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第13話 ハーベイの魔道士①

逃げる馬車の揺れが強くなり、荷台の板がきしむ音と風を切る音が重なって耳に残る中、後方へ身を乗り出した視界の奥で黒い影が地面を削るように迫ってくる。


「後方から三体!獣型だ!」


乾いた声が風に流されながらもはっきりと届き、もう一人がさらに身を乗り出して目を細める。


「でかいのが一体おる…。」


「ああ。」


(でかいの……女王……。)


エディが握る手綱に力が入る。


距離がじわじわと詰まっていくのが、視線の奥で確かにわかる。


「エディ!このままでは追いつかれるぞ!」


ウェンティが前へ向き直り、風を受けながら声を張る。


「マーベリック!ウェンティ!荷台の樽を捨ててくれ!馬車を軽くしたい。」


揺れる荷台に足を踏ん張りながらマーベリックとウェンティが樽へ手をかけ、重さを利用して転がし、そのまま後方へ放り落とすと、地面に叩きつけられた樽が弾けるように転がる。


黒影がそれを避けるように跳ね、軌道をわずかにずらしながらなお追いすがる。


「全部落とした!」


荷台が軽くなり、車輪の回転がわずかに軽やかになるのが足裏に伝わる。


(もう少し…街に近づけばダンゲルさんが気づいてくれる…)


「振り落とされるなよ!」


エディの声が前から飛ぶ。


――同時刻、ハーベイの街――


荒く息を吐きながら扉を押し開ける音と同時に、一人の男が勢いよく飛び込んでくる。


「ダンゲルさん!見張りから連絡です。エディの馬車が黒影に追われてこちらに向かっているようです!」


髭を生やし、黒い魔道士の装束をまとった男がゆっくりと顔を上げる。


「エディが?」


短く返した声に迷いはなく、そのまま視線だけで判断を終える。


「警鐘を鳴らせ。」


「はい!」


駆け出す足音が遠ざかるのと同時に、わずかに視線を落とす。


(馬車を追う……獣の黒影か?)


「リア!」


「はい。」


青い魔道士の服を身にまとった女性が、すぐに返事を返す。


「外壁へ上がるぞ。」


「はい。」


二人はそのまま外へ出ると、開け放たれた空気の中へ踏み出し、街の流れとは逆へ足を運ぶ。


ゴオォォン――


ゴオォォン――


低く重い警鐘が街中に響き渡り、その振動が空気を揺らす。


人々の足音が一斉に内へと向かい、扉が閉まり、窓が打ち付けられる音が連なっていく中、二人だけがその流れに逆らうように外壁へと進んでいく。


――


足を止めずに広場を抜け、呼吸を乱さぬまま街の入り口付近から外壁へ登ると、風が一段強くなり、視界の先が大きく開ける。


二人は同時に目を細め、遠くを探る。


「あれか……。」


荒野の向こうから一直線にこちらへ向かってくる馬車が、わずかに揺れながら視界に入る。


「リア、霧を撒け。正確な位置を知りたい。」


「はい。」


短く答えた直後、呼吸を整えながらすぐに詠唱へ移る。


リアは静かに右手を掲げ、感情の揺れをほとんど見せない平坦な声で言葉を紡ぐ。


「水よ、霧となれ。細やかに、静かに、荒野の隅々まで広がれ……」


空気がわずかに湿り気を帯び、肌に触れる感覚が変わると同時に、目に見えないほど細かな水滴が浮かび上がり、ゆっくりと広がり始める。


彼女はそのまま目を細め、意識を奥へ沈めるように続ける。


「霧を放て…荒野のすべてを、余さず映し出せ…敵の位置、速度、数……すべてを、正確に……」


一気に広がった霧が荒野を覆い、その奥で流れが変わる。


リアはわずかに息を整え、そのまま口を開く。


「北北東、1085……速度63。三体です。」


――


「同型が三体か?」


ダンゲルが視線を外さずに聞く。


「……。小型が二…大型が一…小型が前方……」


目を閉じ、霧の流れへ意識を沈めながら淡々と答える。


「まずは小型を消す。観測は続けていろ。蒼雷を放つ。」


腕を捲る動きがゆっくりと視界の端に入る。


「はい。」


霧が荒野一帯を静かに覆い、わずかに流れるその層の奥で、見えない何かの動きだけが確かに形を持ちはじめていた――

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