第47話:演技
今話よりR15指定にさせて頂きました。
暴力表現・性的暴行未遂を想起させる描写がございます。苦手な方はご注意下さい。
ザイラス達がローラ──
──カンナの元へ駆け付ける数分前。
「…………もういなくなったかな」
アレンがいなくなったのを確認したカンナは、勉強道具を机に広げたままにして教室の窓辺に歩み寄った。
窓の外に人気はない。教室へ来るまでの道のりも、大して変わらないくらいには人がいなかった。この空き教室は、特定の授業で使われるか使われないくらいには人が来ない場所だからだろう。
ロザリアがくれた情報通り、ここは計画を実行するのに丁度いい場所だった。
カンナは、席に戻って勉強をしているフリをする。
(そろそろか……)
人気のない場所ほど、新たに聞こえてくる音は鮮明に聞こえてくるものだ。
バンッ!とワザと閉め切っていた扉が大きな音を立てて開いた。カンナは、その音に対して小さな悲鳴をあげ怯える表情を作った。
「お?本当にいんじゃん」
そう言いながら入って来たのは、デュモン伯爵家の次男であるテオドール・デュモンだった。
その彼の後からゾロゾロと男子生徒達が入ってくる。
「な……なんで……っ」
それを見て咄嗟に青褪めるローラを、彼等は馬鹿にするようにケラケラと笑った。
「なんでって、お前も呼び出されてここに来たんだろ?」
そう言ったのはカークランド侯爵家の三男、ライアン・カークランドだった。
(テオドール・デュモンとライアン・カークランド……無事に来てくれて本当によかった。ローラさんの手首を切った下衆共には絶対に来てもらわないと)
怯える表情をしながらも、カンナはその心の内でテオドールとライアンをそう罵った。
そう。テオドールとライアンは、かつてザイラスの指示によってローラを押さえ付け手首を切った事のある人間だったのだ。ザイラスが口にしていた「デュモン伯爵家とカークランド侯爵家の馬鹿息子共」とは彼等のことを指していた。
カンナはどちらも優秀な兄達と違い、奔放な性格で他者を見下すどうしようもない人間だとローラから聞いていた。そして、ローラに積極的に手を上げていたのは彼等であるということも。
ザイラスの側近候補に入っている為か、彼等がザイラスに逆らうことはない。だが、王族の側近に選ばれた時点で将来が約束されていると思っている彼等は、学園で好き勝手に動く事が多いという。
その情報を事前に頭に入れていたカンナは、今回の作戦を思い付き、ローラに提案した。
そして、ローラに猛反対された。
「わ、私が待っていた方は、貴方達ではありません……!」
「んなことこっちはとっくに知ってんだよ。だって、お前を呼び出した手紙はこっちで用意したもんだし」
「え……それは、どういう……」
「そんなの、ここにお前を誘き寄せる以外にあるか?」
「ッ……!?」
明確に悪意のある表情をするライアンに、カンナは内心ほくそ笑む。
カンナが用意した餌に、彼等はまんまと引っ掛かってくれたらしい。
「じゃ、さっさと終わらせるか」
「おいお前ら!コイツ押さえつけろ」
2人がそう命令すると、他の生徒達が一斉にローラを取り囲んだ。
それに対してローラが逃げようとする素振りを見せれば、すぐに四方八方から手が伸びてきた。その手は容赦なく彼女の腕や肩、髪を掴み上げる。
「キャッ!?いっ……!?いたい、やっ、やめて……ッ!」
「大人しくしろって!」
「うわマジでほせ〜!一回触ってみたかったんだよなぁ〜!」
力加減など微塵もせずにローラの身体を押さえつけた彼等は、すぐさま空いている手で彼女の身体を弄り始めた。
(この下衆共……マジで馬鹿の集まりかよ)
その貴族令息とは思えない下品な手付きに、カンナは内心ドン引きしつつも怯える表情を作り続けた。
「うわっ、治癒魔法使われたからめちゃくちゃ綺麗な肌になってんじゃねぇか!」
「傷痕ねぇの助かるわ。アレ見たら萎えるし」
「やっ……!」
「胸とかすげぇな、でけぇし柔けぇ……!」
「おい俺にも揉ませろよ!」
「ヒッ……!いやっ!やめて!」
「前はマジで全身ボロカスで気持ち悪かったのにな〜。よかったねぇ?死にたがりちゃん♡」
「俺全然触る気にもなれなかったのによぉ……こうして見たらマジで良い女だよなコイツ」
「はなして……っ、い、や……!」
「おいさっさと脱がせろって!制服じゃ全然興奮しねぇんだよ!」
制服の上から胸を揉み、スカート越しに尻や股座を撫であげる彼等は、至極楽しそうに笑っている。カンナはそれに応えるように抵抗する演技を続けた。
「ったく、脱がせんのおせぇんだよお前らは、俺が脱がしてやる」
すると、そんな彼等の様子を見て楽しんでいたライアンが急にビリリッと強引に制服を破いた。制服で隠されていた下着が顕になると、彼等は「おぉ!」一層下品な歓喜の声を上げた。カンナは、それを冷ややかな目で見ながら必死になって逃げようと踠いた。
「お〜可愛い下着だな」
「一番目は俺でいいよな?テオドール」
「お前でいいよ。まぁ、この人数ならどうせ順番なんて後からどうでもよくなるけどな」
「ギャハハッ!確かになぁ!」
そのライアンとテオドールのやり取りに、カンナはこれはどう見ても常習犯の口だなと呆れていた。
だが、ここでのカンナは誰もが見下す気弱なローラ・シュバリエ。死にたがり令嬢と蔑まれる存在だ。
この状況を経験したことがある岸田神奈のままではいられない。
「お、お願いしますッ……やめて、ください……っ!」
声を震わせ、涙を湛えながらそう言う。
今のローラは、男達に襲われている哀れな令嬢なのだから。
「ハァ?ここまで来てやめるワケねぇだろ」
「大人しくしとけよ愚図。これから気持ちよくしてやんだから」
「や……いやッ!やめて!」
「チッ、うるせぇなぁッ!」
「ゔッ!?」
ゴッ!とライアンの拳がカンナの左頬を殴りつける。その衝撃で口内を切り、鉄の味が口いっぱいに広がった。
「おい、コイツ床に倒せ」
彼女の腫れ上がった頬を見て上機嫌になったライアンがそう指示をする。カンナを拘束していた生徒達は、素直に彼女を床に押し倒した。
仰向けにされたカンナの上に、ライアンが跨る。
「うっ……いっ!?やっ、めてくだざ……ッ……」
「黙ってろよ。そもそもこうなったのはお前のせいだろ」
「え……?」
「好きな男がいる〜なんて言うからこうなんだよバーカ」
「そ、そんな……っ、うぐっ!?」
ローラを嘲笑しながら、ライアンは彼女の首を絞める。その力強い絞め方にカンナは苦しむが、おおよそ計画通りに事が進んでいる事を喜ばしく思っていた。
(後は待つだけだけど、この調子じゃ最後までされるかもな……)
相変わらず身体を這う手は減らない。ライアンを筆頭に、周りもローラの身体で興奮し切っているようだ。
カンナは、首を絞められて自然と流れた涙を感じながら、昔を思い出していた。
(あの時も、こうやって囲まれたっけ……)
ライアンとテオドールに重ねるのは、かつてカンナ自身にこういうことをしてきた男達だった。
急にカンナをいじめるようになった元友人達の差し金で、彼女は学校の先輩と同級生の男子生徒に襲われた。使われていない倉庫に呼び出され、連れ込まれたのだ。その時もこうやって、服を脱がされて跨られた。抵抗の末に殴られたこともあった。
だが、どういうわけかここからが本番という所でこの場を仕組んだ元友人達からのストップが入り、男達と彼女達が言い争ってる隙を突いてカンナはその場から逃げ出した。
貞操こそ守られたが、どうして彼女達が止めたのかは今だによく分かっていない。さすがに校内で性的暴行はまずいと思ったのか?とカンナはそう考える事しかできなかった。
そして現在、奇しくもその経験があったお陰かカンナは当事者でありつつも非常に冷静だった。この場を傍観して見ることができるくらいにはまだ余裕がある。
(ザイラスが来るまでに、ここを悲惨な現場に見えるようにしないとね)
そう思いながら、カンナは目の前にいる愚か者達を嘲笑うと場の流れに身を任せるのだった。




