第50話:激情
【お知らせ】
47話の前書きにて「性的暴行未遂」と記載しておりましたが、内容と相違があったため「性的暴行」へ修正いたしました。混乱を招いてしまい申し訳ありません。
今話でも暴力・性的暴行に関する描写があります。苦手な方はご注意ください。
ローラ・シュバリエへの集団暴行によって、カンナの思惑通り関係者達が混乱しているその最中。
誰よりもこの事態に心乱されている者がいた。
「カンナさん……ッ、カンナさん…………」
それは、精神世界にいる本物のローラである。
今回の計画の全貌を誰よりも知っている彼女は、その場に座り込んでカンナの名前を悲痛に呼んでいた。
「カンナさん……ッ」
今のローラは、カンナに会いたくて会いたくて堪らなかった。
この計画を実行したいと提案したカンナに対してローラは初めて猛反対した。
例え最終的に死ぬことが目的であっても、それは女性にとって最も苦痛を強いられる行為であり、不必要に複数人から暴行を受けて傷付くことはないと、ローラはそう言った。カンナの行動力は尊敬しているが、恋心を自覚した直後だった彼女は、どうしてもカンナにそんな事をして欲しくなかったのだ。自分の貞操などより、カンナの方が大事だと。
しかし、当のカンナは「私は大丈夫ですよ」と言った後に、その理由として自らが経験したその内容をローラに話した。
ローラはそれを聞いて絶句した。未遂とはいえ集団で暴行を受けた事のあるカンナが、今度は自らの手でそれを行うと言っているのだ。ローラが言葉を失うのも無理もなかった。
それと同時に、彼女は激しい怒りを感じていた。カンナを理不尽に虐げた元友人達が、彼女に対してそのような仕打ちを行った事が許せなかったのだ。しかし、カンナはもう気にしていない、大丈夫だと言う。
「ローラさん、あのザイラスを陥れるのにこの計画は有効だと私は考えています。大丈夫です。私を信じて任せて下さい!」
そう言ったカンナの押しに負けたローラは、どうか無茶なことはしないで欲しいという事だけ伝えて、彼女の動向を見守る事にした。本来ならカンナではなく自分が引き受けるべき立場なのに、自分の身体に入れなかった事がその時のローラには悔しくてしょうがなかった。
そうして、精神世界でカンナを見守っていたローラは、ロディアス達や監視達、そしてロザリアを計画通りに転がしていくカンナに感心していた。
それと同時に、計画が決行される日が近いことへの不安が募っていた。
どうか、カンナが無事でありますようにと、ローラはカンナに会えない夜はずっとそう祈っていた。
そして今日、ローラはカンナの考えた計画を見届ける事になった。
ローラは、その悍ましい光景に言葉を失った。
自分の身体に群がる男子生徒達の醜さと、演技なのか疑わしい程のカンナの悲痛な叫び声と呻き声が、ローラの視界いっぱいに広がる。
抵抗するカンナを上から押さえ付け、暴行を繰り返すライアンとテオドールに、ローラは吐き気を催した。自分の手首を切り付けた下劣な人間が、今度はローラの大切な人であるカンナに容赦なく暴力を振るい穢していく様は、彼女の中にある怒りと悲しみを同時に刺激した。
「あああああああ……ッ!カンナさんッ!カンナさんッ!!!!どうしてッ、どうして貴方達はこんな事ができるの!?どうして他人を傷付けて笑っていられるの!?どうして誰もこんな馬鹿げた行為を止めないのッ!!!!」
そう叫んだローラの言葉は、ライアンとテオドールだけではなく自分すらも責めるような言い方だった。
「やっぱり止めるべきだったッ、どうして私はいつもこうなの……ッ!?いつもカンナさんに頼ってばかり……ッ!どうして私はただ見ていることしかできないの!?どうしてどうしてどうしてッ!私が、私が受けるべき行為なのに!私がしないといけなかったのに!カンナさんのような優しい人がこんな仕打ちを受けるなんて間違ってる!!!!」
ガシガシと頭を掻き、泣きながら後悔するローラ。
大丈夫だと言ったカンナを信じていない訳ではない。ただ、ローラにはどうしても目の前で繰り広げられる行為が耐えられないのだ。
「カンナさんッ、カンナさんカンナさんカンナさんッ!!!!」
髪を掴まれ殴られては嘲笑されているカンナに、ローラはただただ彼女の名前を呼ぶしかなかった。
「カンナさんッ!お願いもうこっちに戻って来て!私が代わるから、貴方じゃなくて私が全て引き受けるからッ」
どうやって精神世界に来れるのかまだ分かっていないのに、ローラはそれすら忘れてそう叫んだ。気絶すれば精神世界に来れるかもしれないと思ったのだろう。だが、カンナは演技を続ける為にか気絶せず振り下ろされる拳に耐えていた。
その様子に、ローラは涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
「お願い……もういいから……」
そう懇願したローラの目の前では、抵抗するカンナが腹を蹴られていた。
そして暴行は続き、カンナが穢されていく。
「ああ……あああああッ……」
汚い体液が、カンナに降り掛かる。
「やめて…………やめて……ッ!これ以上は……!!!!」
ローラはもう、貞操の事などどうでも良かった。自分の身体よりも、その中にいるカンナのことを思うと胸が痛んで仕方ないのだ。
しかし、現実は非情だ。
『あ゙あ゙あ゙あ゙あああっ!?』
悲痛なカンナの呻き声と男達の笑い声がその場に響き渡った。
「ゆる、さない………………」
醜い欲望に穢されたカンナに、呆然と固まっていたローラの顔が次第に激情へと染まっていく。
「許さないッ…………!許さない許さない許さない許さない許さないッ!!!!絶対に許さないぃぃッ!!!!私の愛するカンナさんに触るなッ!!!!触るな触るな触るな触るなあぁぁぁあああッ!!!!!!」
憤怒に染まったローラがそう絶叫しても、ここは精神世界。
目の前の現実に、ローラの声は一切届かない。
そうしてザイラス達が現場へ駆け付けた頃には、ローラの顔は色んな感情でぐしゃぐしゃになっていた。
「許さない……ゆるさない…………ッ!ひっく、ころす……殺してやる、絶対に……ッ!うぅ、貴方達のような下衆さえいなければ、カンナさんにこんな事ッ…………こんな事をさせずに済んだのに……どうして私は何もできないの…………!」
カンナが傷付くことへの悲しみ。
ライアンとテオドール達に対する殺意。
ザイラスやロザリア達に対する怒り。
自分の無力さへの呆れ。
その全てがローラの中で暴れ回っては口からこぼれ落ちていく。
『ザイラス様のこと…………信じてた、のに……ッ!』
「…………ッ!!!!」
しかし、そんなボロボロの状態だったローラはカンナの凄まじい演技力でハッと我に返ると同時に魅入られてしまった。
あれだけの苦痛を強いられながらも、カンナは宣言通りに計画を実行したのだ。
この現場を作り上げた主犯がザイラス・カーディアスであると、ローラ・シュバリエが勘違いし、彼への信用を完全に失うという最大の目的を、カンナは見事に成功させたのだ。
現に、少し前まで焦っていたザイラスが、ローラの口から出たその言葉を聞いて呆然と立ち尽くしていた。
そんなザイラスを見たことがなかったローラは、本当にこの作戦が有効であった事に素直に驚いていた。
そこから続け様に逃げたカンナによって、その後のザイラスの行動は分からなかったが、ローラでも予想できる程にはショックを受けたに違いない。
「…………本当に、貴方という人は」
信頼を失うのは一瞬とはよく言ったものだ。ザイラスが今まで積み上げて来たローラからの信頼は、今回の一件で全て崩れ落ちた。
今のローラ・シュバリエには、ザイラスは味方ではなく加害者の一人としか見えないだろう。
「……それでも、私は貴方が心配です。カンナさん…………早く貴方に会いたい」
一人寂しい精神世界で、ローラはボロボロになっても尚進み続けているカンナに寄り添うようにそう呟くのだった。




