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第39話:予想外すぎる


「チッ、結局『K.K.』が誰なのか分かんねぇままだったな……」


 カンナが転んで少し経った頃、ザイラスはそうぼやきながら食堂へと向かっていた。

 王家の調査班を使っても「K.K.」というイニシャルは数名いたが、ローラから聞いた特徴の生徒は見つからず、それに近しい者もいなかった。

 だが、ローラは確かに黒髪で自分と同じ黄金の目だと言った。


 ()()ローラが、ザイラス達に嘘を吐くはずがない。


 純粋な表情で「K.K.」について語っていた彼女に、ザイラスは違和感を感じなかった。ただ、あの愛おしい人に向ける表情が気に食わなかっただけで。


「どこにいんだ……早くローラの前から消さねぇと」


 そう零しながら食堂へと辿り着いたザイラスは、今頃ローラが転ばされて笑い者になっていると思い辺りを見渡す。

 しかし、そこにはどこを見てもローラの姿はなかった。


「はぁ?どうなってんだ」


 ザイラスが不機嫌そうにそう言うと、彼に気付いた生徒達の顔が青ざめた。

 ザイラスは、ズカズカと命令した男子生徒達の元へ向かう。すると、彼等のいる場所には学食が散乱し酷い有様になっていた。

 どう見ても誰かが転んだような現場だったが、肝心の転んだ人間がいない。


「ざっ……ざ、ザイラス様……ッ」

「言い訳は良い。なんでローラがいねぇんだ」


 そこにいるはずのローラがいないことをザイラスが聞けば、生徒達は顔面蒼白になりながら答えた。


「その……シュバリエ嬢は、転んだ拍子に頭を怪我しましてッ……それで血が……」

「あぁ?血だと?……俺はただ転ばせろって言っただろうがッ!」

「もっ、申し訳ありません!まさかそんな事になるとは──ゔっ!?」


 ガシャンッ!とザイラスは報告して来た男子生徒を蹴り飛ばす。他の席にいた生徒も巻き込んで転んだ男子生徒は、ローラのように学食まみれになりながら倒れ込んだ。


「で?肝心のローラはどこだ?怪我してんなら俺が手当てするようになってるよな」

「そ、それが……」


 周りにいた生徒達は顔を見合わせて口籠もる。それに大きな舌打ちをしたザイラスは、キッと彼等を鋭く睨みつけた。


「グダグダしてねぇでさっさと答えろッ!死にてぇのか!?」

「ほ、保健室に連れて行かれました!」

「ハァ?誰にだよ?まさか1人で行くわけねぇよな?」

「ヴィ、ヴィンセント卿が連れて行かれました。シュバリエ嬢を抱えて……」

「…………なるほど」


 ザイラスは状況を理解すると同時に、勝手な真似をした監視──ヴィンセントに対してピキッと青筋を浮かべる。そして怯えている生徒達を置いて踵を返すと、彼はそのまま保健室へと向かうのだった。

 





 


「もう大丈夫ですよ。シュバリエ嬢を運んでくれてありがとうございます。ヴィンセント卿」

「いえ……」


 保健室に運ばれたカンナは、気を失った振りをしながら保健医からの手当を受けベッドの上に寝かされていた。


(銀髪の監視くんはヴィンセントっていうのね……)


 薄目で先生と自分を運んだ銀髪の生徒──ヴィンセントを見つめるカンナ。


「あの……シュバリエ嬢は無事に目が覚めるでしょうか?」

「傷はもう手当てしているし、他も特に怪我はなかったから、あと少ししたら起きると思うわ」

「そうですか……」


(ローラさんからは、こうやって誰かに助けられたような話は全然聞かなかったな…………流石に監視役が動かないと不味いと思ったのか?でも、それだったら一度くらいローラさんを助けているはず……なんで今回だけ助けたんだ?)


 2人の会話を聞きながら「もしかしたら、これも下衆王子達の策略なのかもしれない」と、カンナはヴィンセントの動向を警戒する。

 すると、保健医は用事があるのか保健室を出て行ってしまった。


(は!?先生出て行った!?)

 

 急にヴィンセントと2人になったカンナは、心の中で慌てる。


(まずいな……監視と2人きりなの気まず……)


 いつ目覚めようかと、カンナが悩んでいるとヴィンセントはベッドの近くに置いてあった椅子に腰掛けた。


(……近くに座った?いや、マジでどうしようこの状況……一旦ガチで寝てみるか?でも、今日は放課後に図書室行く予定あるし、アラームとか掛けられないんじゃ寝るのは不味いかも……)


 うーんうーんと悩むカンナだが、顔だけは穏やかに眠っているように見せている。

 それに対して、ヴィンセントは何も言わずに座ったまま無言を貫いている。


(本当にどういうつもり……?)


 もう疑問符を浮かべるしかないカンナがそう思ったその時だった。



「何勝手な事してんだよテメェ」


「ッ!」

(ッ!ザイラス……ッ!)



 不機嫌そうな声と共に現れたのは、今回ローラ(カンナ)が怪我をした要因であるザイラスだった。ヴィンセントは慌てて立ち上がり、カンナはキュッと表情が崩れないように顔を引き締めた。


「ザイラス様……ゔッ!?」

「勝手な事してんじゃねぇよ。俺があそこに来る事分かってただろテメェ」

「もっ、申し訳ありません……ッ」


 ヴィンセントが何か言うよりも先に彼の首を掴んだザイラスは、不機嫌なことを隠しもせずそう言った。

 ローラが眠っている事を良いことに珍しく手を上げているのだろうが、その光景にカンナはうわぁ……とドン引きするしかなかった。


ローラ()がいる横でそんなやり取りするなよ。というか、お前がさっさと来てれば良い話だろ今回のは)


 ザイラスが後からローラを助けるつもりだったのはあの状況から分かるが、それならもっと急いで駆け付けろやとカンナはザイラスの身勝手さに呆れた。


「ルシアン・ヴィンセント、お前はただの監視役だ。勝手な真似してローラに触んな!」

「で、ですがッ……ローラ様が危険なじょうた…………ぐっ……あっ……!」

「危険な状態だぁ?いいか?それでもローラに触れて良いのは俺達だけなんだよ……!ロディ兄が言うからお前をローラの監視に置いてるが、俺はテメェなんてどうでも良いんだよ。ヴィンセント公爵家なんて、いつでも潰せる……この意味が分かるよなぁ?」


 ヴィンセント──ルシアンの首を絞めながらザイラスがそう脅しをかけたその時だった。





「ざ、ザイラス様……?何をなさって、いるんですか……?」



「ッ!?」

「……ッ!」





 それを聞いたザイラスは慌ててルシアンから手を離し、声のした方へと目を向けた。


 そこには、ベッドの上で青褪めた表情を浮かべながらザイラスを見つめるローラ(カンナ)がいた。


「ろ、ローラ!怪我は大丈夫か?」


 ザイラスは取り繕うように前に出ると、心配したんだぞという顔で彼女を見つめた。

 しかし対するカンナは、少し震えながらザイラスとルシアンの2人を交互に見た後、恐る恐る口を開いた。怯えていますよと誰が見ても分かるように。


「あの……どうして今、彼の首を……」

「えっ……ああ!コイツがローラに怪我させたんじゃないかって勘違いしたんだよ」

「そ、そうですか……?私にはそんな風には見えませんでしたけど…………」

「ッ、本当に間違えただけなんだよ!ローラが怪我したって聞いていてもたってもいられなくて」


 慌ててそう答えるザイラスに対して、カンナは疑念の表情を崩さずにいた。


「私を転ばせたのは食堂にいた生徒です……その方は、私をここへ運んで下さっただけで……ッ」

「そ、そうだよな!悪りぃな、急に突っかかって」

「い、いえ……」


 カンナがそう言うと、ザイラスは嫌そうなのを隠す事もせずルシアンに短く謝罪した。それを受けたルシアンは、慌てて気にしていませんという姿勢を取った。


「あの、お名前を教えて頂けませんか?是非ともお礼を……」


 カンナがそう聞くと、ザイラスの表情がピクッと引き攣った。余程、ローラが他の男に興味を持つのが気の食わないらしい。

 そしてルシアンは、ここで名乗らないのも可笑しな話かと思い、彼女に頭を下げながら口を開いた。


「ルシアン・ヴィンセントです。私は偶々貴方を助けただけに過ぎませんので、お礼は結構です」

「そう、ですか……分かりました。助けていただきありがとうございます。ヴィンセント卿」

「い、いえ」


 ふわっと可愛らしく笑ってそう礼を言ったカンナに、ルシアンは一瞬だけ頬を赤らめたが、ザイラスのことを考えてかすぐに切り替えて元の真面目な顔付きに戻った。


「……じゃあ、俺はお前を転ばせた奴を探して注意してくる。それまでは安静にしとけよ?ローラ」

「はい!来てくださってありがとうございます。ザイラス様」


 そのやり取りに気分を害したのか、ザイラスは急に立ち上がってそう言い出した。それに対して、カンナはワザとルシアンとは違う気持ちの籠っているようで籠っていないお礼を言った。

 それにまたザイラスの機嫌が悪くなったのを内心でほくそ笑みながら、カンナはこれから彼に八つ当たりされるであろう男子生徒達……詳しく言えば今回カンナを転ばせた彼等に合掌した。


「では、私もこれで」

「あ、はい!本当にありがとうございました。ヴィンセント卿」

「も、もうお礼は結構ですので……失礼します」


 ダメ押しのようにカンナがまた礼を言うと、ルシアンはそそくさと保健室を出て行った。


(ルシアン・ヴィンセント……ヴィンセント公爵家って言ってから、ローラさんと同じ公爵家の人間か。という事は、もう一人の監視も同じくらいの地位にいる貴族になる感じかな)


 カンナはベッドの上に寝転がって安静にしつつ、先程出てきた情報をまとめる。


(それにしても……監視役がローラさんに触れただけであんなにキレるとか。独占欲の塊すぎるし、身勝手すぎ。起きる口実になったとはいえ、あの言い方は酷い)


 あの時、ザイラスがルシアンの首を絞めて脅した瞬間、カンナはザイラスの言動にカチンと来ていたのだ。

 だから彼女は、ルシアンに助け舟を出すようにローラとして怯える演技をしたのだ。ザイラスが今まで積み上げたローラからの信頼を、一瞬で無にするように。

 案の定、ザイラスはローラ(カンナ)の前で慌てて取り繕った。それだけローラに嫌われたくないのが見て分かったが、不機嫌そうなのを隠しもしないのはどうかとカンナは思う。



(まぁ、監視の名前は覚えたし……次会う時の口実もできそう。あとは、レオンさんが順調に動いてるかどうか……)



 そう考えながら、カンナは一つ大きな欠伸をする。午前中の授業から教師を相手に頭を使っていたのだ、ランチも結局食べれていない。疲れが出るのはしょうがない事だった。


(とりあえず、今は保健医の先生が戻って来るまで休憩しよう)


 そうしてカンナは先生が戻って来るのを待った。














 その裏で、ザイラスが大暴れしていることなど知りもしないまま。

 

諸事情により5/18まで暫く更新できません。よろしくお願いします。


※追記

なかなか更新できず申し訳ありません。次回の更新は5/21です。

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