第45話:情報
「…………私の魔法をこんな風に使うなんて」
「嫌でしたか?私は別に強制したわけではないのですが」
「ッ……」
ロザリアの横で笑うローラは、黙り込んだ彼女をそのままに監視がいる方を見やる。聞いていた通り、こちらが普通の会話をしていると思ってこれ以上は盗聴してこないようだった。
(やっぱり便利だな〜……)
カンナは、ロザリアに出会った時点で監視2人の情報を聞き出していた。後ろから見られているのを確認した彼女は、会話する時の手振りを使ってロザリアに一枚の紙切れを見せながら歩いていた。
【私を監視しているのはルシアンとアレンという名前の2人組ですね?】
それを見たロザリアは、目を見開いて一瞬足が止まりかけた。だが、カンナに突き動かされるようにロザリアは歩みを止めずに答えた。
「……気づいていたのね」
「はい。そして今私が貴方に聞きたいのはただ一つ」
アレンとルシアンが背後で2人が会っていることに困惑しているのを横目に、カンナは言葉を続けた。
「監視の2人は、魔法を使えますか?」
「ッ!」
ロザリアの顔色が変わった事で、カンナはそれを肯定とみなした。
(やっぱりそうか……ルシアンに助けられた時、いつの間にか濡れた髪や服が綺麗になってた。気絶したふりをしていたから気付くのに遅れたけど……これであの時綺麗になってた理由が分かった)
裏庭のベンチに辿り着いた2人は、ベンチに座る。
「スカーレット嬢、貴方は他者の魔法を感知できますか?」
「え、ええ……防御魔法を発動できるように魔力感知は得意よ」
「では、相手にそれを気付かせないようにすることも?」
「できるわ。私ならね」
「そうですか。それなら、あの監視が何かの魔法を使った瞬間にそれと同じ魔法を使う事は可能ですか?」
「属性が違うけど……できると思うわ」
「では、これから他愛のない会話をしましょう。監視は私達の会話に興味を持っているでしょうから」
「ッ……どうしてそこまで分かるの?」
「ただの勘ですよ。私が監視の立場ならそうするだろうなと思って」
そうして表情をローラに切り替えたカンナは、おずおずとロザリアにドレスの話題を振った。
するとカンナの読み通り、監視は魔法を使った。ロザリアも魔法を発動し、互いに会話が聞こえるようになった。
──「もしかしたら、スカーレット嬢なりにローラ様が候補を辞退しないよう見張っているのかもしれないな」
──「ローラ様を正面から思い止まるように説得できるのも、スカーレット嬢しかいないだろうからな……」
──「とりあえず、今は報告会まで見守ることにするか。スカーレット嬢なら、ローラ様になにかすることもないだろうし」
──「そうですね」
そこから先の会話は聞こえなくなった。どうやら、ここからは言葉通り見守るだけにしたようで、ロザリアも魔法を解除したらしい。
そうして冒頭の会話に戻り、カンナは改めて話題を変える。
「スカーレット嬢、改めて貴方にお願いしたいことがあります」
「お願い?」
「ここに書き出してある質問に対しての情報をここに書いて下さい。期限は明日までにしましょうか」
「これは……」
カンナがロザリアへ渡した紙切れには、次の作戦で必要になる情報が書き記されていた。
【・ローラ・シュバリエを特に妬ましく思っている令嬢の名前(複数人いれば全員の名前を書いて下さい)
・ローラ・シュバリエに暴力を振るった事のある令息の名前(こちらも上記と同じ)
・使われていない教室または倉庫の場所
・王子達がバラバラになる時間帯 】
「難しいものはないと思います。ロディアス様にバレないように気をつけてくださいね」
「わ、分かったわ」
こんなものを聞いてどうするのかというロザリアの疑問に答える暇もなく、カンナは立ち上がる。
「では、私はこれで。付き合って頂いてありがとうございました。また明日お会いしましょう、スカーレット嬢」
そうニコニコと笑いながらカンナはその場から離れる。その後を、アレンとルシアンが慌てて追いかけて行く。残されたロザリアは、渡された紙切れをしまうとすぐに立ち上がった。
そうして帰宅したカンナは、使用人にエリーラの事を尋ねた。
どうやら朝の一件からまだベッドの上で眠っているらしく、余程応えたのかときどき魘されているらしい。引き続き世話をよろしくと頼んで使用人と別れたカンナは、そのままレジーナを呼びつける。
「何か御用でしょうか、ローラお嬢様」
「今度ある婚約者候補を集めたパーティーのドレスを買いたいの。早めに仕立て屋を呼んで貰えるかしら」
「承知しました」
「よろしくね」
レジーナとのやり取りも最短で終わらせたカンナは、自室に戻ってふむ……と考える。
(ドレスはこれで良いとして、あとはスカーレット嬢からの情報次第かな。そろそろローラさんに会いたいけど……まぁ、次の計画は私が一番頑張らないといけないところだから甘えちゃダメか。ローラさんは最初反対してたけど、ザイラスをやるにはこれが一番だろうし……私も覚悟してるし)
そこまで考えて、カンナは一つ深呼吸して自分を落ち着かせる。
「……とりあえず、今は色々と準備しなきゃね」
よし!と気合を入れ直したカンナは、次の計画に向けての準備を始めた。
その翌日。ローラに会えずに終わったカンナは、王子達と加害者達を適当にあしらいながら、予定通りロザリアの元へ向かった。監視の2人は相変わらずカンナの後ろにいる。
「スカーレット嬢、今日もご相談が……」
「ええ。いいわよ」
そんな短いやり取りの後、2人は並んで歩き出す。
授業の話やドレスの話などをしながら歩き、監視の動向にも気を配る。ロザリアは昨日と同様に魔法で警戒していたが、今日はもう盗聴しないらしい。
「紙は持って来てくれましたか?」
「ええ……これよ」
監視からは見えないように、ロザリアは折られた紙切れを渡してきた。カンナは黙ってそれを受け取り内容を確認すると、それをまた折って制服の袖に隠した。
「ありがとうございます。やはり仕事が早いですね」
「……一応聞くのだけど、その情報で何をするつもりなの?」
「教える事はできません。でも……ご安心ください、スカーレット嬢。ロディアス様には何もしませんよ」
「ッ……?」
その答えになっていない返答に、ロザリアは首を傾げるしかない。だが、カンナはニコリと笑うだけでそれ以上は言わなかった。
「ああ、そうそう。この情報のお礼として。スカーレット嬢にこれを」
「……手紙?」
思い出したようにカンナがロザリアに渡してきたのは、封筒に入った手紙。封筒には宛名も何も書いていない。蝋で封もされていない。いつでも開けられる状態になっている。
「これはなんなの?」
「見ての通り手紙です。誰からとは言いません」
「……どうして私にこれを?」
「スカーレット嬢から頂いた情報を見て、今渡すべきだと判断しました」
そう答えたカンナは、スカーレット嬢の瞳を真っ直ぐに見つめながら言葉を続ける。
「その手紙は必ず明日の放課後に読むようにして下さい」
「明日の放課後……?」
「約束してくれますか?」
「ッ!わ、分かったわ」
「ありがとうございます。それでは、また明日」
そう言い残して去っていったカンナ。ロザリアは、今すぐにでも手紙の内容を確認したい気持ちに駆られた。だが、ここであの不気味な雰囲気を纏っていたローラを裏切ったら、ロディアスに何を告げ口されるか分かったものではないと踏み止まった。
「ッ……仕方ないわ。これも婚約者になる為に必要な事だもの」
そう自分に言い聞かせ、ロザリアは手紙を持ってその場を去ったのだった。
5/14 追記
なかなか更新できず申し訳ありません。
仕事の都合でもう暫くは更新できませんので、ご了承下さい。




