第14話 ハーベイの魔道士②
再び馬車――
ガラガラガラ――
車輪が大きく跳ね、荷台の板が軋む振動が足裏から突き上げてくる中、マーベリックは揺れる体を押さえながら前へと視線を向けた。
「マーベリック!あんた魔道士なんだろ!」
「魔法で迎撃できないのか!?」
エディの叫びが風に押し流されながらも耳に刺さる。
「そうだな、俺が……」
言いかけ、マーベリックは荷台に手をついて立ち上がる。
揺れに足を取られそうになりながら踏みとどまったその瞬間、座り込んでしがみついていたウェンティの視線がまっすぐに向けられる。
(マーベリック…お主は……)
「霧だ!リアが観測に入った!」
重なる声に反応する間もなく、視界の先がじわりと白く滲み始める。
荒野の地面が薄く霞み、その上にさらに白が重なっていく感覚とともに、馬車の周囲が一気に覆われていった。
「霧?水の魔道士か?」
「そうだ!マーベリック、迎撃はしなくていい。霧が乱れるからな!」
エディの声に、握りかけた力をわずかに緩める。
目の前の白が濃くなり、距離の感覚が曖昧になっていく中、馬車はそのまま速度を落とさず突き進んでいった。
黒影との距離が、感覚として確実に縮まっていく。
「エディ!わしらは何もしなくていいのか!?追いつかれるぞ!」
ウェンティの声が揺れに混ざって跳ねる。
「大丈夫だ!俺達はこのまま一直線に走る。邪魔にならないようにな。」
短く言い切る声に、迷いはない。
「蒼雷がやつらを射抜く!」
「そうらい?」
「ダンゲルさんとリアが放つ魔法だ。」
(ダンゲル……。)
名前が胸の奥で引っかかる。
同時刻、ハーベイの街――
「距離986……速度68……馬車は射線状にいます。」
足元に伝わる石の冷たさとともに、リアは前方へ両目を据えたまま数値を吐き出す。
「馬車右側ギリギリに放つ。霧で軌道調整できるか?」
隣で低く問われ、わずかに息を整える。
「はい。私の方で軌道補正をします。馬車右側、蒼雷出力30…固定お願いします。」
ダンゲルが小さくうなずく。
「ではいくぞ!」
両手を前に出した瞬間、指先から電気が走り、空気が弾けるような音が連なる。
ピシッ!ピシシッ――
「水流よ!我が手に!」
パァン!
掌を打ち合わせた衝撃とともに、水が現れ、次の瞬間には電気を帯びて白く蒸気を上げた。
ビシシッ!ビキビキッ!
溢れた電気が壁を這い、石の表面を走り抜けていく振動が足元から伝わる中、リアは前へと両手を突き出す。
「馬車は依然射線状。速度71……」
腕を伝う電気が皮膚を撫でるように走るのを感じながら、霧を前方へ押し出す。
散っていた白が一点へと引き寄せられ、細く、濃く、一本の道を形作っていく。
ダンゲルが弓を引くように構えると、狙いを定めた手と引いた手の間に電気を帯びた光の矢が静かに形を成した。
リアは両手をさらに押し出し、霧を射線状に集めて密度を高める。
「ダンゲル様。準備は整いました。」
「ああ。ではいくぞ。」
リアが小さくうなずく。




