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第30話:利用させて


「……どうしてレオンお兄様がここに?」

「俺も一緒の馬車で向かうからだ」

「一緒……?」


 急に何を言い出すんだコイツと、カンナは馬車の前で仁王立ちしているレオンを睨んだ。

 安静に過ごした翌日。カンナは予定通り学園へ復帰する準備に入った。エリーラはアレから姿を見せず、ラグナにも会っていない。

 そんな中で、レオンが現れたことにカンナは違和感を持った。


(ロディアス達にチクったこと問い詰めに来たのか?)


 カンナは精神世界でレオンの腕に痣があったのを確認している。起きるまでの間にそれが治ったのも分かっているが、やはりそうなった元凶を詰めるのは当然かと、カンナは一人そう考える。


「どうした、乗らないのか?」

「…………乗ります」


 しかしレオンが早々に馬車へ乗り込み、カンナは一歩出遅れた。今から別の馬車を用意させることも可能だろうが、カンナは精神世界で見たレオンの行動について知る必要がある。ここは大人しく一緒に乗るかと、彼女もそのまま馬車に乗った。


「…………」

「……」


 馬車が公爵家を出てから、2人の間に会話はなかった。席の関係で向き合ってはいるが、互いに無言のまま外の景色だけが変わっていく。

 カンナは、ローラの時とは違った気まずさを感じながらも、これでは一緒に乗った意味がなくなると思い口を開いた。


「……なにか言いたい事があるんじゃないの?」


 試すようにそう聞くと、レオンの目がやっとカンナの方を向いた。


「何のことだ?」

「惚けなくていいわ。事件の日、ロディアスに何かされたでしょう」

「ああ、そのことか」


 本題を話しても、レオンはそんなこともあったなという感じで答えた。これにはカンナも拍子抜けする。


「そのことかって……普通は『お前のせいで!』って責めるところでは?」

「元は俺のせいだろう。不可抗力とはいえ、お前に痣を作ったんだからな」

「え……なに?どうしたの?」


 ローラとなって初めて言い合った頃よりも話が分かるレオンに、カンナはつい素が出てしまう。いったいこの数日で何があったんだ……?と疑問符が飛ぶカンナに、レオンは居心地が悪そうに答えた。


「……そんなに変か?俺が」

「変でしょ。だって私からしたら貴方の第一印象最悪よ?私がというか、ローラさんが何か言う度に突っかかって来て『なにこの最低最悪のクソ兄貴』って思ったし、いつも頭から怒鳴りつけるみたいな言い方ばっかで『こんな奴がローラさんの兄とか信じられない』ってずっと思ってたから」

「お、お前、遠慮なく言い過ぎだろ……」

「言い過ぎたくもなるわよ。今までローラさんのこと気にもしなかったような人が、急にそんな態度になるんだもの。いったいどういうつもりなの?」


 こうなったら直接聞いた方が早いと、カンナはレオンにそう聞く。どんな心境の変化があったのか知らないが、自分達の邪魔になるようなら警戒する必要がある。

 すると、レオンは少し悩んだ後、真っ直ぐカンナを見つめた。


「……自分が無能であったと、ようやく気付いたんだ」


「え?」


 そう答えたレオンの顔には、後悔が滲み出ていた。レオンは、自分の事ばかりでローラに何もせずにいた無能な自分についてを話し始めた。剣の才能がなかったこと、ロディアス達からローラを守らなかったこと、何者にもなれていない無能のくせに偉そうな態度だったことなど、全てを話した。カンナは、それを黙って聞いていた。



「ローラに許されようなどとは思っていない。俺は一生恨まれても仕方ない事をした。だから、ローラが死にたいと願ったのなら、俺にはそれを邪魔する資格はない」

「……」

「だが、貴方への非礼の数々を詫びさせて欲しい。本当に……申し訳なかった」


 

 馬車がもうすぐ学園に到着する頃、レオンは最後にそう言って頭を下げた。

 ローラがあれほどの重傷を負って初めて気付くということは、レオンにとってあれ以下の怪我は日常茶飯事だったと分かる。

 カンナは、だからロディアス達に嘘を吐いたのかとやっと理解した。


「その言葉、受け取ってあげるけど、ちゃんと胸に刻みなさいよ。貴方はローラさんが死を選んだ一因なんだから、最期の瞬間まで彼女の事を忘れずに生きなさい」

「……ああ」


 だとしても、加害者であった事は変わらない。いくら今後悔していても、レオンにはそれに気付く瞬間が何度もあった筈なのだ。それを無視しておいて、今更気付いた反省してるなんて、カンナからすればそんな都合の良い話があるかと言いたくなる。意図的にローラと離されて会話すらできなかったルイよりも、レオンの方がタチが悪いのだ。これくらい言っても許されるだろうと、カンナはレオンにそう厳しく言い放った。

 

 そんなやり取りをしていると、馬車が止まった。学園へ到着したようだ。

 御者が扉を開けるまでの間、カンナは外の様子を確認した後、改めてレオンに目を向ける。


「邪魔しないって言ったわよね?じゃあ、私に大人しく利用される覚悟はある?」

「は……それはどういう?」


 困惑するレオンに、カンナは身を乗り出してそっと耳打ちする。そして用件を伝えるとレオンの目が大きく見開かれた。


「しょ、正気か……!?」

「正気じゃなきゃこんなことお願いしないわ」


 カンナがニコリとレオンに悪い笑みを見せた瞬間、馬車の扉が開かれた。


「それじゃあ、お願いしますね。レオンお兄様」

「……ああ、分かったよ」


 ローラに切り替えたカンナにそう言われ、レオンは頭を抱えつつも腹を括ったようでその提案に頷いて見せた。

 そうして馬車を降りた2人は、そのまま別れて各々で教室へ向かう。


「見て、シュバリエ嬢よ」

「まぁ、本当に綺麗に治ったのね」

「さすが神官様の治癒魔法……」


 カンナは、周囲がざわつくのを感じ取りながら歩く。どうやら初めて来た時よりも悪意のある言葉は少ないらしい。あの転落事件で随分大人しくなったものだと、カンナは彼等にワザとらしく会釈しながら教室へ向かった。

 教室へ入ると、クラスメイト達の視線が一斉にカンナへ向いた。


「ご機嫌よう。皆さん」


 カンナがそう言うと、彼らは気まずそうに視線を逸らした。


(態度変わりすぎでしょ)


 そう思いながら席につく。周りはヒソヒソし始めたが、今ここにはラヴェナとその取り巻きはいない。直接絡んで来る人間がいなくなって気が楽になったなと思いつつ、カンナは勉強に集中した。

 そうして午前中の授業が終わり、食堂へ向かうまでの間は特に何も起きずに終わった。


(なるほど。今日は何もしない日って事ね)


 周りの生徒達の反応や、逃げるような視線を見ていればカンナでも流石に察しがついた。

 ローラの見舞いに来ていたロディアス達の会話であった通り、今日は所謂()()()()日のようだ。


(今日はまだロディアス達を見てないな……)


 食事を食べながら、カンナは視線だけを動かす。ロディアス達は3人とも金髪にルビーの目をしている。他の生徒達よりも目立つ容姿をしているにも関わらず、廊下でも食堂でも彼等を見つけられなかった。


(てっきりロディアス達が出しゃばって、文字通り甘やかしてくるのかと思ったけど……今日はそんな気分じゃないのか?)


 そう考えてしまうが、いやそんな訳ないか……とすぐに考え直したカンナは料理を口に入れる。今日はゆっくり食べても邪魔されないようだ。


(でも、それ以外はいるんだよなぁ……)

 

 この学園の食堂は広く、長いテーブルと椅子が多く配置されている。今カンナが座っているのはテーブルの端辺り。

 そしてカンナが視線を向けた先には、隣のテーブルにいる茶髪の男子生徒と、カンナと同じテーブルの反対側の端にいる銀髪の男性生徒が映った。2人とも普通に食事をしている。


()()がこんな近くにいるとはね)


 そう、カンナは学園に来た初日に監視がいる事を見抜いていた。その時の監視の容姿を覚えており、今この場で改めて確認したのだ。


(相手はこっちが気付いてることに気付いてない……やっぱりローラ・シュバリエは監視に気付かないって思い込んでるみたいね)


 今日の行動は監視によって報告されるのだろう。だったら、それを利用するまでだ。

 そう思った矢先、カンナの目に燃えるような真紅の髪が見えた。


(……いた)


 カンナは急に席から立ち上がり、その人物の元へ駆け寄った。



「すっ、スカーレット嬢!」



 慌てて声をかけたように見せる演技をしながら、カンナはスカーレット嬢──ロザリアの名を呼んだ。


「シュバリエ嬢……?」


 突然のことに驚いて固まっているロザリアに、カンナは間髪入れずに言った。



「わ、私ッ……その、好きな殿方ができまして……あのっ、どうかスカーレット嬢にお話を聞いて欲しいのです!」


「は……?」



 ワザと支離滅裂な感じでそう言ったカンナに、ロザリアの顔が不快そうに歪んだ。周りの生徒達もなんだなんだとザワつき始めた。だが、カンナは臆する事なく話を続ける。


「こんな話、他にできる方もいなくて……同じ公爵令嬢であるスカーレット嬢なら、相談に乗ってくれるのではないかと思ったんですけど……」

「どうして私がそんなことを?貴方と違って、私は忙しいのよ!」

「分かっています!でも……あの、どうか聞いてほしいのです」


 縋るようにそう言うと、ロザリアの眉間に皺が寄った。良い反応をしてくれるなと思いながら、カンナは胸の前でギュッと両手を握っていかにも「今から頑張って言います」という姿勢を取った。


 


「私、ロディアス様の婚約者候補を辞退したいのです」




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