第11話 下山②
三時間後――
足を運び続け、ようやく視界が開ける。
「よし。抜けたな。あとは平坦だ。」
振り返らずに言葉を落とすと、後ろから気の抜けた声が返る。
「まだ…歩くのか?」
「もう少し…と言いたいところだが街まではまだまだ先だ。」
その言葉を聞いた瞬間、ウェンティはその場にしゃがみ込む。
「わしはもう動けん……。」
マーベリックは一息つき、その様子を見下ろす。
「少し休憩しよう。」
荷物から水筒を取り出し、ウェンティに渡す。
「ほら。」
「一気に飲むなよ。」
ウェンティがうなづき、水筒を口に当てると、そのまま勢いよく喉を鳴らす。
ごく…ごく…ごく…
乾いた喉に水が落ちていくたび、肩の力が抜けていくのがわかる。
「はぁー…。」
「すまない。生き返った。」
差し出された水筒を受け取り、マーベリックも一口含む。冷えた水が喉を通り、内側から熱を押し流していく感覚を確かめながら、そのまま視線を周囲へと巡らせる。
(荒野…だな。隠れる場所が一つもない。)
どこまでも乾いた地面が続き、視界を遮るものは見当たらない。
(街までは……あと半日ぐらいか……。)
(俺だけならともかくウェンティがもつかどうかだな。)
「……リック!」
意識の奥でかすかに声が届く。
(それに……)
「マーベリック!」
「ん?どうした?」
振り向くと、むすっとした表情のウェンティがこちらを見ている。
「お前は考えことをするとほんとに声が届かんな!」
「あれ見て見ろ!人じゃないのか?」
指差す先へ視線を向けると、遠くの地平に小さな影が揺れている。やがてそれは形を持ち、こちらへ向かって進む馬車の姿へと変わっていく。
「馬車だ。街に向かってるみたいだな。」
「あの馬車に乗せてもらえば街まで歩かずにすむのではないか?」
ウェンティが立ち上がり、そのまま前へと走り出す。
「ああ。馬車が俺達に気づけばな。」
次の瞬間、腕を大きく振りながら声を張り上げる。
「おーい!こっちじゃぁ!」
腕を伸ばし、両手を振り続ける。
「おーい!」
何度もぴょんぴょんと跳ねながら、振り返る。
「マーベリック!お主もやるんじゃ!」
「俺もやるのか?」
「当たり前じゃろ!おーい!わしはここにおるー!」
(仕方ねぇ…やるか……。)
マーベリックが覚悟したとき、
「マーベリック!馬車がこっちに来ておるぞ!」
「気づいてくれたみたいじゃ!」
馬車がどんどん近づく。
「ウェンティのおかげだな。」
自慢げに腰に手を当て、
「そうじゃ、わしのおかげじゃ!」
近づく馬車。
御者台には一人の青年、荷台には樽がいくつも積まれているのが見える。ウェンティが手を振ると、青年もそれに応えるように軽く手を振り返した。
やがて馬車が目の前で止まる。
ぶるるっ!
馬が鼻を鳴らし、足を踏み直す。
「どうした?こんなところで?」
見たところ若い青年。
「頼みがある。わし達をあの街まで乗せていってくれ。あの街に行くのじゃろ?」
「たしかに戻る途中だが…。」
青年が少し考え込む。
「ウェンティ。俺が話す。」
マーベリックが一歩前に出て。
「俺達はあの山脈を越えてこちら側に来た。思いのほかこちら側が広くてな。」
「あの街まで乗せてもらえたら助かる。」
「山脈の向こう?」
「ああ。俺は魔都テセルスから来た。」
「テセルス……。」
青年は眉をひそめる。
「ハーベイの街に何のようだ?」
「実は旅をしててな。少しばかり寄らせてもらいたいだけだ。」
ウェンティがうなづく。
青年は二人を見て。
「わかった。荷台に乗ってくれ。樽で狭いが我慢してくれ。」
「助かる。俺はマーベリックだ。こっちはウェンティ。」
「ウェンティじゃ!」
「俺はエディ。」
「さ、乗ってくれ。」
二人は荷台に乗り込む。




