第51話:次の一手
なかなか更新できず申し訳ありません。
仕事で多忙の為、暫くは不定期な更新となります。
「ロディアス様!レイファス様から急ぎのご連絡がッ!」
王宮で公務をしていたロディアスの執務室に、慌てた様子の執事が駆け込んで来た。
「レイファスから……?手紙はどこに」
「こちらです!」
レイファスがわざわざ手紙を書くのは珍しい。それだけ緊急だったのかと差し出された手紙を受け取ったロディアスは、すぐに中身を確認した。
「…………至急、学園に向かう。馬車を出せ」
「シュバリエ嬢の処置は終わりました。後は神官様にお願いしますので、スカーレット嬢はここで少し休んでいて下さい。私は今から神官様をここへお連れして来ますので!」
「はい……ありがとうございます。先生」
足早に保健室を出て行った先生を見送り、ロザリアはローラの手当てが終わったことにホッと息を吐いた。
ローラと共に保健室を訪れた時の先生の慌てようは酷かった。裸同然でボロボロになったローラを見て、何があったのか瞬時に察したのだろう。顔を真っ青にして「急いでこちらにッ!」とローラをベッドの上に寝かせるようにロザリアへ指示してきた。しかし、そんな動揺を隠しきれていない中でも、棚という棚から消毒液や包帯などを出しては適切な処置を行なっていた。その甲斐があってか、ベッドの上にいるローラの姿は先程よりもよっぽど良い具合に改善されていた。
(ただ、問題なのは貴族令嬢としての貞操……現場の状況と彼女の言葉から察するに、やはり……ッ)
いくら考えても、ローラの純潔はこの一件で散ったとしか考えられない。
王族の婚約者として純潔は絶対。ロザリアを含め、王族の婚約者候補に選ばれた令嬢達は、あらかじめ貞操関連を厳しく調査されている。過去に貞操を偽り、王家の血を穢そうとした人間がいたからだ。だからその時点で何かしら問題があれば、まずもって婚約者候補に選ばれる事はない。
ローラはそれを分かっていて、今回の事件を引き起こしたのだとロザリアは理解した。それと同時に、この事実を知ったロディアス達の事を想像するだけで、彼女は寒気が止まらなかった。
「……先生はいなくなりました?」
「ッ!ええ……貴方、起きていたのね」
「寝てしまったら、私に何か聞きたいであろうスカーレット嬢とお話しできませんから」
「……ッ」
そう言ってゆっくりと起き上がったローラは、包帯やガーゼだらけの顔でニコッとロザリアに笑いかけた。
「でも、先生が神官を呼びに行ったので……そこまで話せないかもしれませんね。あの慌てようですから、すぐに戻って来るでしょうし」
どうしたものかと悩ましい仕草をするローラ。
その普段と変わらない言動に、ロザリアは彼女が暴行を受けた被害者である事を一瞬忘れそうになる。
(だけど、今まで言動を見るに以前とは全くの別人だわ。私の知るローラ・シュバリエは、あんな事をされたらここまで普通に振る舞えないはず……)
「あ、そうだ」
ロザリアがそう考えていると、何か思い付いたらしいローラが真っ直ぐに彼女を見つめてきた。
「スカーレット嬢、明日のご予定はなにかありますか?」
「え?明日……?」
「ええ。もし何もなければ、明日シュバリエ家に来て下さい」
「ッ!?」
突然の誘いにロザリアは目を見開いて驚く。どうして急にそんなことを言い出すのか?という彼女の疑問を察してか、ローラは言葉を続ける。
「今回の件含めて、聞きたい事が山ほどあるのですよね?それなら、私の家で話しましょう。訪問の理由は『暴行を受けたローラ・シュバリエへのお見舞い』という事にして」
「そ、そんなの無理よ!」
ロザリアは、他家の令息や令嬢がそう簡単にシュバリエ家を訪問する事はできないと知っている。
公爵であるラグナとロディアス達が協力し、ローラを徹底的に孤立させる為、友人すら作らせないようにした結果であると知っているからだ。
ローラだって、今まで他家の人間がそう易々とシュバリエ家の敷居を跨いだ事がないのを知っている筈だ。
なのにローラは今、ロザリアにシュバリエ家へ来るように要求してきた。
「例え同じ公爵家でも、私はシュバリエ家に入った事はないのよ!?お父様やお母様だってそうだった……そもそもシュバリエ公爵が許す筈がないわ!」
そう言い放ったロザリアだが、ローラの表情は一切崩れなかった。
「安心して下さい。シュバリエ公爵……お父様には私が話を通しておきます。そして、不審に思われるであろうロディアス様にはこう伝えてください。『シュバリエ嬢は今、女性である私に心を許している様子です。なので、お見舞いを口実に様子を見て参ります』と、こんな感じで」
「で、でも……っ」
「大丈夫です。上手くいきますよ。もし不安ならこんな風に言ってもいいですよ。『今回の件でシュバリエ嬢は男の方を見ると極度に怖がる様子を見せました。なので、この場は同じ女性である私がシュバリエ嬢の様子を見て参ります』とね」
次々とそう提案してくるローラは、レイファスの時と同様に自信に満ち溢れていた。
「どうしてそこまでして……」
「どうしてって、知りたいんでしょう?今回の一件を含めて、貴方が持つ違和感と疑問の全てを」
「ッ!?」
見抜かれているとロザリアは素直に驚く。相変わらず真っ直ぐこちらを見つめてくるローラの表情は変わらない。だが、その瞳の奥は確実にロザリアの反応を伺っていた。
「その答えを、シュバリエ家で全てお答えします。なので、来ていただけますよね?スカーレット嬢」
有無を言わせない雰囲気を纏いながら、ローラはそう言い放った。
「スカーレット嬢!ローラさんの容態は!?」
神官が到着し、ローラへ治癒魔法を発動してから暫く経った頃。保健室にレイファスが駆け付けて来た。その勢いのまま、彼は出入り口のすぐ側にいたロザリアにそう声をかけた。
「レイファス様、シュバリエ嬢は今応急処置を受けた後、今は治癒魔法を施されている真っ最中です」
「そうですか……今は眠っているようですね」
「はい。ここへ運んだ時までは意識があったのですが、治療を受けている内に眠ってしまったようです」
ロザリアがそう説明すると、レイファスはローラの傍へと歩み寄った。
治癒魔法を施されているお陰で、レイファスが目撃した時よりもローラの顔も身体も綺麗になっている。呼吸も安定しているようで、今はただ眠っているようにしか見えない。
「レイファス様、シュバリエ嬢の傷や痣の治癒はほぼ完了しています。ただ、その……大変申し上げ難いのですが……」
「…………分かっています」
神官の言葉に、レイファスはただ静かにそう答えた。
あの惨状を見て察せないほど、レイファスは馬鹿ではない。
「……スカーレット嬢、こうなった経緯をもう一度詳しく説明していただけますか」
「はい……」
ロザリアは、この状況を作り上げたのがローラ自身であることを伏せて話した。レイファスはそれを黙って聞いていた。
「……以上が、事の経緯になります」
何度言葉にしても、事の発端はローラからもらったあの手紙であり、ロザリアの行動が招いた結果であるとヒシヒシと痛感する。罰を与えられるのを覚悟しながら、ロザリアは真っ直ぐにレイファスを見つめた。
「…………分かりました。スカーレット嬢、その元凶となった手紙はどこですか?」
「え……私に罰を与えないのですか?」
「今回の原因は、スカーレット嬢ではなく貴方に渡ったその手紙です。ローラさんを襲った主犯格達も、まだ確かではありませんが同じような手紙を貰っていた可能性があります。なので、貴方への罰は不要と判断しました」
「あ、ありがとうございます」
「一応言っておきますが、これは私の独断です。……ロディ兄様からも話を聞かれると思うのでそのつもりでいてください」
「分かりました。肝に銘じます」
「それで?手紙はどこに」
「まだ談話室にあるかと思います。ザイラス様がシュバリエ嬢の危機を察して、慌てて放り捨てたので……」
「では、その手紙を回収しに行きましょう」
いつもの冷静さを取り戻したレイファスがそう言うと、ロザリアもその後に続いた。
「…………ない」
談話室へと辿り着いたレイファスとロザリアだったが、例の手紙はどこを探しても見当たらなかった。ザイラスが持っていた可能性を考えて、レイファスが件の教室で探してみるも、それらしき物はなかった。
それに動揺するロザリアと怪訝な顔をするレイファスが一旦保健室へ戻って来ると、そこには神官以外にも新たな人影があった。
「……しゅ、シュバリエ卿?」
ローラの傍にいたのは、レオンだった。
彼はロザリアとレイファスの顔を見ると、スッと静かに立ち上がった。
「レイファス様、スカーレット嬢……ローラに何があったのかご説明して頂けますか?」




