第34話:協力者達
ロディアス達がローラ──
──カンナと対峙する少し前のこと。
「さぁ……どうするのですか?スカーレット嬢」
カンナの言葉に、ロザリアは息を呑んだ。
今まで見てきたローラ・シュバリエとかけ離れたその姿に、いったい自分は誰と話しているのだろうと彼女は不安になった。
いつも澱んでいた黄金の瞳が、今は爛々とロザリアを射抜いて離さない。
逃げられないと、直感的にそう思うしかなかった。
「…………わ、分かりました」
震えを悟られないように答えたロザリアに、カンナはニコリと笑う。
「ありがとうございます。聡明なスカーレット嬢ならそう言ってくれると思っていました」
そう言ってロザリアから離れたカンナに、ロザリアはやはり気味の悪い違和感を覚えた。
「では、協力してくださることのお礼に、一芝居打ちましょうか」
「一芝居……?」
「もうすぐ私の元にロディアス様達が来ます」
「っ!」
「スカーレット嬢はどこかに隠れて私と彼等の様子を見ていてください」
「……な、何をするの?」
思わずそう聞いてしまったロザリアに対して、カンナは笑顔を崩さずに答えた。
「私の好きな方についてのお話をするだけですよ」
そうして言われるがまま、ローラから少し離れた木陰に隠れたロザリアはジッとカンナの様子を見ていた。
(……あれは、本当にローラ・シュバリエなのかしら)
そしてロザリアは、ベンチに座って他に見向きもしないローラに対してそんな事を思っていた。
急に相談があると持ち掛けられた時は、目障りで厄介な相手な事に変わりなかった筈なのに、ロザリアが口を滑らせた途端に雰囲気が一変した。
下からコチラを窺っているような目が、首元にナイフを構えるような目になった瞬間、形容し難い恐怖を感じ取った。
そのせいで、無視してしまえばいいはずの指示にも大人しく従ってしまっている。
ロディアス達が今から本当に来るなんて分からない筈なのに、ロザリアは今、その時が来るのをジッと待っていた。
そして暫くすると、ロディアスがレイファスとザイラスを連れて庭にやって来た。それを見たロザリアは驚きながらも、相手に自分が見えないように隠れた。
そうしていると、ロディアス達はローラの元へ行き、何か話し始めた。恐らく、婚約者を辞退する話をしているのだろうと彼等の顔から推測する。
焦った様子のロディアス達に、ロザリアは彼等のあんな顔は初めて見る……とそう思っていた。
いつも余裕綽々で、他者に対してあまり興味を持たない彼等が、ローラ・シュバリエの前では年相応な表情になる。
そのことに、ロザリアは胸が苦しくなるのを覚えるが、ローラは絶対に辞退する事を約束した。どうするのか具体的には聞いていないが、アレは本気の目だった。
(大丈夫……今だけだもの……)
最終的にロディアスの婚約者となるのは自分なのだからと、痛む胸のことを忘れて目の前の状況を見守る。
そうして午後のベルが鳴った頃、ロディアス達はローラと別れて行ってしまった。
ゆっくりと物陰から出てきたロザリアは、ロディアス達の背中を見送るローラを見て一瞬足が止まった。
彼女は笑っていた。まるで愉快で仕方ないとでも言うように。
ローラ・シュバリエがそんな顔をするのを、ロザリアは見たことがなかった。
「スカーレット嬢、見ていてくれましたか?」
ハッと彼女が我に返った時には、ローラが目の前まで来ていた。
ニコリと笑う彼女はロザリアの知るローラそのものだった。
「ちゃんと私が好きな方について話して来ました。これでロディアス様達は、暫くそちらへ目を向ける事が多くなると思います」
「そ、そう……なのね」
「何か気になる事でもありましたか?」
「いえ……なにも」
「そうですか?あったら遠慮なく言ってくださいね。私達は協力関係にあるんですから」
人懐っこい笑みを向けてくるローラに、ロザリアは形容し難い恐怖を抱きながらもその言葉に頷いた。
「……本当にやったんだな」
図書室で本を広げていたレオンは、本を閉じて立ち上がる。そして廊下に出ると、スタスタと自分の教室へと向かった。
すれ違う生徒達の話題は、レオンの予想通り「ローラ・シュバリエがロディアス殿下の婚約者候補を辞退する」という話で持ちきりだった。図書室でも小さく聞こえていたが、廊下だけでも凄まじい話題性だった。
王族の婚約者候補は事故や怪我、病気以外で辞退する理由などない名誉あることだ。
なのに、ローラ・シュバリエは「他に好きな殿方がいる」という、まるで令嬢達が好むロマンス小説のような理由で辞退すると言ったのだ。
これが生徒達の間で話題となっている要因の一つだろう。
そして、レオンが考える要因はもう一つあった。
それは、あんなにロディアス達3人にしか目がいかないように仕向けていたローラが、いつ他の異性に恋をしたのか?と言うものだ。
学園全体を駒にしてローラを孤立させ、いじめを指示し、依存させていたロディアス達3人。
生徒達から見ても彼等は異質だったが、誰がどう見てもローラはロディアス達に傾倒している様子だった。
それなのに、本人の口から出たのはロディアス以外に好きな人ができたという衝撃的な内容。レイファスやザイラスでもなさそうな言い方をしていた。
どうして?なんで?と首を傾げる生徒が大半を占めるのは当たり前のことだった。
現に、足早に歩くレオンを遠巻きに見つめる周囲の目は、その真相を探る為のものばかりである。ローラの兄であり、一番近くにいたであろうロディアス達の駒。
(直接確認しようとする者はまだいないようだな……)
早く歩いているからでもあるが、レオンにわざわざ声をかける生徒はいないらしい。
そして教室についたレオンは、クラスメイトの視線を無視して席に座った。
誰もがソワソワと落ち着かない中で、授業開始のベルが静かに鳴り響いた。午後の授業は、そんな落ち着かない雰囲気のまま進んでいくしかなかった。
そうして授業が全て終わった頃、教室の外が騒がしくなった。
(……来た)
聞こえてきた声や音で、レオンはそう直感する。
「レオン、ちょっといいかな?」
そして彼が確認するまでもなく、その声はすぐ隣までやって来た。
「ろ、ロディアス様!?」
レオンは、慌てて席から立ち上がる。
すると、ロディアスはそんな彼を見て一瞬笑うと、次の瞬間にはその目が刃物のように鋭くなる。
「君と話したいことがあるんだ。いいよね?」
首を縦に振ることしか許さない圧に、レオンは素直に頷いたのだった。




