱を引き、西へと進路を変える――




