第26話:精神世界
「ローラさんの身体はシュバリエ家に運び込まれたんですね」
「ええ。神官に治癒魔法をかけられたあと、ここへ運ばれました」
精神世界から見えるローラの身体は、シュバリエ家の自室に寝かされている。頭の傷は癒え、顔色も良くなっている。
「また暫くは作戦会議できそうですね」
「そうですね。この状態なら、3日くらいは目覚めなくても大丈夫かもしれません」
「それじゃあ作戦会議といきましょう!」
意気揚々と、2人は次の作戦を考えることにする。
「それにしても、ラヴェナは良い生け贄になってくれましたね!」
「ええ。お陰様で、周りの生徒達のほとんどがロディアス様達に従っているのが分かりました。あの自己保身に走る言葉の数々は、なかなか滑稽でしたよ」
「ローラさんがそこまで言うならめっちゃ良い表情してたんでしょうね」
「この世の終わりみたいな顔でした」
「え〜見たかった!次はちゃんと相手の顔が確認できるくらいで死にに行こうかな」
「ふふ、カンナさんって本当に面白い方ですね」
ローラが笑って見せると、カンナは「これでも真剣なんですよ」と真顔で答えた。カンナだって、顔面蒼白になった加害者達を見たいのだ。
「あとは、神官の高等治癒魔法は飛び降りた傷も治せると分かりましたが、今回は2人がかりで必死にかけていたので、もしかすると重傷者にはそれだけの人数が必要になるのかもしれません」
「今までは1人だったんですか?」
「私の場合は1人が多かったですね。ただ、カンナさんに出会うキッカケになった飛び降りは1人来た後に、また1人来ていたと思うので……実質2人来ていたような感じでしたね」
「なるほど。今回でそれが明確になった訳ですね」
「恐らく」
そうやって得た情報を整理していくと、ローラが険しい顔付きになる。
「ですが、次を試す為に大きな怪我を負うのは難しいですよね?何度も同じ事が繰り返されたら、ロディアス様やレイファス様でも違和感を持つかも……」
「確かに。慎重に見極める必要はありますね。でも……それで死んだら死んだでこっちの勝ちでは?」
「……気にする必要はないですかね?」
「……いや、ロディアスとか先回りしてきそうな感じありましたし、レイファスも頭良いので気にする方向でいきましょう。私達は最終的に死ねれば良いですけど、それを邪魔されたら元も子もないですからね」
「監禁なんてされたらいけませんもんね」
「監禁……ッ!あり得る……!」
次から次へと2人は考えを巡らせる。相手は権力者で下衆な王子達だ。いつどこで何をされるか分かったものではない。だから、考えられる可能性は全て出しておくに限るのだ。
そうして暫く話していると、カンナがふと疑問を口にした。
「そういえば普通に喋ってましたけど、この精神世界への行き方ってまだよく分かっていないですよね?」
「確かにそうですね。今までだとカンナさんが寝落ちした時と、突き落とされて意識を失った時くらい……ですよね」
「疲労が関係あるかはまだ調査する必要ありますけど、やっぱりはっきりさせたいですよね〜」
そうカンナが零したのはこの精神世界への行き来についてだった。現状眠ったり、意識を失ったりで来れているカンナは、明確な条件がありそうだが今はまだ情報が少な過ぎると頭を悩ませる。それに対して、ローラも腕を組んで考える。
「分かりやすい何かがあればいいのですが……」
「うーん……あっ、ローラさんって、いつも私を起こしてくれるじゃないですか。その時って何か起こります?」
「えっと、カンナさんがここへ来る時は、淡い光が出てきますね」
「淡い光?」
「ええ。今回の場合だと私がここにいたら、そのすぐ傍に光と共に現れるんです。光が消えると、そこにはカンナさんが眠っていて、それを私が起こして……という感じです」
「急に現れる感じですか?」
「急に現れますね。あ、でも……カンナさんが眠ったり、意識を失ったりする姿は私にも見えるので、眠ったと思った時には光が出てくるって感じです」
「なるほど……」
明確なヒントには繋がらないか……とカンナはまた難しい顔をして考え込んだ。ローラも一緒になって、他に何かなかったかを考える。
その時だった。
『ローラの見舞いに来てくださってありがとうございます』
「ッ!?」
「ッ!レオンお兄様の声?」
静かだったローラ部屋に、突然レオンの声が聞こえてきたのだ。2人は反射的に静かになると、改めて部屋の様子を窺う。
部屋に現れたのは、レオンだけではなかった。ロディアスとレイファス、そしてザイラスの3人もレオンに続くようにローラの部屋へ入って来たのだ。
「うわ、出た」
「…………」
元凶の登場にカンナはあからさまな反応をし、ローラは無言で彼等を睨みつけた。
『いや、寧ろこちらが迷惑をかけてすまなかったね。レオン』
『いえ……今回は事故のようなものですし』
『事故だとしても、レイブン伯爵令嬢を制御しきれなかった私の責任だよ。彼女があそこまで無能だとは思わなかった』
申し訳なさげにロディアスが言うのを、カンナはイライラしながら聞いていた。
「いやいや、全部お前が嗾けたせいなんだけど?マジでムカつくこの下衆王子」
と、ついそんな言葉が出るくらいにはカンナは苛ついていた。ラヴェナが復帰したばかりのローラに異様に絡んでいたのは、どう見てもロディアスの指示があったからだと、カンナは気付いているのだ。
レイファスが主に指示している教師陣は今回なにもしてこなかったし、ザイラスによる怪我に繋がるような指示も少なかった。
あの学園内で異様に目立ったのは、ラヴェナによるローラへの罵詈雑言。そんな事が指示できるのはもう、ロディアスくらいしかいない。
『本来なら、私が彼女の助けに入る予定だったのに……こんな痛々しい姿になってしまって』
『で?あの貧乏令嬢はどうしたんだよ?ロディ兄』
『王宮の地下牢に入れたよ。取り巻きやあの場にいた人間全員ね』
『全員って……相変わらず容赦ねぇな』
『ローラを突き落としたんだ。それくらいの罰は必要だよ』
「なんか全体的にラヴェナのせいにしてるのクズ過ぎるんだけど……って、ローラさん?」
牢に入れられたのは気の毒だが、ラヴェナもラヴェナだし、元はと言えば元凶はロディアスだ。
その事に対してローラへ同意を求めたカンナだったが、ローラはただただ目の前の光景に釘付けになっていた。
「カンナさん……これってチャンスではありませんか?」
「え?……あっ!そうか!」
ローラの言葉に一瞬首を傾げたカンナだが、目の前に広がる光景を見てすぐに理解した。
今、部屋には眠っているローラの身体と、協力関係にある4人しかいない。
「恐らくですが、ロディアス様達はこの場で本性を現すはずです。私が意識不明の状態ですから、それを本人に聞かれる心配はないと油断しているんです」
「確かにそうですね!今なら敵側の情報も手に入るかも……!」
そうして2人は、4人の様子を見守る体勢に入った。
ロディアス達はベッドを囲むように位置し、レオンは少し離れた場所に立っている。
『ああ、ローラ……私がすぐに助けに入っていれば……』
「ロディアスのこの顔嫌いです私」
「私もです」
『ロディ兄、なんで今日はあの貧乏令嬢を大人しくさせなかったんだよ』
「ほんとそれ。ヤバすぎるよこの男」
交わされる会話に、2人は遠慮なく非難の言葉をぶつける。
『学園がどういう場所かを再確認させる為だよ。ここに自分の居場所はないと思わせなきゃいけないだろう?』
「なんて卑劣な……」
「ローラさんがドン引きしてる……」
『ハァ……全く、私達も気を付けねばなりませんね。駒が暴走してしまっては、対処し切れませんから』
「その駒を一生動かさないでくれると良いんだけどね!」
「どうしてやめるという発想が出ないんでしょうか……」
理解できない会話の連続に、2人は頭を抱えるしかなかった。
だが、やはりこの状況は2人にとって都合が良かった。少しでも情報を得る為に、カンナとローラは彼等の会話に集中するのだった。




