表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/49

第12話 馬車の上にて

馬車がきしみながら動き出すと、足元から伝わる揺れに身体を預けるようにして、マーベリックは樽に背を当てた。


その横でウェンティも同じように腰を落ち着けると、少し顔を上げてマーベリックを見た。


「よかったの、マーベリック。」


「わしのおかげじゃぞ!」


得意げに胸を張る仕草に、視線だけを向ける。


「そうだな。助かった。ウェンティのおかげだ。」


言葉を受け取ると、ウェンティは満足そうに目を閉じ、小さく鼻を鳴らした。


「エディ。街には人はけっこういるのか?」


前方で手綱を握る背中へ声を投げると、揺れの中でエディがわずかに肩を動かす。


「ああ。200人以上はいるな。」


「この辺りにも黒影は出るのか?」


「……出る。しかもここ数年は濃い黒影が多くなった。」


揺れる視界の先、荒れた地面と空の境目を追いながら、言葉を重ねる。


「山脈の向こう、テセルス側も同じか?」


ガタガタと車輪が地面を叩き、身体が揺さぶられる。


「向こうも同じだ。」


「すまないな。こっちまで手が回ってない状況で。」


前を見据えたままの声が返る。


「大陸は広いからな。助けがなければ自分たちで何とかするしかない。」


乾いた風が横を抜け、言葉の後にわずかな間が落ちる。


「生きるためだ。こうやって馬車を走られてるのもそうだ。」


その言葉の余韻を断ち切るように、ウェンティが背にしていた樽を軽く叩いた。


トントン――


「樽の中身は何が入っておるのじゃ?」


「ああ、水だ。ここら周辺は荒野が続いている。水は貴重なんだ。」


返ってきた答えに、ウェンティはゆっくりと首をかしげる。


視線の先に広がる青を指差す。


水なら周りに大量にあるではないか。


エディがそれを横目に見て、小さく笑うように息を吐いた。


「海の水は飲めないぞ?塩水だからな。」


「しおみず?」


その言葉を拾うように、マーベリックが間に入る。


「塩辛い水なんだ。海は。だから飲めない。」


「……なるほど。」


理解しきれないまま、ウェンティは眉を寄せる。


「はっはっは。海を知らないなんてな。街についたら海辺に行ってみるといい。」


風が強くなり、衣服がわずかに揺れる。


「なにごとも体験だ。」


その一言に、ウェンティはわずかに頬を膨らませると、荷台の上に座り直した。


揺れに合わせて身体を預けながら、視線を前へ向ける――


風を切り、街へ向かう馬車。


その流れの中で、ふと背後に違和感が引っかかる。


「ん?」


振り返り、揺れる視界の奥を目で追う。


ぼやけた景色の中に、わずかな動きが混ざっている。


もう一度、目をこらす。


「なぁ…マーベリック。」


「どうした?」


「後ろから追いかけてきてるのは何じゃ?」


指差された先へ視線を滑らせると、揺れる空気の向こうに影がにじむ。


「あれは……。」


身体を乗り出し、揺れに逆らうように視界を絞る。


形がはっきりした瞬間、背筋に冷たいものが走り

勢いよく振り返る。


「エディ!飛ばせ!後ろから黒影が来てる!」


「なに!?くそ!もう少しで街なのに!飛ばすぞ!」


手綱が強く引かれ、鞭の音が空気を裂くと馬の脚が地面を叩き、速度が一気に上がる。


ガタガタと荷台が跳ね、身体が浮き上がる感覚のまま、風が鋭く頬を打つ。


背後に迫る気配が、確実に距離を詰めてきていた。


逃げる振動と、追いかける影が、同じ鼓動の中で重なり始める――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ