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第24話:凄いわ

「……ッ!……ナさん!…………カンナさんッ!しっかりして下さいッ!」

「んん……?」


 ぼんやりとしたカンナの視界に映ったのは、心配そうな顔をしたローラだった。


「ローラさん……?あれ、私……」

「ッ!カンナさん!」

「わっ!」


 抱き付いて来たローラに、カンナは驚いて目が覚めた。


「あ……そっか。ここ精神世界?」

「そうですよ!嗚呼、目が覚めてよかったッ!」

「すみません。ご心配をおかけしました」


 カンナは申し訳なさげに謝ったが、ローラは「いいえ、大丈夫です」と笑ってみせる。そしてカンナの手を取って、ローラは心底嬉しそうに微笑んだ。


「また会えて良かった」

「私もです」


 また無事に出会えた事に、2人は喜んだ。そして次の瞬間ローラは、キラキラした目になった。

 

「カンナさんは凄いです!どうやったらあんな風にできるんですか!?私にはない発想ばかりだと思っていましたが、まさかあのように実現させてしまうなんて……!その勇気と度胸、尊敬します!」


 興奮気味なローラにカンナは少し面食らうが、ローラがここまで楽しそうなのを初めて見るので嬉しくなってしまう。


「アハハッ!私もビックリですよ!あんなに上手くいくなんて思いもしませんでしたもん!ちなみにローラさんの身体って死にました?」

「それが……まだ死ねてないんです。神官の到着が思ったよりも早くて」

「マジか〜!まぁ、流石に飛び降りくらいじゃ死なないか」


 残念。と2人は未だに身体に繋がれた足枷を見て肩を落とした。ローラが屋敷から飛び降りた時も助かっていたのだ。今回もその時と同じなのだろうと。

 

「植え込みがクッションになったのと、ザイラス様の応急処置もありましたから、その分余計に生存確率が上がったようです」

「あー……確かザイラスは武術を得意としてる肉体派王子でしたもんね。怪我の処置も分かるのか」

「ええ。私もそこまで出来るとは知りませんでした……簡単な手当てをされる事はありましたけど」

「でもそれって、ローラさんに触りたいからでしたよね」

「正直心底気持ち悪いです」

「おっ、言うようになりましたね」

「ふふ、強くなると決めましたから」

「良いじゃないですか」


 その調子ですよ。と笑うカンナにローラも悪戯っ子のように笑って見せた。


「それにしても、まさかレイブン嬢を罠に嵌めるなんて……」

「いや〜最初は誰でも良かったんですけどね。急遽ラヴェナに変更しました」


 カンナがワザとラヴェナに突き落とされたのは、最初からそういう計画を立てていたからだった。

 まず最初に2人で考えていたのは、誰かを利用してワザと階段から落とされるという計画だった。そこで重傷を負った振りをして死にかける演技をしたら、ロディアス達や周りの生徒達がどのような反応をしどんな行動を取るのかを確かめる為に。

 ローラ・シュバリエをこの世界から消す事を目標としている2人は、この世界で確実に死ぬ為にまずは敵の動向を知る必要があった。神官の治癒魔法がある以上、生半可な死に方ではいけない。できるのならば即死が一番。だから彼女達は情報収集をする必要があった。

 逆に利用できる人間はいないか。

 治癒魔法の限界はあるのか。

 即死できる可能性が少しでも高くなる方法はあるか。

 そんな様々な情報が必要だったのだ。

 

「でも、どうして回廊に変更されたんですか?仮にレイブン嬢に突き落とされたとしても、階段でも効果はあったと思うのですが……」

「えーっと、色々考えはしたんですけど、一番の理由は……」

「一番の理由は?」

「ラヴェナがローラさんの事を馬鹿にし過ぎてたからですね」

「え?」


 そう。カンナはラヴェナに絡まれても平気ではあったが、彼女のあの随時小馬鹿にしたような言動には腹が立っていたのだ。なにかと口を出しては「出来損ない」「無駄」「さっさと消えろ」という罵詈雑言が絶えなかった。

 だからカンナは、あの回廊と下の庭園を見てここだと思ったのだ。他の生徒達にとっての憩いの場……つまり目撃者を確実に確保できる絶好の場所だったから。

 あとは、懲りもせずに絡んで来るだろうと、目立つ場所でラヴェナを待っていれば彼女はすぐに現れた。そして少し煽ってやったら、ラヴェナは案の定激怒した。ラヴェナがカンナを勢い良く突き離した時、カンナはこんなにも上手くいくとは正直思っていなかった。どう見てもラヴェナが突き落としたようにしか見えない状況は、カンナからすれば狙い通りのシーンだった。あの青褪めたラヴェナの顔は、カンナがスッキリしてしまうくらい最高の表情だった。

 これで身体が生きていたら動向の確認をするし、死んだら死んだでこっちの勝ちでもある。そう思ってカンナは3階から落ちたのだ。


「そういう感じで、ラヴェナを窮地に追い込んでやる計画に変更しました」

「なるほど!そういう感じだったのですね。ローラ・シュバリエがレイブン伯爵令嬢によって殺されたとなれば、私はこの世界から消えることができて、レイブン嬢は殺人犯という犯罪者となって報いを受ける!」

「その通りです。まぁ、実際ラヴェナは激怒したロディアス達に殺されて人生終了でしょうけどね」

「ふふ、確かに。それにしても、レイファス様とザイラス様のあの焦りよう……ちょっと面白かったです」


 そう言って思い出し笑いをするローラ。

 

「大慌てだったでしょうねぇ〜!私も見たかったなぁ!」

「是非見て欲しかったです。あとから来たロディアス様なんて、見たことないくらい顔色が悪くて……!」

「え〜!見たかった!」


 アハハッと笑い合う2人だが、その内容は無邪気にする話ではない。

 3階から落ちて重傷を負ったというのに、2人にはそんな些細なことなどどうでも良かった。今はただ、計画が上手くいったことが嬉しくてしょうがないのだ。


「ロディアス達は、まさか自分達の駒によってローラさんが殺される事を想定していないでしょうね」

「逆らう人間なんていないと思っていたのかしら、私が死ぬ方法なんていくらでもあるのに」

「王族だからそう思っててもおかしくないんじゃないですか?まぁ、他人をコントロール出来ると思ってるのがそもそもの間違いですし」


 これだから王族はと呆れるカンナに、ローラはクスクスと笑う。


「でも、今回でその認識を改めるかしら?」

「改めて欲しいですし、別に改めなくても同じことすればいいですからね」

「ふふ、今度は誰にするんですか?」

「ローラさんを虐めた奴なら誰でも」


 そうやって歪なやり取りをする2人。

 そう。何もローラ・シュバリエを殺す方法は自殺だけではない。殺人や事故だってあり得るのだ。ローラの周りにいる全員がその事を忘れている。

 ローラが死にたがり令嬢と呼ばれているのは、彼女の自傷行為と自殺未遂によるものからだ。だから皆、ローラは()()()()()()()()()()令嬢なのだと勘違いしている。彼女が、他人を巻き込まない、巻き込めない性格だと知っているからだ。

 だが、今ローラの身体に入っているカンナは違う。彼女こそ、この世界にとってのイレギュラー。ローラの為に、彼女はローラの振りをしながら、他者を巻き込んででも死ぬ覚悟を持った女だ。

 今回は失敗したが、また次がある。死ぬことができるのなら、何度でも試す事ができるのだ。


「カンナさん……」

「はい?」


 そんな風に喋っていると、ローラが真剣な表情になった。その顔を見て、カンナは姿勢を正す。

 

「あの、ルイのこと……ありがとうございました」


 ゆっくりと頭を下げるローラに、カンナは笑って見せる。

 

「どういたしまして。でも、あれで本当に良かったのかなって思いましたけど……」


 少し不安気に言うカンナに、顔を上げたローラは優しく微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ。カンナさんは、ちゃんと私のお願いを聞いて下さいました。ルイに対しての言動も、とてもしっかりしていました。それなのに私は……カンナさんにお願いして良かったと思うと同時に、自分で話に行く勇気がなかった事を恥じました」

「ローラさん……」

「ルイの言う通り、私もルイと話をする努力をしませんでした。周りの言葉にばかり気を取られて、肝心な部分を見ていなかった」


 ローラは、ルイが覚悟を持ってあの場へ来た事をとても嬉しく思った。そして、その覚悟を持てず、姉として何もしなかった自分が恥ずかしかった。立派になった弟の姿を見て、ローラは自分も強くならねばと改めてそう思ったのだ。

 

「カンナさんのお陰で、私にも色々と反省すべき点があった事に気付けました。本当にありがとうございます」

「いえいえ、私はなにもしてませんよ。ローラさんなら気づいてくれると思ってましたし、ルイくんもしっかりしてましたから」


 感謝を伝えるローラに、カンナは謙遜しながらそう答えた。ローラは、そんな風に自分の手柄をひけらかさないカンナを尊敬していた。ルイとの対話も、ラヴェナを嵌めた時も、カンナはローラの代わりとして行動してくれた。並大抵の人間では、誰かの代わりになってそんなことはできないだろう。


「……カンナさん、貴方と出会えてよかった」


 ローラは、この出会いに何度目か分からない感謝をした。

 例え誰かにそれは間違っていると言われても、ローラにとって、こうしてカンナといる時間は自分を何度も殺さずに生きていけるかけがえのないものだったのだ。

 

 この先自分がどうなろうとも──




 ──カンナが一緒なら、ローラはどうなっても良いとそう本気で思っているのだ。

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