第36話:次にやるのは
「……なるほど。そういう理由があってお2人は一緒にいるわけですね」
シュバリエ家に帰宅したローラとレオンを迎えた使用人達は、朝よりも随分と顔色の良いローラと、ボロボロの傷だらけになったレオンという正反対な有様に驚きを隠せなかった。
使えない使用人を無視し、カンナの手によって手当てをされたレオンは今、ローラの部屋で情報を共有していた。
そして知らせを受けて駆け付けて来たルイは、最初こそローラとレオンという組み合わせに怪訝な顔をしたが、学園で何があったかを説明したことで今に至る。
「なかなか面白かったわよ。私が辞退宣言した時の生徒達の顔」
「それはそうでしょう……普通はあり得ませんからね」
「ふふ、ローラ・シュバリエなら絶対にそんな事をしないと思っていたのでしょうね。おかげで、スカーレット嬢をこちらの駒にできたわ」
「まさかスカーレット嬢がそこまで慌てるとは……」
レオンの知るロザリアは、いつも冷静だった。ロディアスの指示にも従い、聡明に行動していたように思う。
それがまさか、ローラの婚約者候補辞退の一件で崩れてしまうなど考えもしなかった。
「殿方には分かりにくいでしょうね。でも、同じ女の私ならロディアス様を慕っている彼女の弱点なんていくらでも分かるわ」
「恐ろしいな……それは」
ローラの顔で悪い笑みを浮かべているカンナに、レオンは女の恐ろしさを痛感した。
「それで、今後はどうするんですか?ロディアス様達は『K.K.』に成り変わって手紙を書きますし、辞退する気も起きないようにまた虐めようとしてくるかもしれませんよ?」
「そんなの今更よ。今日は甘やかす日だったから何もしなかっただけで、明日から普通にいじめが始まるに決まってるわ」
そう言ってニコリと笑うカンナに、ルイもレオンもなぜそれを分かっていて笑えるのかが不思議でならなかった。
「何か考えがあるのか?今日のロディアス様達の様子を見るに、今までローラが受けていたような虐めなど可愛いものになるかもしれないんだぞ」
「そうですよ!それこそ、指示された生徒達がローラ姉様の尊厳を踏み躙るような事になれば……」
心配そうにカンナにそう助言する2人だが、彼女の顔色は変わらない。
「大丈夫よ。2人には教えておいてあげるけど、私からすればあの程度はどうにかできる範囲なの」
「そうなのですか?ローラ姉様はいつも誹謗中傷の的になっていましたよ……?」
「あんなの誹謗中傷じゃないわ。私ならもっと口汚く相手を罵れるし」
「だが、男子生徒から暴力を受けたらどうする?普通の令嬢には太刀打ちできないぞ」
「ロディアス達はそれを制限しているから、大怪我になる事はないわ。寧ろ性的暴行をして来ないから、こちらが有利に動けるわ」
「それは、そうだが……」
それでも暴力を振るわれたら怖いし痛いだろうと、レオンはそう思う。どれだけカンナが大丈夫だと言っても、その身体はローラの物だ。
しかも、今回の件でロディアス達のローラへのいじめはエスカレートする可能性もある。
それが分かっていない筈がないのに、カンナは大丈夫としか言わない。
「あの、襲われた時に使えるような武術の心得でもあるのですか……?」
「武術?私はそんな武人じゃないわ」
「じゃあどうやって対処するのですか……?」
ルイが首を傾げるのを、カンナは余程姉が心配なんだなと思いながら答えた。
「ん〜、そうね……分かりやすく言えば、被害者面をするってところかしら」
「被害者面……?」
「どういう意味だ?」
ルイだけではなく、今度はレオンも一緒になって首を傾げた。
そんな2人に対して、カンナは余裕の表情を崩さずに説明する。
「ローラさんが、カーディナ学園で最も虐げられている存在なのは分かるわね?」
「あ、ああ……」
「さすがに……」
今更何の確認だ?と思う2人に対して、カンナは続ける。
「じゃあ、その加害者達はロディアス達に命令された生徒達なのも理解できるわよね。彼等は、ローラさんを虐めることで何かしらの報酬を得ていた」
「ああ、その通りだが……それが被害者面にどう繋がるんだ?」
思い切ってレオンがそう聞けば、カンナはいつものように笑って答えた。
「つまりね。転落事件の時のように……ワザと重傷を負うのよ。指示を受けて動くだけの加害者達はローラさんに想定外の被害が起きると途端に焦って崩れるから」
「ッ!」
それを聞いたレオンはやっと理解した。
ロディアス達が出す指示は、どれもローラにとって致命傷足り得ないものばかり。精神的に追い詰めるのが主な目的の彼等にとって、ローラが予想外に死にかけるような出来事が起きれば、転落事件の時のように取り乱す。
「な、なるほど!指示されている内容の範疇を越えれば、それはローラ姉様を本格的に傷付けることに繋がって、加害者達は王子達から罰を受ける……という事ですね?」
「ええ、そんな感じよ。ラヴェナ・レイブンとその取り巻き達の時のように、ローラさんを虐め抜いた連中には王子達の手で始末してもらうの。駒の暴走によってローラが傷つけられてもし死んでしまったら、王子達は怒り狂うでしょうから」
「そういうことか……そしてローラはあくまでも被害者だから、絶対に立場は揺るがない」
「その通り。彼等の中にある『ローラ・シュバリエは大人しくて従順な虐めて良い存在』という先入観を利用させてもらうのよ」
加害者達に共通しているのは、ローラは自分達よりも下の人間であるという認識。ロディアス達によって植え付けられた先入観は、ローラを弱者だと決め付けた。
だから、カンナはそれを利用する事にした。
(と言っても、これを考えたのはローラさんが発端だけどね)
感心した様子のレオンとルイに、カンナは密かにそう思っていた。それと同時に、ローラの容赦のなさを痛感していた。
被害者であった彼女からすれば、その立場を利用するという発想が出るのはごく普通のことだった。しかし、そうする事で加害者達を始末しようとするとは流石のカンナも考えつかなかった。それくらいローラの加害者達への憎悪は大きいという事だ。
「ローラさんを傷付けることがどれほど罪深いか。その身を持って思い知らせてやるわ」




